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第11話 タルタルステーキ

 キッチンに到着し、手を洗い終えた二人は夕飯の相談に戻る。


「さて、今日は何を作りましょうか」


「ファルメルに任せるよ、ぼくは料理のこと何も分からないし」


「そうですねぇ、今日はチャチェも手伝ってくれることですし、手間のかかる物でも作りましょうか」


「何にするの?」


「タルタルステーキです」


 タルタルステーキ? あんまり聞き覚えのない単語だな……とチャチェは考えていた。

 

「タルタルステーキは、肉を叩いてき細かくしたものを固め直して、焼いたものですよ」


「なるほど、じゃあそれにしよう」


「では、昨日のメランケラスの肉を使いましょう」


 ファルメルはせかせかと使う食材を用意する。チャチェも手伝うが、何をどこにしまってあるかが分からないため、結局は親鳥の跡をつける雛鳥のように、ファルメルの後をついて行くことしか出来なかった。


「さぁ、始めましょう。チャチェは野菜を洗って土を落としてください。私はメランケラスの肉を切り分けます」


「了解」


 チャチェは言われた通り、シンクに置かれた野菜たちを洗っていく。蛇口を捻って流れ出る水が冷たくて、チャチェの意識がシャッキリとする。水は土をどんどん押し流し野菜たちの鮮やかな色が部屋の照明に光る。


「次は玉ねぎを切ってみましょうか。みじん切りはわかりますか?」


「分かる、多分」


「玉ねぎの茶色い皮を剥いて、半分に割ってから小さくなるように縦横にたくさん切ってください」


「分かった」


 チャチェは玉ねぎの皮を剥くと、空中に玉ねぎを放り投げ包丁で一刀両断した。


「……野菜はまな板に置いて、包丁をまな板へ向けて垂直に下ろすようにして切りましょうか」


「ダメだった?」


「ダメというわけではありませんが、これは戦闘ではなく料理なので、刃物を振り回すのはよしましょうか。危ないですからね」


 ファルメルはくすくすと笑いながら、チャチェに提案した。料理を手順をなんとなくは理解しているが、自分でやったことがないため、やり方が戦闘のそれになってしまっているチャチェが面白いのと、年齢はいくつかしないが、子供にをし得ているようで、微笑ましく思っているのである。


 チャチェはその後、ファルメルの指示通りに野菜を切っていった。その全てをファルメルに渡し、引き換えに切り分けられたメランケラスの肉を受け取る。


「ここからが本番ですよ。この肉を包丁で叩いてミンチにします」


「包丁で……一応聞くけど、ミートミンサーみたいなのは無いの?肉を砕く機械」


「おや、そういうものはないですねぇ。故にタルタルステーキは手間がかかるので作る人が少ないのですよ」


「そっか」


「チャチェの知識を具現化できたら、生活がとても豊かになりそうですね」


「そうかも」


 チャチェは覚悟を決めたように包丁を両手に握り締め、リズムよく交互に振り下ろす。肉を砕きながら、チャチェの以前住んでいた世界の話をした。


 蛇口を捻れば、清潔な水が流れ。LEDという炎ではない明かりが夜も明るくし、人々は離れていても会話できる通信機器を持っており、誰でもお金を払えば空飛ぶ鉄の船で移動できると。


 その話にファルメルは少女のように目を輝かせ、それは楽しそうにチャチェとの雑談を楽しんでいた。


「とても素晴らしい!その話を聞くだけで新しい魔法の着想を得られそうです!」


「そう? それはよかった。ぼくはこの知識をどう扱うかファルメルに相談しようと思ってたんだよ」


「そうですねぇ。まず、チャチェの話に出てきた時代のものは、この世界で技術として再現することは不可能でしょう。魔法で再現、というのは努力次第ではないでしょうか」


「じゃあ、封印したほうがいい?」


「信頼をおける相手に、実現可能な範囲でなら、話してもいいのではないでしょうか。幸いこの世界には魔法がありますので。人々の認知を超える奇跡は、大抵魔法と思われます」


「そっか」


「チャチェの話はとても興味深いです。ぜひこれからも聞かせてください」


「いいよ、ぼくもファルメルから色んな事聞かせてもらうから」


 そんな話をしていたら、チャチェが担当していた肉がミンチ状になっていた。そこからも、ファルメルの指示通りに、刻んだ玉ねぎ、乾燥したパンの粉、鶏卵、ミルクを混ぜて全体をこねていく。こねている中でチャチェに電流走る。これ……ハンバーグだ!と。


「ぼくの世界では、この料理ハンバーグって呼んでるかも」


「そうなんですね、世界が違えば名前も変わるのでしょうね」


 チャチェが肉を砕いている間に、ファルメルはサラダとスープを作ってしまっていた。残りはメインのタルタルステーキを焼くだけだ。


「コンロの使い方を教えますね。コンロに軽くマナを流してください、マナの大きさで火加減は変化しません。火加減はこのつまみで調節します」


 言われた通りに少量のマナをコンロに流す。するとボッと円形に火がついた。フライパンに火がつくくらいに調節し、こねたタネをファルメルと一緒に成形してフライパンに並べる。チャチェが成形した方は、少し不格好だった。


 両面に焼き色をつけ、蓋をして弱火で火を通したら、タルタルステーキの出来上がり。


「最後に昨日のシチューのデミソースをかけて、さぁ出来ましたよ。食事にしましょう」


 気が付けば夜も更け、肌寒くなっていた部屋を温めるため、今日も暖炉に火を焚べる。チャチェとファルメルはせっせと料理をテーブルに運び、全ての準備が終える頃には、部屋も少し温まり始めていた。


「では、いただきましょうか」


「うん、いただきます」


 二人は、サラダやスープを食べながら今日あったことを話し合った。チャチェはファルメルと別れた後、すぐに自然体が一番イメージ通りに、なおかつ意識しなくてもマナを制御できることに気づき、瞑想をする体制になったという。


 ファルメルは杭を六箇所に打ち込み【マナを遮断する魔法(ブラックカーテン)】を張ったこと、途中休んだ時に見た草花の話をした。


「そうだったんだ、半径二キロはなかなか移動が大変だったんじゃない?」

「そうですねぇ、飛行魔法があるのでそこまでではないですが、長距離移動は疲れますね」


 そんな話をしながら、タルタルステーキを一口食べる。ひき肉から肉汁が溢れ出し、玉ねぎの甘み、ソースのコクと相まってとても美味しく感じた。


「ハンバーグって、こんな味なんだ」


「タルタルステーキの、そちらの世界の名前でしたよね」


「うん、そう。初めて食べた」


「チャチェの世界の食材と、こちらの世界の食材は同じ名前のものなんですか?」


「特徴を見聞きした感じだと同じだと思う、まだ見ていないものは分からない」


「ではこれからもっとたくさんの食材を使って、料理をしましょう。そして、チャチェの世界の料理も再現してみませんか?」


「うん、いいね。面白そう」


 ファルメルの提案に顔を微かに綻ばせる(ほころばせる)チャチェ。その表情から、人間族らしい生活をするにあたって、料理はなかなかいい教材になると考えたファルメルであっった。

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