表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/25

第15話:王太子、あなたは本当に“彼女”を信じているのですか?

「殿下、お時間をいただき感謝いたします」


「いや……お前から話があると聞いて、正直驚いた」


王宮の一角、陽の当たらぬ書庫の応接室。


リリアナと接触した翌日、私は王太子ジークフリートに“私から”会談を申し込んだ。

まっすぐに目を見て問い質したいと思ったからだ。


(あなたは、本当に“何も知らずに”私を断罪したの?)


あの日の真実を、見極めなければいけない。


「殿下。率直にお尋ねします」


「……なんだ?」


「あなたは今でも、“リリアナ嬢を信じている”のですか?」


その言葉に、ジークのまぶたがわずかに動く。


「信じていないと……言ったらどうする?」


「その言葉を、待っていたかもしれません」


静かに告げると、ジークはため息をついた。


「……クラリス。あの時、俺は確かにお前を“悪”だと信じた。リリアナを泣かせ、貶め、邪魔をする者だと……」


「それはリリアナ嬢の“言葉”だけを信じた結果ですわ」


「……ああ。俺は馬鹿だった」


予想外の告白だった。


ジークは手を握りしめ、唇を噛みしめながら言う。


「……最近になって、ようやく気づいたんだ。あの日のお前の顔が、あまりにも“作られた罪人のようだった”ことに」


「…………」


「すべてが、仕組まれていたような気がする。リリアナを聖女として押し上げるために、“邪魔な婚約者”を排除する――そういう、なにか冷たい計画のようなものを……」


私は、胸の奥で何かが音を立てた気がした。


王太子が、“迷っている”。


その迷いは、単なる後悔ではなく、

“真実に触れてしまった者の顔”だった。


「殿下。私、リリアナ嬢と話してきました」


「……ああ。どうだった?」


「……彼女は、あの日とまったく変わっていませんでした。柔らかく、清楚で、慈愛に満ちた笑顔のまま……こちらの疑念に一切動じることなく、上手にすべてをかわしました」


ジークの目が細くなる。


「だが、それが“嘘”に見えた?」


「はい。私は“彼女は知っている”と確信しました。あの断罪劇のすべてを」


「…………」


沈黙が、しばらく流れる。


「……俺は、王になる人間だ。だから、情だけで真実を動かすことはできない」


「ええ」


「だが、仮に……もし、リリアナがその裏で何かを仕掛けていたとしたら――」


「あなたは、王として彼女を裁けますか?」


私の言葉に、ジークの瞳が一瞬だけ揺れた。


それは、“王”としての覚悟と、“男”としての情の間で、葛藤する目だった。


「……答えられない、かもしれない」


「……正直な方ですね」


「だが、確かめなければならないとは思っている。お前の疑念が正しいのか、俺の直感が狂っているのか」


「いいえ。どちらも正しいのです。あなたの直感も、私の疑念も。違う道を通って、同じ結論に辿り着こうとしている」


ジークは小さく目を閉じて、重く頷いた。


「クラリス。お前は変わったな」


「そうでしょうか?」


「以前のお前なら、“こんな穏やかに俺と話すこと”すら許さなかったはずだ」


「……変わったのかもしれません」


私はそっと、自分の胸元を握る。


(……カインが、ずっとそばにいてくれたから)


「殿下。お願いがあります」


「……なんだ?」


「彼女の“周囲”を調べてください。直接は無理でも、使用人、神殿関係者、旧貴族――誰かが何かを知っているはずです」


「……わかった」


ジークは、力強く頷いた。


「今度こそ、俺は……お前を見誤らないようにする」


「……それを、三か月前に言っていただけたら嬉しかったのですけれど」


皮肉を込めて言うと、ジークはばつの悪そうに笑った。


「だが今なら、お前を信じられる」


「……それは光栄です、殿下」


けれど私は知っている。


彼が私を信じようとする一方で、

リリアナは――その“信頼そのもの”を武器にする女だ。


甘い笑顔の裏で、彼女はまだ何も終わらせていない。


(私は負けないわ。今度こそ、真実を暴く)


(そして、すべてを“取り戻す”ために――)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ