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妄想注釈物語  作者:
4/11

関孝和が『方法序説』に注釈してみた件

算法の道において、余は西洋の哲を迎え撃つ。

【はじめに】

関孝和、拝して申す。


このたび、異国より伝わりし「デカルト」なる

学者の著書、『方法序説』を読了せり。


その説くところ、実に誠実、かつ厳密。

しかし、我が和算の道よりすれば、なお気の流転を捉えきれてはおらぬ。


余は本注釈において、ただ批判するにあらず。

算法の道に立脚し、彼の道を包みつつ超えることを目指す所存なり。



【一】「すべてを疑え」とは何か

デカルト曰く:「すべてを疑うことから始めよ。真なるもののみを残せ。」


余が言うならば──

「疑うはよし。されど、気を断ずるなかれ。」


我ら算法家においても、無闇なる信念は誤りを生む。

よって、「疑う」行い自体は尊ぶべき態度にて候。


然れども、西洋においては疑いを以って一切を切り捨て、

**“思考の我”**なるものを中心に据え申す。


我が道においては、

「我」は“算の中にあり”、天地の理と共に在るものなり。


疑いとは気を澱ませる毒にもなりうる。

よって、「術に還る」ための疑いのみを活かすべし。



【二】「我思う、ゆえに我あり」──されば余は?

デカルト曰く:「Cogito ergo sum」


余が曰く──

「我、算法を尽くすがゆえに、我はこの世に在り。」


彼は“思考”を万物の基礎と据える。

まこと鋭し。されど、浮きしぞ。


算法家たる余は、暦を正し、民を導く役目を担い、実務の中で我を知る。


すなわち、余にとって「我が在る」とは、

天の運行に算法を通じて参与することなり。


そのようにして生まれ出ずる我は、思考のみに由らず、

算法の業により確かめられるものなり。



【三】方法的懐疑と算法的構成

デカルト曰く:「複雑な問題は分解して、単純なものから順に考えよ。」


これもまた見事なり。

されど余の眼より見れば、分解のみでは道は尽くせぬ。


算法とは“交差と折返し”の術なり。


拙著『大成算経』においては、単純化よりもむしろ、

**「重ね合わせ」「逆算法」**といった手法に重きを置いた。


自然の理は直線ならず。

折り紙の如く、重なり、回り、また開かれて現れるものなり。


よって、「順序」より「構造」、**「簡単」より「全体」**を観よ。

それが算法家たる者の眼である。



【四】神の保証と算法の背後

デカルト曰く:「神は完全であり、その存在が真理を保証する。」


余においては、

神とは「保証するもの」にあらず、「貫くもの」なり。


デカルト公の論法は、神を論証により立てる。

然れども、余が立つは算法による宇宙の観測なり。


暦法を極めるほどに、天の理は既に息づいておる。


神を証明するまでもなく、算法の内に神は宿る。

されば証明は要らぬ、信仰ではなく、気の調律こそが肝要なり。



【五】普遍的な知を求めて

デカルト曰く:「あらゆる学問は、ひとつの方法から組み立てるべし。」


ここにおいて、

余と彼の道、最も交わるなり。


算法は万学の母。


暦を知れば農を正し、

面積を測れば土木を導き、

図形を操れば絵画を深め、

方程式を組めば天の声を写す。


余は“普遍算法”の確立を目指したが、

それはただの「統一」ではなく、“連続と変化”の技術体系なり。


よってここに申す:

算法とは、理法を通じて万物を統べる“気の音律”なり。



【あとがき】

デカルト公よ、

その精神、余は深く敬す。

されど、貴殿の道はなお、術の身体性を欠いておる。


我が和算は、ただ紙上の抽象にあらず。

**暦・構造・営み・天意を包む「術の宇宙」**なり。


余が願いはただ一つ。

算法の道が東西を貫き、気と理を結ぶ橋とならんこと。


──天元術の奥にて、拙者、そっと筆を置く──

BGM。

Squarepusher「Beep Street」。

https://youtu.be/LKJ-0ZO4pxo?si=_zVQbtxX5QCrfEDo

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