第20話:見捨てられた聖女の村――ここに“本物”が眠っている
「……ここが、“エレーナ・ルクレール”が最後に確認された村――“聖泉第二寮区”跡地、です」
カインの言葉に、私は頷いた。
森の奥、王都から三日以上も離れた山岳地帯。
地図にすら記されていない、わずか十数棟の木造家屋が並ぶ静かな廃村。
外観は朽ち、ほとんどが崩れていたが、
それでもわかる――ここが「誰かに育てられ、そして“消された”場所」だと。
「まるで、最初から存在していなかったかのように、すべてが壊されているわね……」
「ですが、お嬢様。人の手による焼き討ちや解体ではありません」
「え?」
カインが土に指を差し入れ、ゆっくりとすくいあげる。
「これは……“魔力焼成”の痕跡。魔法で村そのものを“封印処理”した痕です。かなり高位の神殿魔導士によるものと思われます」
「つまり、“自然消滅”ではなく、“計画的な抹消”というわけね」
私は怒りを込めて、歯を食いしばった。
(リリアナ。あなたはここで、何を奪ったの?)
(そして、どれだけの人間を“消した”の?)
「……見てください」
カインが、瓦礫の中から何かを取り出した。
それは、焼け焦げた布に包まれた、小さな木箱。
私が手に取ると、微かに聖属性の残滓が漂っていた。
「これは……」
「“加護選定対象者記録簿”の一部のようです」
カインが慎重に開封し、中を確認する。
焦げて読みづらいが、ところどころに残る文字列。
そこには、確かにこう書かれていた。
《候補者名:エレーナ・ルクレール》
《属性一致率:97.4%》
《観測年:王歴672年 春季》
《加護の適正:極めて良好。聖泉との共鳴反応、異例の安定値》
《注意:精神影響不安定反応あり、他者との接触は制限すべし》
「……これは、間違いなく“本物の聖女”としての適正記録ね」
「しかも――“精神の不安定さ”を理由に、隔離されていたようです」
「つまり……リリアナにとって、彼女は“利用するだけの存在”だった」
加護を移植する方法は、正式には禁忌に近い術式とされている。
だがもし、誰かがそれを知り、実行したとすれば――
「“神の選定”そのものを、ねじ曲げたことになる」
「神託を偽り、“聖女の座”を盗んだ……」
私はゆっくりと木箱を閉じた。
「エレーナは、“眠らされている”のかもしれない」
「……?」
「力だけを奪われ、存在だけを封じられて。もしくは、どこかに隠されて……生かされているとすれば、それは“秘密を知る証人”だから」
カインが小さく頷く。
「ですが、我々がここを見つけた以上、向こうも何かしらの反応を見せるはずです」
「来るわね。妨害が」
その時だった。
――ザッ……ザッ。
森の奥から、規則正しい足音が響いた。
そして現れたのは――
「……久しぶりね、クラリス・エルヴェール嬢」
「っ……!」
かつての貴族仲間。
“断罪の日”、誰よりも強く私を糾弾したひとり――
ユーリア・フォン・ベルネッタ嬢。
リリアナを「神に選ばれし真なる乙女」と崇拝していた子爵令嬢であり、
“聖女親衛隊”と噂される護衛組織の一員だった。
「貴女がここに来ることは、最初からわかっていたわ」
彼女は、冷たい笑みを浮かべる。
「“聖女の真実”なんて追いかけて……自分が救われるとでも思ってるの?」
「いいえ、救われたいのは“彼女の方”よ」
「……?」
「リリアナ嬢が“何をしたのか”も、エレーナ・ルクレールが“何を奪われたのか”も――もう、全部明らかにする」
「だったらここで止めてあげるわ。あなたには、そこまでの“資格”はないもの」
ユーリアが魔導剣を構える。
同時に、彼女の背後から魔力装備に身を包んだ護衛たちが姿を現した。
「お嬢様」
「ええ。……この村の亡霊たちに報いるためにも、負けるわけにはいかないわ」




