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『無能な聖女』としてほっといてくださいっ! 〜国外追放をどうもありがとう、クソ王子と偽大聖女様〜

作者: サクラサキ




「カリーナ・ランドール! 『無能な聖女』の貴様はこの王国に不要だ! 即刻立ち去れ!」

「そ、そんな……っ」


 アインガルド王国の王城で、今、私はこの国の王子、ジオン・エーヴィヒ・アインガルドから国外追放を言い渡された。


「ど、どうしてなのですか!? ジオン様!」

「どうしてもなにも、貴様が無能だからに決まってるだろう! それに聖女ならユフィがいる。そうだろう、ユフィ?」

「もちろんですわ、ジオン様。わたくし、ユフィ・コレットがいれば、この国の安泰は間違いなしです。それに……わたくしとジオン様は共に愛し合っているんですもの。愛があれば、どんなことだって乗り越えられますわ!」

「ユフィ……」


 ラブラブを見せつけるジオンとユフィ。

 聖女は複数人いて、ユフィも私もそのひとりだ。

 聖女のうち、最も優れた聖女が大聖女としてこの国の王子の妻になるのだが……この二人の様子を見ていると、どうやら能力に関係なく、ユフィが選ばれそうだ。


「いつもユフィに仕事を押し付け、また、聖女としての能力が著しく欠けている貴様など見たくもない! ユフィの慈悲で処刑はしないでやる! さっさと出ていけ!」


 私はユフィに仕事を押し付けたことなどない。むしろ、ユフィに「ジオン様とのお約束があるから、あとはよろしくね〜」と言われてほとんどの仕事を押し付けられている。

 ま、全部こなすけど。


「……わかりました」


 私は恭しくお辞儀をし、はっきりと言った。


「わたくし、カリーナ・ランドールはアインガルド王国の聖女の任を降り、他国へと参ります」


 その瞬間、ユフィがニィっとわらったのがみえた。ユフィはずっとジオンの妻の座を狙っていたし、私のことを毛嫌いしていたので当然とも言える反応だ。

 この国はすぐに破滅するだろう。

 自分の気持ちを第一に行動する第一王子ジオンと、よく深く責任感のない聖女ユフィが国のトップに立つのだ。罪のない民が可哀想だ。

 もちろん一番に残念なのはジオンとユフィだ。色々な意味で、本当に哀れで残念な二人である。


「では、失礼致します」


 ざわめく城を後にし、私は部屋から出た。











「あー! ついに解放されたわ!」


 快感のあまり、大声でそう叫ぶ。


「国外追放を言われた時の『そ、そんな……っ』はかなりいい演技してたと思うのよね〜。うまく騙せたかしら?」


 なんて最高な気分だろう。

 嫌なことも退屈なことも、すべてから解放された私は、今、自由だ。


「あ、サークレットは外さないと」


 外した瞬間、抑えられていた力が一気に解放されたのを感じた。このサークレット、実はユフィからの嫌がらせの一つで、魔力を過度に抑え、思うように力を使えないものなのだ。

 聖女の任を終えるまで外せない仕組みになっているのだが、国外追放されたので、もう縛られることはない。


「ほかのサークレットは逆で、実力以上の力を出すことができるやつなんだけど……ま、私は嫌われてたから仕方ないよね」


 だから私は実力が出せず、『無能な聖女』と呼ばれていたのだが……サークレットの効果さえなければ、私はもっといろんなことができるのだ。

 普通の一般魔法はもちろん、聖女の特別な魔法も難なく使える。一応、魔法学校は卒業しているのだ。

 他の聖女はみんな、しょぼい魔法しか使えない。

 聖女には【治癒】や【回復】といった魔法が使えるのだが、みんなのその精度と消費魔力の多さと言ったら……びっくりするぐらい悪いのだ。こんなのが聖女でいいのかってなる。

 特にユフィはその辺が苦手だ。そんな聖女の大事な要素が最も大きく欠けた欠陥品のユフィが最も優れた大聖女になると思うと……


「……終わったわね」


 この国の未来はないだろう。


「でも、ユフィには感謝しないと」


 ユフィがいなければ、私が大聖女になる可能性もあったのだ。あんなクソ王子と結婚なんてごめんである。

 さて、これからどうするかだが……。


「服も、じゃらじゃらして動きにくいのは売ってお金にすればいいよね。うんうん。問題はどこに行くかだけど……」


 するとーー


「カリーナ・ランドールだな」

「? だれ?」


 後ろの森から人が出てきた。


「俺はデューク・ロッド・フェルランド。フェルランド帝国の名に聞き覚えは?」

「! フェルランド……!」


 アインガルド王国の西側に位置する大きな帝国だ。そんなフェルランド帝国の国名が名前にあると言うことは、まさか……!


「皇族……!?」

「いかにも。俺はフェルランド帝国第十五代皇帝、デューク・ロッド・フェルランドだ」

「皇帝っ!?」


 なんでそんな重鎮がここに……!?


「先程の国外追放の場にいたのだが……カリーナ・ランドール。君にはぜひわが国に来てほしい。もちろん、大聖者として」

「えっ……」

「あの王子の無能ぶりはよく聞いているし、君がついさっきサークレットを外した時に大きな魔力があることはわかっている。どうか、帝国でその力を発揮してほしい」

「え、え……?」


 つまりこれは……勧誘なのか?


「で、でも私……」

「望めばなんでも用意しよう。……ああ、婚約などはこの国と違って、好きにしていいので気にしなくていい」

「あ、えっと……」

「それに、行く宛もないのだろう? ならば、旅行感覚でこちらに来てほしい」

「りょ、旅行って……」


 だが、悪い話ではない。とても楽しそうだし、それに、このことをもしユフィたちが知ったらと思うと……すごく面白そうだ。


「のります。帝国に行きます」

「そうか。ありがとう」


 こうして私は帝国の聖女となり、幸せに暮らすことになった。なお、アインガルド王国は馬鹿な王族(その人についてはもうお察しの通り)によって帝国の一部となった。

  そうそう。その後のユフィだけど……


「ちょっと! 私を誰だと思ってるの!? 早くここから出しなさいよ!」

「ゆ、ユフィ、落ち着いて……」

「ジオンは黙ってて! ああもう! なんなのよー!」


 ジオンとの仲は悪くなり、牢屋に閉じ込められることになった。いい気味である。


「カリーナ」

「あ、デューク!」


 私は帝国の大聖女となり、悠々自適に暮らしている。仕事はホワイトだし、最高だ。


「綺麗な花が咲く場所があるんだ。今度、一緒に行かないか?」

「薬草はあるかしら……?」

「ははっ。そうだといいな」


 デュークとも仲良くやっている。

 次期王妃に! との声も上がってるらしいけど、私はまだ今の関係でいたい。未来では……わからないけど。


「ありがと、デューク」

「なに。礼はいらない。君が来てくれたことで、この国も発展したしな」


 願わくば、幸せな日々がこれからも続きますように。




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