第18話:偽りの聖女と、本物の遺児――奪われた力の行方
──翌朝。
王宮の一角にある“歴史典籍保管室”。
そこは、王家と神殿の双方が管理する、限られた者しか立ち入れぬ空間。
だが今回は、「聖女の加護に関する監査調査」という名目で、私たちは中に入ることを許された。
(今度こそ、証拠を見つける)
カインとともに膨大な古文書を精査し始めて、数時間が過ぎた。
「……お嬢様。これを」
彼が差し出したのは、数十年前の神殿記録――“加護選定の儀”に関する報告書。
「聖女候補……?」
「はい。聖女とは、生まれながらに“神の選定”を受けた者。通常は十年に一度、“神託”により選ばれますが――」
私は記録の一行に目を留め、息を呑んだ。
《前期聖女候補・エレーナ=ルクレール嬢、選定直前に失踪。理由不明。記録は封鎖》
「……エレーナ・ルクレール?」
「現在の聖女リリアナ嬢が選定された“直前”に、もう一人、正式な候補が存在していたのです」
「でも……なぜその事実は公にされていないの?」
「“封鎖”という文言がある以上、故意に隠された可能性が高いかと」
私は記録をめくり続けた。
だが、エレーナの詳細な情報は一切残されていなかった。
「存在そのものを、消された……?」
「ええ。ですが、ひとつだけ不可解な記述がありました」
カインは別の書類を指差した。
《この年、聖泉にて“不安定な反応”あり。観測記録に混合魔素検出。特記:光と闇の重複》
「……!」
それはまさに、今のリリアナと一致する“症状”。
「つまり……その“不安定な魔素”が生まれた年、正当な聖女候補が姿を消し、代わりに“リリアナ”が聖女に選ばれた……」
私は背筋に冷たいものを感じながら、ぽつりと呟いた。
「……彼女、奪ったのね」
「はい。エレーナ・ルクレール嬢が“本物の聖女”だった可能性が極めて高いです。そしてリリアナ嬢は、その加護を何らかの手段で……」
「奪い、自分のものにした」
そう、あの完璧な“清らかさ”の裏にある、不自然なほどの魔力。
光と闇の混在。
神託を歪めた痕跡。
そして、何より――私に対する異常なまでの執着。
(リリアナ……あなた、私の地位を奪っただけじゃない。誰かの“人生”まで奪ったのね)
「……カイン。エレーナ嬢は、今どこに?」
「記録上は“行方不明”のままですが……生存の可能性はあります」
「探して」
私は即答した。
「このまま“真実を知っている者”が黙っていては、彼女の罪が覆い隠されたままになる。私が断罪されたように、もう一人、誰かが“消された”なら……」
「それもまた、“奪われた側”の復讐を始めるべきです」
「……ええ。これはもう、私一人の復讐じゃない」
私は記録を閉じた。
「この国は、“偽り”を光で塗り固めてきた。けれど、今度はその光が“影”を照らす番よ」
「仰せのままに、お嬢様」
カインの声には、いつもと違う熱があった。
静かな激情。冷たい正義。
それは私の心と、まるで呼応しているようだった。
(待っていなさい、リリアナ)
(あなたの“綺麗な笑顔”を剥がし、その裏にある本性を、王国のすべてに曝け出してあげる)




