表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

翔太の夏祭り

夕暮れ時の夏祭り。屋台の提灯が揺れる中、小学生の翔太は、父親が買ってくれたふわふわの犬の着ぐるみを着て歩いていた。白いモコモコの生地に黒い耳、つぶらな瞳のフェイスパーツをつけたその姿は、まるで本物の子犬そのものだ。


しかし、しばらくすると翔太のお腹の奥がキリキリと痛み出す。冷たいかき氷を一気に食べたせいか、トイレに行きたくなったのだ。しかし、着ぐるみは頭からすっぽり被るタイプで、ファスナーは背中の一番下――手が届かない。翔太は周りに大人がいるのに恥ずかしくて声をかけられず、そっと腰に手を当てて悶絶するばかりだった。


「おしっこ…ヤバいかも…」


そんな思いが頭をよぎるたび、慌てて足をクロスさせ、壁際に寄ってみるが、限界は刻一刻と近づいてくる。浴衣姿の女の子たちが楽しそうに金魚すくいをする横で、翔太の頬は赤く染まり、目には涙がにじんでいた。


ついに限界が訪れた瞬間――


ぽたぽたぽた…。


犬のしっぽのあたりから、温かい液体がじわりと染み出し、白い生地を濡らしていく。翔太は声を上げて固まり、慌てて背中のファスナーを引こうとするも、生地は濡れて重く、指先に伝わる感触が恥ずかしさを何倍にも増幅させた。


「あぁ…もうだめだ…」


翔太は小さくつぶやき、そのまましばらく動けずにいた。やがて、背後から父親の心配そうな声が聞こえる。


「翔太、大丈夫か?」


振り返った父の目に映ったのは、濡れてくすんだ着ぐるみと、真っ赤になった息子の姿。父はすぐに近寄り、静かに言った。


「心配ないよ。着替えを持ってきてるから、すぐに替えよう」


父の優しい言葉に、翔太は少しだけ涙をぬぐい、深呼吸を一つ。父と一緒に人混みを抜け、手早く新しいTシャツと短パンに着替えると、不思議と気持ちも軽くなった。


祭りの夜はまだ長い。翔太は恥ずかしかったけれど、父に助けられた安心感と、「次はちゃんとトイレに行こう」という教訓を胸に、笑顔で屋台へと向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ