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第13話:王都再来――ヒロインと王太子、そして“笑顔の裏”

三か月ぶりに見る王都は、見慣れたはずの街並みなのに、どこか冷たく見えた。


(……懐かしくなんて、思わないわ)


私を断罪し、笑って蔑んだ貴族たちの顔。

すべてを失わせたあの日の記憶が、通りすがりの噂話のように、胸に刺さる。


「お嬢様、離れすぎないでください」


背後から、いつもの低い声。

カインは変わらずぴたりと後ろを歩き、まるで“影”のように気配を制御していた。


けれど王都の門をくぐってからというもの、彼の気配は少しだけ鋭くなっていた。

まるで何かを探るように、周囲を絶えず警戒している。


(やっぱり、何かある……)


──王都召喚の名目は、「リリアナ嬢の護衛についての助言」。


意味がわからない。

私を断罪したあとで、いまさら“助言”を求めるだなんて。

それも聖女様を守る手段について、私に。


(裏があるのは確実ね)


そして、王宮――謁見の間。


「久しぶりだな、クラリス・エルヴェール」


出迎えたのは、私のかつての婚約者であり、この国の王太子・ジークフリート。


金の髪に青い瞳。王道の美貌。

乙女ゲームでの“本命ルート”を担う、攻略対象の筆頭――だった、はずの男。


「ご機嫌よう、殿下」


私は、完璧な礼儀と微笑みで応じる。


「リリアナ嬢の件、詳しくお話を伺えますか?」


「……ああ」


ジークの顔が、わずかに曇った。


「リリアナが……最近、夢にうなされるんだ。“誰かに見られている”“闇の中で呼ばれている”と」


「……夢?」


「最初はただの悪夢かと思っていた。しかし、神殿での祈りの際、彼女の魔力に反応して結界がひび割れた」


「魔力で……?」


「リリアナには、聖属性のはずの加護しかない。けれど……近頃、まるで“何か別の力”が彼女の中に芽生えているようなんだ」


カインが、私の後ろでわずかに目を細めた。


私は黙ったまま、彼の横顔を盗み見る。

その鋭さは、すでに“敵意の気配”を察している目だった。


(聖女の力に、何か“異物”が混ざってる?)


そして、その不安定さが“誰かに利用されようとしている”?


「……私が呼ばれた理由は?」


「彼女を冷静に観察できる者が、王都には少ない。お前はすでに聖女に心酔していないし……なにより、第三者として“信頼できる”」


「…………皮肉?」


「違う。お前は、俺が知っている中で最も賢く、冷静な女だ」


その言葉に、私は息をのんだ。


断罪された女に、今さらそんな言葉を向けるのか。

あなたが、かつて何をしたかも忘れて――


「……お気遣い感謝します、殿下。では、リリアナ嬢に会わせていただけますか?」


「……ああ。今は神殿の中庭にいるはずだ」


案内され、私は神殿へと向かう。

そして、その白い庭の中心に立つ少女を見たとき――


「……リリアナ嬢」


「……あら、クラリス様。まあ、久しぶりですね」


──微笑んだ“聖女”は、美しく、完璧で、

そしてどこか、狂気をまとっていた。


その笑顔は、天使の仮面をかぶった“何か”のように。


「あなたが、また戻ってきてくれて……本当に嬉しいわ」


「……ええ、私も、光栄です」


その言葉を返しながら、私は確信する。


(この娘は……何かを“隠してる”)


そして、あのときの“断罪”も。


(全部……偶然なんかじゃなかった)

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