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私的哲学

趣味から離れた話

作者: 羅志

 最近、素直に謝るようになったと、職場の人間に言われた。

 自覚はある。けれど、複雑な気持ちになった。

 私が素直に自分の非を認めることが出来るようになったのは、自分の気持ちがささくれ立つことが減ったからだ。

 少し前まで、私は精神的に不安定だった。安定している状態がよくわからないので、今がそれだと言えるのかはわからない。けれど、少なくとも、あの頃よりは落ち着けていると自負がある。


 自分の気持ちが不安定になる原因は分かっていたので、そこから暫く離れることにした。

 そうしたら、かなり、落ち付いた。妥当な結果だと思う。原因が正しかったのだとも、思う。


 私が不安定になっていた原因は、主に、趣味関係のことだった。

 私は趣味でTPRGを嗜んでいた。生憎、現実でそれを共に遊べるような友人がおらず、そもそも友人と呼べる相手がいない私は、当然のようにオンラインセッションでそれを遊んでいた。

 楽しかった。楽しかったけれど、だんだんと寂しくて、つらくなった。

 よく遊んでくれる相手はいたが、その人には私よりも仲の良い相手がいて、その人らが遊んでいる光景をSNSから眺めているだけなのが、とても悲しかった。仲間に入れて欲しい、そういえば入れてもらえたのかもしれないが、それを言い出す勇気が私にはなかったし、それを言うことで相手らの空気を壊して嫌われることが怖かった。

 自分から「あのシナリオに行きませんか」「これで遊びませんか」と声をかけることが怖かった。自分がゲームマスターをして楽しませてあげられるのかわからなかった。実際にやった時、楽しいと言ってくれはしたけれど、それが本心なのかは当然わからないし、何より、頑張ろう、頑張りたい、と思うたび、自分の中で何かがから回って、苦しかった。

 私と周囲との、空気の違いが苦しかった。当然の話だけれど、私と相手は全てが全て、同じことを知っているわけではない。同じことを知っていても、同じことを感じるわけではない。私にとって平気なことでも、相手にとってはそうではない。すり合わせをしたくとも、それがうまくいかないことなんて当然のことだ。私の言動が相手を不快にさせ、それを謝罪する為の言葉を選んでいるうちに、相手と別れることになったことがあった。

 色々と、積み重なっていたのだと思う。私はある時から、TRPGに関わることが恐ろしくなって、頭が回らなくなってしまった。必須ではないとはいえ、TRPGをする際には立ち絵を用いることが多い。私も自分で立ち絵を描いていた人間だが、絵を描くことさえ上手く出来なくなってしまった。

 完全に縁を切った時が怖くて、寂しくて、アカウントなどはそのままにしているけれど、私は「精神が不安定なので暫く離れます」とだけ言って、そこから逃げた。やっている途中の卓があったけれど、個別で謝罪はせず、逃げてしまった。


 深夜はTRPGで時間を使い、昼間は仕事で時間を使う、頭や心を落ち着ける時間が、当時の私には足りなかったのだと思う。だから、ことあるごとに反発したり、刺々しい態度しか取れなかった。正直、今もそれが抜けきらないわけではないけれど。焦ると、棘がでることは変わらないけれど。

 今も、疲れが抜けきらないのか、仕事のない日は何もやる気が起きず、ぼぅっとしているだけの時が多い。趣味のゲームなどにも集中出来ず、ただ適当にYouTubeの動画を見ているだけのような、そんな時間を過ごしていることが多い。

 落ち着けたのならば、またTRPGを遊びたい、という気持ちが全くないわけではない。またいつか、遊べたらとは思う。けれど、それに踏み出す勇気はない。勇気よりも恐怖が、自己保守が先に出てしまう。

 いっそアカウントを消して、完全に逃げてしまえば、まだ切り替えられるのかもしれない。そう思いはする。消して、リセットして仕舞えば、と。

 けれど、それをしたらせっかく結んでもらった縁を切ることになってしまう。私は人と接することが上手くない。下手だ。次は上手くいかないかもしれないと思うと、その縁を切ることが怖くて、ちゃんと逃げることも出来ない。

 逃げたいのに逃げたくて、逃げたくないけど逃げている。優柔不断だと、強く思う。そういう自分を、ちゃんと変えようと思わない甘ったれな自分が嫌いだ。


 いつか、またあの楽しい時間を味わいたい。戻りたい。

 けれど、味わった時、それに溺れて、また、頭と心が疲れて、人に迷惑をかけてしまうぐらいなら、そんな楽しいに近づいてはいけないのかもしれないとも、思う。

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