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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幸せの空虚

作者: オト

初めまして。オトです。

こちらは短編小説になります。

これは大学の「幸福について」というテーマで出されたレポートで提出したものです。5000字前後と言われてたのですが、中々オーバーしてしまいましたね。

小説初心者ですので、温かな目そして辛口なコメントなど待ってます^^

私(高嶋朱里)は、ダンスでもセンターがよかったし、クラス代表のリレーだって走りたいし、友達や恋人にとって常に一番でありたい。どうすれば他人からたくさん見てもらえるか、好かれるか、良い評価をもらえるか。そんなことばっかり考えてる。そんな人間だ。


 いつからだろう。あぁ幼い頃…。私がまだ保育園児の時、お遊戯会に母は来てくれなかった。後に聞くと外で独身の友達とお茶していたらしい。代わりに来てくれた父がスマホで撮ってくれたビデオを見せたとき、『うるさい』の一言でテレビを消した母の姿が忘れられない。唯一私を見てくれていた父は早くに亡くなった。その日から、上手くできたらちゃんと見てくれると信じていた私は、必死に何かを頑張るようになった。しかし、2時間かけて描いた絵も、頑張って取った100点のテストもお母さんは「うるさい」とだけ言って目も合わせなかった。心に大きな穴を抱えながら、こうして今の私ができたのだろう。


 私の承認欲求は年々大きくなっていったが、私の想いとは裏腹に、なぜか友達は離れていくばかりだった。この承認欲求が行き場をなくしていた頃、最高いいね31の自撮りしかあげてないSNSに“光輝"というアカウントからDMが来た。『めっちゃ可愛いね、住んでるとこ近いし会わない?』。やっと自分を見つけてくれた人がいたことが嬉しくて即返信。初めて会った時から体の関係を持つようになったが、光輝はいつだって私を真っ直ぐ見てくれた。光輝は4つ年上で、自信があって、私をわかってくれて、かっこよくて。誕生日に一輪の綺麗な花を持ってきてくれたあの日、新しい髪型に真っ先に気づいてくれたあの瞬間。たまに叩かれたり痛いこともあるけど私が悪いし、遠慮せず怒ってくれるような関係なんて素敵だよね。いつだってかけてほしい言葉をくれた。いつだってして欲しい行動を取ってくれた。光輝は、私が初めて受けた"目に見える愛"そのものだった。毎日のように光輝の家に会いに行き、私の全てになるまで時間はかからなくて、心の穴は光輝で飽和していた。


 それから2ヶ月程経ったある日光輝から、LINEが一件。

『彼女できたから、もう会えんわ』


 私、彼女じゃなかったんだとか、その相手といつから知り合いなのかとか、裏切られたとか、そんなことよりも隣に光輝がいない。"もう会えんわ"の文字が私をえぐった。涙さえ出ない。あれ、お米ってどうやって噛むんだっけ。服着るのって右からだっけ左からだっけ。どうやって寝るんだっけ。


 次の日、なんのために私は歩いているのかわからなかったけれど、気がついたらいつも通り高校に着いていた。学校を休まないと褒められると思っていた頃の名残だろうか。何も考えず何にも意味を見出せないまま、ただ学校に行きご飯を食べて寝る茫然自失の毎日を過ごした。


 あれから何日か経った学校帰りの寒い夕暮れ道。郵便局にお金を下ろしに行こうと向かった。自動ドアが開かない。おかしいなまだ閉店10分前なのに。早く閉まったのか、ツイてないな。諦めて帰ろうとした時思わず目を擦った。前から真っ直ぐ光輝が歩いてくるのを見つけたのだ。鼓動が速まり心臓がぎゅっと締め付けられる。怒りとか、悲しみとか、そんなのじゃなくて、ただ純粋な喜びだけが湧き上がってきた。さっきの不運はこれのためだったのか。ほてった顔が熱い。

「あぁ、まだ諦めてなかったんだ、私。」

心の中でそう思った。あれは何かの間違いだったはずだ。私のことを見て、また笑ってくれるんじゃないか。そんな期待が、気づけば私の手を勝手に動かしていた。大きく手を振ると、光輝がこちらを見た気がした。その瞬間彼が走り出したのが見え、息が止まりそうになった。私の方に、駆け寄ってくる。「やっぱり…!」嬉しさで震えた声が漏れる。次の瞬間、私はその場に凍りついた。光輝は私ではなく、私の後ろにいた女に飛びついたのだ。勢いよく抱きしめ合い、笑い合う二人。彼の顔は、今まで一度も見たことがないくらい幸せそうだった。なんで…だって、ほんの数日前まで、私は光輝の一番近くにいたのに。こんな風にまるでそこにいないみたいに、私を一度も見ないなんて。いや、見ていないんじゃない。見えていない?さっきの郵便局、中に人がいて私が見える位置だったのに一度ももう閉まってますみたいなジェスチャーもなかった。思い出してみれば辻褄の合う場面が多々あり、その違和感たちが私の中に広がっていくと同時に、急に体が冷たくなった。


 その日から、世界が変わった。家に帰る途中ですれ違う人も、誰も私に気づかない。話しかけても反応がない。姿は誰の目にも留まらず、声は誰の耳にも入らない。私の存在そのものがまるで世界から消えたかのように。

「誰か…誰かいないの?私を見てよ!声を聞いてよ!」

人通りの多い交差点で叫んだって誰も見ない。ショッピングモールに入ったって物も買えないし、自動ドアも私1人じゃ開いてくれないし、煩わしく感じていた服屋の接客さえも今は恋しい。そんな日が何日も続き、承認欲求が原動力の私にとってそれは、この世で二番目に心をえぐった。


 あ…、目が、合った。心は絶望で埋まり、日々を諦めそうになっていた頃、唯一私を"見ている"人間がいた。クラスの隅に座っていた喋ったことのない男の子、佐野健太(17)だけが私の目をじっと見つめていたのだ。

「私のこと…見えてるの?」

この数日誰に話しかけても全員が無視。まぁ見えていないのなら仕方ないのだけれど、話しかけるという行為自体もう怖かった。また1人、自分を認識してくれている人はいないんだという確認をしてる感じがして。でもこの僅かな可能性を逃すことはできなかった。さっきの問いに健太は驚いたように目を見開き、頷いた。

「え、うん、見えるよ。ずっと見てた、君のこと」

世界が一気に色鮮やかさを取り戻したように眩しく見えた。これが偶然なのか奇跡なのかなんてどうでもいい。見てくれる人がいた、そのことが私を十分に救った。頬を伝うのは絶望でも悲しみでもない、喜びの涙だった。


 私は、それから毎日彼に会いに行くように学校へ急ぐ。いつ、彼までも私のことが見えなくなるか怖かったから。

「健太くんの好きな果物なにー?」

「僕、果物は唯一いちごだけ好き、なんだ。」

「意外と可愛い〜笑」

そんな他愛ない話に嬉しそうに応答してくれる彼に安堵感を感じていた。かつての膨大な承認欲求を健太1人で補うようになっていった。そうせざるを得なかった。私にとって健太くんは、存在を認識してくれる「救い」そのものだ。



 僕(佐野健太)には、自由で天真爛漫な兄さんと秀才な弟がいる。親はその2人によく関心を注いだ。仕方ない、なんの取り柄もない僕を見ていたって面白くないだろう。だからもちろん友人だっていない。


 このクラスになって初めての席で斜め前に座っていた彼女に一目惚れした。ぷつんといつか切れてしまいそうな危うさと繊細な美しさを持ち合わせていた彼女に僕は目が離せなかった。話しかける勇気なんて到底なく、遠くから眺めているだけで十分だと思っていた。ある時から彼女の様子がおかしくなった。本当にぷつんと切れてしまったのか、目に精気がなく一切笑わなくなっていた。そんな彼女の新しい姿に、僕はますます目が離せなくなった。


 あ、目が合った。今まで僕なんかに視線を向けたことのない彼女が泣きそうな顔で変なことを聞いてきた。憧れの人に急に話しかけられてテンパったができるだけ冷静に答えたつもりだ。まさか泣かせてしまうとは思わなかった。


 それからの毎日は夢のようだった。僕みたいな奴相手なのに彼女は楽しそうに、幸せそうに話をしてくれる。どうして急に僕に話しかけるようになったのか、考える暇がないくらい僕は人生で一番幸せだった。僕にとって彼女は好きな人であり、唯一の友人であり、メシアだ。人生で初めて、「自分が誰かに必要とされている」と感じることができたんだ。彼女の小さなの微笑みにも、僕の名前を呼ぶ柔らかな声も、全てがこの瞬間も僕を虜にしていく。

 


 私は健太くんとの日々を過ごすうちに、彼と話すことで、少しずつ周りの人が自分を認識できるようになっていることに気づいた。最初は一瞬だけ目が合う程度だったが、次第に自分の存在に対して反応が見られる人がほんの少しずつ増えていった。そこでやっと気づいた。世界を拒絶していたのは私の方だったんだ。周りとの接触を断ちただ黙々と息をするだけの私を日々が見捨てようとしていた頃、健太くんがまた世界と私を繋いでくれた。不治の病が治ったかのように私は人生に再び希望を取り戻し始め、それと共に光輝に再び「認識」してもらえる可能性を意味していることにも気づき始めていた。その頃からだろう。健太くんを1人の友人ではなく、光輝とまた会うための"手段"として利用し始めたのは。


  私にとって健太くんとの毎日は、最初こそ救いだった。私は気づいてた。彼が私を異性として好きでいてくれていること。重荷だとか、面倒だとか思わない。むしろ今の私にその"関心"が一番必要なことだった。でもいつも瞼の裏側にいるのは光輝の顔だった。健太くんと話していると、彼を光輝と重ねてしまう。「そういえば光輝もこうやって笑いかけてくれたな」とか、「こんな優しい言葉光輝も言ってくれたな」とか。君の気持ちに気づいていながら最低かもしれないが、君だけには話すべきだと直感的に感じた。

「ねえ、健太くん。光輝の話してもいい?」



 ある日、彼女がふとそう切り出した時、僕は心の奥に何かが刺さる感じがした。それが誰なのか知らないけどなぜか「嫌だ」と言いたかった。僕はただ小さく頷いた。


 彼女の話す「光輝」は、彼女の中で完璧な存在だった。嫉妬の感情がないと言えば嘘になるが、それでも彼女が言葉を紡ぎ、幸せそうに微笑む瞬間を、健太は何より愛おしいと感じていた。それと同時に聞けば聞くほど、彼女の心のどこにも自分がいないことを肌で感じた。重要なのは、今一緒に過ごしていること、今僕の目を見てくれていること、今僕に話しかけてくれていること。「今孤独な朱里さんには僕しかいない。"僕が"必要なんだ」そう自分に言い聞かせ続け、いつしか本当にそう思いこめるようになった。



 クラスで言うと8割方認識を取り戻した頃、私は、いつものように学校に行ったその帰りに以前光輝を見かけた道の方へ向かった。光輝はまたこの道を通るかも知れない。光輝が私を見ることができるようになっているかも知れない。そんな一握りの期待を抱きながら、ずっと瞼の裏にいた彼を探す。諦めて今日は帰ろうかと思っていた頃、見覚えのある影を見つけた。光輝だ。彼も私を見た。今度は確実に。悲願であった"再会"に一瞬の緊張が走る。

「こ、光輝!久しぶり」

一言目なんて何度シュミレーションしたかわからないが、結局無難な言葉を吐いてしまった。

「あぁ久しぶりだな」

予想外だったのか、少し間を置いて応えてくれた。明らかに苛立ちが滲んだ声と氷河のように冷たい瞳が刺さる。見たこともない光輝の表情だったが、そんな彼を目の前に、私は、心の中で歓喜に震えた。自分がどれだけこの瞬間を望んでいたか。化学反応を起こしたかのように喜びが湧き上がってくるのを感じる。私の幸せは光輝と共にあると再認識した。

「やっと会えたね…」

思わず声を震わせた。だが、彼はそんな私の喜びを横目に無言で人気のない場所に連れて行った。私の手首を握りしめる手に私に対する確かな怒りを感じる。

「ちょうど俺もお前を探していたところだ」

私の方なんて一瞥もせず、ボソッと言ったのが聞こえた。


 「なんでこんなところに連れてくるの?」

思わず戸惑いを口にすると、

「全部、お前のせいだ」

そう言った次の瞬間拳が顔をめがけ飛んでくる。気づけば地面が横にあった。

「お前が!置いてったやつのせいであいつは!全部台無しだ」

光輝は拳を振りながら途切れ途切れに話す。それは、私が光輝の家に行った時に忘れて帰ったクレンジングが彼女に見つかり、浮気を疑われて振られたと言うものだった。見たこともないくらい幸せな笑顔を向けていた彼女に私のせいで振られたとなれば、そんなの私が悪い。光輝を悲しませたんだもん。


 一心に向かう矛先は私を何度も何度も刺す。痛い、痛い。それでも私は心のどこかで笑っていた。あぁ、やっと見てもらえた。痛みが私を救うような錯覚。私は今、確かに光輝の中に存在している。もっと、もっと触れてと思ううちに彼は血だらけの拳を引いてしまった。引き留めようと伸ばした手は指があらぬ方向に曲がっていて、顔に触ってみると凹凸がない。鼻が凹んだのか他が腫れているからか。でも、痛みなんてどうでもいいくらい、まだ1秒でも光輝と一緒にいたい。そんな私を嘲笑うかのように、

「お前が悪い」 

また一言放ち、彼は振り払うようにその場を去っていった。


 翌日、今隣にいない光輝に喪失感を覚えながら、無意識に助けへの淡い期待があったのか、気づけば学校に登校していた。周りからは嫌悪の視線が刺さり、コソコソと話し声も聞こえる。そんな中健太くんだけが、こちらを見て一瞬驚いたものの、一切気持ち悪がる素振りもなく、私の元へ駆け寄ってくれた。

「大丈夫だからね。僕が来たよ。」

あぁ、また。自分は健太を利用していただけのくせに。私は健太に助けてもらう資格なんてないのに、そんな彼に期待してまた助けてもらってしまう。それにも関わらず私は今、図々しくも光輝に届かない健太くんに物足りなさを感じている。本当に最低だ。

「ごめ…んね。」

それ以上何もできず、視界は滲み足から力も抜け、最後に感じたのは、健太の腕に支えられる感覚だけだった。



 僕は朱里さんを抱きかかえ、保健室に連れて行った。昨日、最後に彼女を見たのは、学校帰り男性と2人で会う姿だった。複雑な感情にはなったが、そんな状況で彼女に話しかける勇気なんてない僕はそれを見て見ぬふりをして帰った。今思えば彼女が2人で会う男なんて光輝以外考えられない。彼女の意識が戻ると、彼女は一瞬だけ僕の方を見て呟く。

「光…輝…」

その目にはもはや僕の姿は映っていなかった。

「ここには僕しかいないのに」

彼女の手の甲に触れながらポツリと呟いた。奴に彼女を傷つけられたことへの怒りより先にこう思った自分に驚いた。


 かつて焦がれていたのは美しい彼女の容姿だった。しかし、今は目の前で傷だらけになった姿を愛おしいと思っていた。

「こんな姿の君を、誰も助けないだろうね。でも僕は、僕だけは助けることができる。寄り添うことができるよ。」

少しの間黙って、また続けて言った。

「でも…もう君は、君の目は、"僕"を見てくれないの?」

何も聞こえていないだろうとわかっていたが、朱里さんと過ごしたあの時間に縋るように聞く。でもそんな僅かな願いさえすぐに砕かれることになる。


 「光輝何言ってんのー?笑「僕」も変だよ笑てかさこないだね!学校の帰り歩いてたらすごく美味しそうなクレープ屋さんができててね!」

僕の言葉がトリガーだったかのように、彼女はまっすぐ僕の方を見ながら話を続ける。

「今度一緒に食べに行こうよ〜!光輝の好きなマンゴーもあったし絶対美味しいよ!」

僕は光輝なんかじゃない、そんな言葉はすぐに押し込んだ。気づいてしまった。朱里さんにとっての"幸せ"は安心安全な友人と過ごすそんな毎日じゃない。光輝なんだね、君には。ズキっと確かに痛んだ心は無視して少し考えた。

 

 僕は彼女の隣に居続けることで孤独な彼女の心の穴を埋めたい、助けになりたいと思っているつもりだった。それは僕のエゴだった。自分が一緒に居たかっただけじゃないか。彼女にとっての助けが光輝だけなら…。うん、彼女にとっても僕にとっても必要のなくなった"健太"はもういらない。これからの彼女の全てが光輝の幻に向けられたものだったとしても、隣で笑ってくれさえいてくれるのなら僕は、天使だって、悪魔だって、光輝にだってなる。それが僕にとっての幸せだから。


 一度目を伏せ、もう一度朱里さんを見て、完璧に笑顔を作って言う。

「"俺"の好きな食べ物覚えてくれてたんだ。可愛いな〜。絶対一緒に行こうな。」


 苦手なマンゴーのクレープを齧りながら彼女の幸せそうな笑顔を眺めていた。僕が光輝である限り未来の彼女は今と同じ笑顔でいられるのか、それとも…。答えが出るまで、僕はこの場所に居続けるだろう。

こんな初心者の作品を最後まで見てくださり大変感謝いたします。また他にも書けたら書きたいです。

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