表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

第8話:私の靴を磨くな!? 王族直属なのに床掃除まで!?

朝、部屋を出ると、私は妙な違和感を覚えた。


(……なんか、床がやたら光ってない?)


離宮の廊下は石造りで、古びた印象のはず。

それなのに今朝に限って、やたらとピカピカしている。

まるで、宮廷舞踏会前夜の大広間みたいに――いや、違う。ここまで丁寧に磨かれた床、私は王城のどこでも見たことがない。


「……カイン?」


「はい」


すぐ背後から現れる影騎士。

いつものことながら、全く気配がない。


「まさかとは思うけど……床、磨いた?」


「はい。お嬢様の靴が汚れないように、廊下から階段、寝室前まで清掃を済ませております」


「えっ、全部!?」


「はい。……今朝は、夜明け前から動いておりましたので」


「なんで!? どうして!? あなたって王族直属の影兵じゃなかったの!?」


「今はお嬢様直属です」


即答だった。

真顔で、躊躇なく。


「……じゃあ、この靴、もしかして」


「お磨きしておきました」


「ぬかりない……!!」


白いブーツが、まるで新品のように光っている。

でもこれ、昨日の夜に脱ぎっぱなしにしてたやつよ!? 泥跳ねまであったやつ!!


「それって……あなたの仕事じゃないよね?」


「お嬢様に関することは、すべて私の仕事です」


「それ言い出したら全部やっちゃうじゃない!」


「そのつもりです」


「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」


私は思わず頭を抱えた。


「あなた、一応は王太子直属の影だったんだよね? そんな由緒ある立場の人が、床磨いたり靴磨いたりって……誇りとかプライドとかないの!?」


「ありますよ。お嬢様に仕えるという誇りが」


「うわあああああああ!! 正論すぎて反論できないやつ!!」


ズルい。

この人、毎回核心を突いてくる。


しかも、それが全部“愛情”と“忠誠”に裏打ちされてるから、どんなに突飛な行動でも正当化されてしまうのだ。


「……あのさ。普通は、そこまでされると、ちょっと怖いと思わない?」


「そうでしょうか」


「思うでしょ!? 朝起きたら床ピカピカ、靴ピカピカって、なにそれ新婚生活!?」


「……新婚生活の予行練習かと」


「しなくていいからァァァ!!」


お願いだから、先走らないで。

ていうか、気づいてる? あなた、確実に“恋人ごっこ”じゃなくなってきてるからね!?


完全に「旦那様ごっこ」入ってきてるからね!?


* * *


「それにしても、最近のお嬢様は、よく笑うようになりましたね」


「え……?」


「離宮に来たばかりの頃は、緊張されていたようですが、最近は笑い声も増えて……何より、目が柔らかくなりました」


「…………」


確かに、そうかもしれない。


カインの溺愛は迷惑で、過剰で、常識外れで、時にストーカーっぽくもあるけど……

それでも、ここに来てから一度も孤独を感じたことがない。


朝起きて隣に誰かがいて、夜には優しい声で眠れと言われる。


心が凍える暇もないくらい、愛情が注がれて――


「……慣れって怖いわね」


「え?」


「……なんでもない」


私は思わず笑ってしまった。

こんな日常に慣れ始めてる自分が、ちょっとだけ怖くて、でも……どこか嬉しかった。


「カイン」


「はい」


「ありがとう。靴、ぴかぴかで歩くのがちょっと楽しい」


「……それは何より」


カインの表情は変わらない。

でもその声には、微かに笑みがにじんでいた。


――私がもう少し素直になれたら、

きっとこの人は、世界で一番優しい“旦那様”になるんだろうな。


(……まだならないけど、ね)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ