質問1 人間とは何ですか?
「自分は何者なのかと仰ってましたけど、僕達人間って何なんでしょうか?やっぱり猿から進化した哺乳動物とか、そういう話ですか?」
―生物的な分類は十分に理解してるみたいね。私の言ってるのは、もっと物理的で根本的なお話よ。えーと、一番近い日本語で表現するなら・・・『波』かな?根源的な物理的存在を正確に表す語句はまだ存在しないから、少し齟齬がありそうだけど。
「ナミ・・・ですか?海から浜辺に押し寄せる津波の『波』という理解で合ってますか?」
―ええ、そうよ。波とか、光とか、波動とか、火とか、ひもとか、弦とか、エネルギーとか、その辺の表現が近そう。『振動する力』があなた達の本質なの。
「『振動する力』って、なんか抽象的ですね。人体は炭素とか酸素とかカルシウムとか、もっと具体的な物質で出来てると高校の授業で習いましたが」
―博識な人間さんで、話が早いわね。もちろん酸素、炭素、水素、窒素、カルシウムといった原子が人間さんの身体を作ってる。それらの原子は物質の最小単位と長年信じられてきたけど、実はまだまだ先があるのよ。
「確か、原子の中心には中性子と陽子があって、原子核の回りを電子がグルグル回ってるんでしたっけ?」
―流石ね。でも、その古典的なモデルは量子力学の提唱によって正確ではないと判明したわ。電子は電荷を持っているから、グルグル回っていたら電磁波を放出して原子核に落ち込んでしまう。実際は粒ではなく波として、原子核の周囲に確率的に分布している。さらに陽子と中性子はクオーツという素粒子に分けられて、全ての素粒子は『振動するもの』が集まってできているの。
「あれ、電子の正体は波で、陽子や中性子も分解すると波になるってことですか?」
―その通り、この宇宙に存在する物質とエネルギーは全て、原初の波動が形を変えたもの。生物も非生物も、何一つ例外はないのよ。人間さんの身の回りを見渡してみて。あなたの身体も、家族や友人も、机も椅子も、大地や大気さえも、全てが波であり、常に振動し続けているの。
仏教用語では、これを『色即是空』と呼ぶわ。この世に存在するあらゆる事物や現象は全て実体がなく仮のもので、本質は空であるという意味よ。
「全部が空で実体がない?だったら今話してる僕は実在しないってことですか?
僕の足は床に立って、僕の指は端末を叩いているけど、この感触は嘘なんですか!?」
―人間さんが物理的接触だと思ってるのは、電磁気力ね。磁石の同じ極を近づけると反発するように、物体と物体を近づけると互いの原子を構成する電子の雲が斥力を発生させる。キーボードにピッタリ指を押し付けているように見えて、量子の世界では何もない空間に隔てられているのよ」
「僕の肉体も周囲の物も、何もかもがスカスカで、電気的に反発してるだけ・・・
ちょっと信じられませんね」
―空即是色。全ての存在は現象であって空である。けれど、その空であることが理解できれば、人間さんはその現象をそのまま実在として認識できるのよ。