表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

第14話:この娘、最初から私を陥れるつもりだった?

神殿の白い中庭。

リリアナ嬢は花に囲まれて、まるで絵画の中の聖女のように微笑んでいた。


「こうしてまた、お話できるなんて……夢みたいですわ、クラリス様」


柔らかく微笑む彼女の声には、毒も棘もない。


それなのに――


(……なんでかしら)


私の本能が、彼女の笑顔に警鐘を鳴らしていた。


「ええ、私も驚きました。まさか“助言役”として呼ばれるなんて」


「ふふ……。だってクラリス様、私のこと……嫌ってますものね?」


「…………」


直球だった。


でも、それよりも、あまりに“楽しそうに”言ったその声音に、背筋がすうっと冷えた。


(まるで、わざと煽ってくるみたい)


「嫌っているかどうかは別として、あなたが“特別な存在”であることには変わりありません。ですから、王都の平穏のためにも、最大限の協力をさせていただきますわ」


「まあ……なんて大人びた言葉。さすがは“令嬢教育の鏡”ですね」


「お褒めにあずかり光栄です」


この会話は、まるで社交界の舞踏会。

にこやかな笑顔の仮面で、互いに牽制し合う。


でも私は気づいていた。


──この娘、完全に私を舐めている。


そして。


(たぶん、あの“断罪”の時も……この笑顔で私を見てたんだわ)


「ねえ、クラリス様」


「なんでしょう?」


「あなたの“婚約破棄”が決まった日、泣きました?」


「…………」


「だって突然でしたもの。信頼していた殿下から糾弾されて、皆の前で……。あの時、私はあなたのこと、とっても心配だったんですよ?」


「それはそれは、ありがとうございます」


「ふふ……ごめんなさい。私、“人の感情”に敏感なんです。だから、なんとなくわかるんですよ。――あの日のあなた、まるで“処刑台に上がる罪人”みたいな顔でしたもの」


私は、拳を握りしめた。


「……あなた、まさか」


「え?」


「……あの日の“告発”、あなたが裏で仕組んでたんじゃないでしょうね?」


リリアナは、ぱちりと目を瞬かせて――


「……まあ、疑われちゃってるんですね。悲しいわぁ」


そして、可憐に笑った。


その笑顔は“清らかな聖女”そのもの。

でも、今の私にはそれがただの――仮面にしか見えなかった。


「……お嬢様」


カインが、私の背後で囁く。


「彼女……妙ですね。言葉の間に“空白”がある。嘘をついている証拠です」


「やっぱり……」


私は冷静に頷く。


リリアナは、私の問いに答えていない。

“否定”も“肯定”もせず、ただ笑ってごまかしただけ。


けれど、その“逃げ方”こそが、最も“黒”に近い。


(この娘……最初から、私を嵌めるつもりだった?)


思い返せば、彼女はいつも控えめなふりをしていた。

私の後ろに立ち、私に従う姿勢を崩さなかった。

それなのに、いつの間にか周囲の人々が彼女を持ち上げ、私は“悪役”にされていた。


まるで、見えない手で誘導されるように。


(そのすべてが、“彼女の仕込み”だったとしたら――?)


「……もう少し、お話したいのですが」


「ごめんなさい、リリアナ嬢。私、長旅で少し疲れておりますの」


私は立ち上がった。


「また後日、あらためて伺います」


「ええ。楽しみにしておりますわ、クラリス様」


リリアナは変わらず、完璧な笑顔で見送った。


けれど私の中には、はっきりとした“疑念”が芽生えていた。


あの日の断罪は、彼女が仕組んだもの。

もしくは――少なくとも、彼女がそれを“知っていた”のは間違いない。


「カイン」


「はい」


「……この件、徹底的に調べて。王太子の動き、神殿の記録、そして“リリアナ嬢が接触した人物”すべて」


「かしこまりました」


カインの瞳が、戦闘前の剣のように鋭く光る。


そして私は決めた。


これはもう、ただの“恋愛ゲームの裏側”なんかじゃない。


(これは、私を陥れた者への復讐の序章――)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ