表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

Prologue 魔王、転生。

新作です。ちょっと頑張ったので、是非呼んで下さい。

「ぐっ…はぁ、はぁっ…」


 辺り一面に四散している血液と吐瀉物(としゃぶつ)。乱れる呼吸と精神、突きつけられる現実。


「ふぅぅ…これで終わりだ、魔王ガルク」


 余の目の前に立つ人間…〝勇者アイク〟は聖剣を余に向けながら、そう宣言した。


「五人の勇者相手に、ここまでやられるとは思っていなかった。まさか、他の四人を戦闘不能にするとは…だけど。もう、これで終わりだ」

「ほざけ…余が…魔王である余が滅ぼされることなど…あってはならぬっ…!!」

「っな…!?」


 苦し紛れに、最後の抵抗と言わんばかりに。余は右腕を伸ばし、尽きかけていた残滓(ざんし)程度の魔力で__


ザシュッ!


「があっ…!?」


 瞬間、余の右腕は宙を舞った。此奴の忌々しい聖剣が、危機を察知したかのように光を放ち、余の右腕を断ち切ったのだ。


「ぐあぁっ…」


 痛みから来る苦しみで悶絶(もんぜつ)する。普段なら瞬時に再生する…だが、長期戦による消耗と、聖剣による破魔の力により、余の再生機能はとうの昔に失われていた。


「危なかったな…まさか、まだそんな力を残していたとは…だけど、もう魔力は残ってないようだな」

「…おのれ…っ…」


 魔力の枯渇により、意識が朦朧(もうろう)としてきた。眼が映しだす像が不鮮明になる。


「それじゃあ、とどめを刺そうか」


 勇者アイクは、聖剣を大きく振りかぶる。


「お、ぼえて、おれ…他の魔王は、余みたいには、行かぬぞっ…」

「…それでも、俺達はこの世界を救わなければならない。それが勇者の宿命だ」

「宿命…か」


 余は、その勇者の言葉にせせら笑い…。


「哀れだな、貴様等は」

「…言いたいことはそれだけか?」


 怒りの形相を浮かべる勇者。


「…ああ。好きにするが良い」

「…なら…眠れ、〝叡智(えいち)〟の魔王、ガルク」


 刹那。その聖剣は、目が眩む程の光を放ちながら振り下ろされた。


 …聖剣が余の身体に触れる直前。押し寄せるのは後悔。余には、未練がまだ山程残っていたのだ。一つはもっと魔術の知識を蓄える、一つは優秀な腹心を手中に収める…一つは、魔族淘汰(とうた)の連鎖を終わらせる。


 余輩〝魔族〟は数百年に渡り、人間族から排斥(はいせき)されて来た。どうやら人間族は、魔族の膨大な魔力の暴走を恐れていたようだ。


 その為、人間族は勇者を養成し、余のような魔族の王、通称〝魔王〟を討とうと動いている。魔王は、余を含めこの世界で九つ現存しており、皆他の魔族とは一線を画する魔力量と戦闘能力を有している。


 それらが一度に暴走すれば、それこそこの世が滅びる。それを防ごうと、人間族は魔族の全てを滅することを目的として活動しているのである。


 余は然様な現状が気に食わなかった。ただ余は、余輩は人のように平穏な生活を欲しただけなのだ。だが余輩は〝魔族だから〟という理由のみで、滅ぼされる対象へとなった。


 だから、余は人間族に淘汰される世に変革を(もたら)したかったのだ。人間族と魔族が手を取り合い、共存してゆく世界を。


 …だが、それはもう叶わない。余は勇者によって滅ぼされる。他の魔王が、余の代わりにそれを実現してくれるだろうか。それは分からない。


 __せめて、余が望んだ世界をこの目で拝みたかった。


 然様な後悔と願望を胸に秘めながら。


 …その日、余という魔王は、この世から消えるのであった。






「…っ…?」


 余は、()()()()()で目を覚ました。


 …此処は何処だ?余は何故生きている?今の時刻は?様々な疑問が頭を駆け巡る。


 時刻は黎明(れいめい)の刻くらいであろうか。部屋はかなり広く、洋風…(つと)に読んだ書物では、斯様な部屋は人間族の間で云う〝貴族〟の部屋だ。


「…あ?」


 側に掛けられている姿見。それが視界に入り、反射した鏡に映っていたのは。


「…え、誰?」


 素の反応が出てしまった。


 白と黒の二色髪、藍の濁った双眸(そうぼう)。歳は大体百五十…ではなく、外見から人間だと推測出来る為、十五程度であろう。


「…これは、余なのか…?」


 いや、間違いなく余だ。身体の動きに合わせ、像が対の動きをしているから、余で間違いないであろう。


「…余は勇者に倒されたのではなかったのか…?」


 これも間違いない。あの瞬間の死の感覚は憶えている。ならば、何故…。


ガチャリ


「…あ、ノア様…起きていらっしゃったのですね」


 余が其方を振り向くと、変わった衣装を身に纏った女が居た。これは…所謂〝めいど〟と言うものであろうか。


 白銀の頭髪、黒の瞳。白と黒を基調に構成される衣服が、名状しがたい何かを感じさせる…気がする。


「このまま起床されるか、もう暫くお休みになられるか…どう致しますか?ノア様」


 どうやらノアというのはこの肉体の名らしい。どうやら何かが原因で、この肉体を依代として余の意識が宿ったらしい。


 全くもって難解な現象だが…取り敢えずは。


「きさ__アンタ、誰だ?」


 つい〝貴様〟などと口にしかけたが、深く考えれば、然様な口調は珍しい。魔族でも、余のような口調の魔族は片手で数えられる程度しか知らぬからな。口調は変えたほうが良かろう。


「えっ__ふふっ、御冗談を、ノア様。私の顔を忘れたとでも言うのですか?まあノア様もお年頃ですし、私を揶揄いたくなるのも分かりますが…でも、その冗談は少々私の心にも来るというか…」

「いや…本当に知らないんだけど…」

「__っ、本当ですか…?」


 目を(みは)るその女は、(いた)狼狽(ろうばい)していた。…何故狼狽されなければならないのだろうか。


「ああ、本当__!?」

「ごめんなさいごめんなさい!全く記憶にございませんが!何か粗相をしたならば、この通りですのでごめんなさい〜!」


 …余は何を見せられているのであろうか。メイド服を着た女が、余が寝ているベッドの上で涙を浮かべながら惨めに土下座をしている。


 余以外に、この光景を見た者は幾つ居るであろうか。…居るならば、少しばかり嘲笑してやることだろう。


「…あ、頭を上げてくれ…」

「ぐすっ…うぅ…怒ってませんかぁ…?」

「お、怒っていない…でも、俺はアンタのことを知らない__」

「うぅ…うぅぅっ…!」

「な、何故泣く…?泣くなよ…」

「…どうせ私なんか消えてなくなってしまえば良いんですよ…」

「そんなこと言ってないだろ…」


 此奴の情緒は一体どうなっているのだろう。先まで悲壮で嘆いていたかと思えば、次は落胆し自虐に走る。なんと度し難い…否、余に関する事になると、異常と言って良いほど愚鈍になると言うべきか。


 …って然様な事はどうでもいい、些事(さじ)でしかない。


「…取り敢えず、名前を教えてくれ…なんて呼べば良いか分からん」

「あぁ…私の名前も忘れてしまう程、私はノア様にとってどうでもいい存在だったのですね…」


 面倒臭いなコイツ。


 …このノアという小僧の肉体に宿っている魂魄(こんぱく)が余である事を赤裸々に語れば理解されるであろうか…否、此奴はノアに付き従っている。この肉体の中身がノアとは別人…ましてや魔族の王〝魔王〟などと知られたら、どうなるであろう。


 ならばそれ以外の術で、此奴の心を鎮めるしかあるまい。


 …魔術で精神を操作してみるか。そう思考し、余は女に手を翳し、魔術を扱おうとした…だが。


「…何…?」


 魔術が、出ない…?有り得ぬだろう…余が使おうとしたのは、精神操作の中でも最も初歩的な魔術であるぞ…?まさかこの肉体は然様な魔術すらも扱えぬのか…?


「…ノア様、何をしているのですか…?」

「いや…魔術を扱おうとして…」

「ノア様…ノア様には魔術の才が無いので、魔術の一切は扱えませんよ?」

「…は?」


 …え?一切も扱えないのか?


 余が知る限り、どんな人間族の小童でも、魔術の一つや二つは扱えていた。それを、既に子供とは言い難いこの肉体は、一つも扱えないだと…。


「ふふっ…あはははっ…全く、ノア様は面白いですね…少し元気が出ました」

「は、はぁ…」


 …何故か意図せず此奴を元気付けたようだ。意味の分からない女だ。






「…先程は取り乱してしまい、申し訳ございません。記憶についての詳細はお聞きしませんが…一先ず。私は、貴族ファントム家の三男〝ノア・ファントム〟様に仕えるメイド、〝ミリア・アルカナ〟と申します。今後ともお見知り置きを、ノア様」

「…分かった、ミリア。…幾つか訊きたいことがある…先ず、今の周年月日はいつだ?」

「そこからですか…現在は第1426周期、詠賢(えいけん)の年、アイルの月の15日でございます」

「は…?」

「?何か?」

「ああいや…なんでもない」


 余が勇者と闘って敗北したのは第1376周期の詠賢の年アイルの月の15日…それから丁度50周期…1000年も経っておるのか?


「それで、此処は何処なんだ?」

「メイル地方の貴族ファントム家の邸にございます。現在はノア様お一人ですが…」

「何故俺一人なんだ?」

「…」

「…?どうした?」


 ミリアは余の言葉に閉口する。何やら事情が有るようだが…。


「…お聞かせするには、少々辛いかと」

「…それでもだ。聞かせてくれ」

「…承知致しました」


 ミリアは暫しの沈黙の後…口を開いて__


「__ファントム家でご存命なのが、貴方様だけだからです」

「…ふむ…って、それって没落貴族じゃないか…?」

「然様でございます…ノア様の実力が高ければ没落まではしなかったと思いますが、生憎ノア様にはそのような抜山蓋世(ばつざんがいせい)さは微塵も無かったので…」

「平然と貶すの止めてくれない?」


 暗く重い雰囲気が台無しである。普通、斯様な悲報を言われた直後は、重苦しい雰囲気に苛まれると思ったのだが…存外そうでもないらしい。


「事実なので」

「事実でも言って良い事と悪い事があるだろ…」


 余はしわぶきをして、話の筋を戻す。


「…んで、何故俺以外は死んだ?」

「それは〝ノア様だけが生き残った理由〟を訊ねているのか〝ノア様以外の家族が亡くなった原因〟を訊ねているのか、どちらですか?あるいは両方ですか?」


 揚げ足を取るのが達者な女だ。余は短く嘆息する。


「…両方だ」

「…然様ですか…では、前者からお伝えします」


 一拍を置いて。ミリアは、その詳細を話し始めるのであった。






「…そうか。有り難う、ミリア」

「あっ…い、いえ、礼には及びません…ご家族について知る権利があるのは当然ですから」


 髪の毛を弄びながら言うミリア。…髪の毛を弄ぶのはメイドとしてあるまじき行為なのかもしれないが、その点は気にしないでおこう。


「…それで、ノア様はこの後どうなされるのですか?」

「…なら、暫くは以前までに俺がしていた生活を教えて欲しいんだが…」

「畏まりました。丁度、早朝ですしね。それでは行きましょうか」


 ミリアは、余に向けて手を差し伸べてきた。


「…いや、普通に自分で起きられるが…」

「むぅ…こういう時は、黙ってお手を取ればよろしいんですよ…」

「なんで拗ねてるんだ…ったく、ほら」


 何故か不満そうな表情を浮かべるミリアに、余は差し出された手を取る。


「ふふっ、それで良いのです」


 少し満足そうな笑みを零す。


「ノア様、先ずは朝食を摂りましょう。お食事は既にご用意してますので、食堂にご案内します」

「ああ…宜しく頼む」






「…いやちょっと待て」

「?どうかされましたか?」


 余は食堂に案内された…されたは良いのだが。


「…ミリア、この邸には俺とミリアしか居ないのか?」

「?はい、然様で」

「…この邸に出入りする奴は?」

「ノア様と私だけです」

「…俺は大食漢か?」

「いえ、少食です。もっと食べて欲しいものですね、本当に」

「だったらこの量はなんだ!?」


 食堂のテーブルには、明らかに一人や二人で食える量ではない程の馳走が並んでいた。


「私が愛情を込めましたので、()()食べて下さいね?」

「は?無理に決まって__」

「ぜ・ん・ぶ。食べて下さいね…?」


 はは、可笑しいな…余は魔王ガルクであるぞ?人間族に恐れられた魔族の王の一角であるぞ?なのに何故、妙な寒気が背筋を伝うのだ…?


「…ってかこんな量、以前の俺はどう食べてたんだよ…」

「それは勿論、私が無理矢理口に詰め__ではなく、私のお料理なら幾らでも食べられると言って食べて下さってましたよ?」

「今無理矢理口に詰めてたって言おうとしたよな?」

「ふふっ、さあ?何のことでしょうか?それより早く召し上がっては如何ですか?お食事が冷めてしまいますよ?」

「…いや、だから__」

「……」

「な、なんでもないです…はい」


 ミリアの無言の圧で催促され、気圧(けお)された余は席に着く。


「さあ、存分に召し上がって下さい…?」

「…わ、分かった…」


 …今、余の目に映っているこの女は…余が見てきた何よりも恐ろしいかもしれない。勇者よりも何よりも…恐ろしく、そして何より…()()…。






「うっ…やっと…食べきった…」


 …約一時間と三十分を費やし、(おびただ)しい量の馳走を食い終えた。…胃から逆流しそうだ。


「お粗末様です。片付けは後ほどしておきますので、次は外出しましょうか」

「…外出…?何処に行くんだ?」

「一応、ノア様はとある学園に通うことになっています。その為に必要なものを買い揃えなくてはなりませんので」

「…え、俺って学園に行くのか?」


 魔族は学園に通うことなどない。人間族と魔族では環境に差が開きすぎていた。


「はい、アルテミス魔術学園と呼ばれる…貴族アルテミス家が設立した、魔術の究極を目指す為の学園の名門です」

「ふむ…いや待て。俺には魔術の才能がないらしいんだよな?なんで魔術を使う学園に?」

「そうですね、それに関しては以前のノア様が意固地だったとしか…」

「あ〜…そうか」


 以前のノアがどのような人間だったのかが、いまいち掴めぬな…もしやノアも情緒不安定だったのだろうか…?


「…一先ず、準備をしましょう。ノア様はお支度をお願いします」


 まだ余の是非を聞かずに、ミリアはその場を後にした。…確認だが、余はミリアの主…で合っておるよな…?些か、疑問である。


「…にしても、憑依か」


 まだ、そうだという確信は無いが、余の意識がノアにある以上、この説が最も近しいだろう。


「…もう余は、魔王ではない…」


 ということは、もう〝魔王〟としての振る舞いを行う必要も義理もない…だったら。


「もうこの口調も、捨てていいんだよな」


 さっきまでのミリアへの話し方は、俺の元の口調だった。


 魔王だった時代、配下の一人に言われたんだったよな…「魔王様だったら魔王様らしい話し方が良いです!その方が素敵です!」って。


 正直に言うと、その言葉は俺にとって、少々重荷だった。魔王としての責務を果たさないといけないというプレッシャーに押しつぶされそうだったから。


 …ただ、俺はもう魔族の王である魔王ではなく、人間族。喋り方だって、人間っぽくしてもいいよな…?


「…ふっ…折角の命…やるべきことをやってもいいな」


 一旦の目標は、〝魔王()〟が望んだことを〝人間()〟が実現させることだな。その為には__


「魔族であり、魔王であり、人間である…この身体が必要だ…」


 それだけ呟き…俺は椅子から立ち上がる。


「見届けろ魔族共…俺が、この世界を変えて見せる」

1話終了です。言葉遣いがかなり難しい…。


地球の時間の構造と物語内の時間の構造はかなり違いますので、混乱させたら申し訳ございません。

(因みに日本時間で、1周期=10000日、1年=500日、1月=50日、1日=48時間)


あと、【Secret Sorcerer】の第一幕を完結するまで、この作品の更新は遅い、あるいは無いかもしれません。そこらは自分のやる気によりますので、気長にお願いします。それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ