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第一話 ケモミミカフェが作りたかったんだ

お久しぶりの更新です~!

 僕の名前はくて……じゃなかった。スコティッシュ・ニア・コンフォールド。

 どこにでもいる普通の狐の獣人だ。

 チャームポイントは二本のふわふわもふもふな銀色の尻尾だろうか。


 魔族と人間の共存国家、ネコヴァッカ王国、四星眷(しせいけん)の一人らしいけどそんなことは関係ない。


 僕はただケモミミのもふもふに囲まれて平和に過ごしたいだけなのだから。

 自分にも耳や尻尾があるだろうって? 

 ノンノン、獣人の皆さんなら納得してもらえると思うのだが、自分の耳や尻尾を触っても『あー自分のだなー』ぐらいしか感じないでしょう?

 そういうことだ。

 隣の芝生は青く見える。とにかく他人のもふもふがほしい。

 ただそれだけなのに……。


「さぁニア様お着替えの時間ですよ」


 上位狼(ハイウルフ)、ブルーメリアは慣れた手つきで僕の服を脱がし始める。

 彼女は給仕だけでなく戦闘や護衛もできる優秀なメイド、特別近衛侍女(エンジェルローズ)の一人。

 その中でも特に秀でた五人をカルテットと呼び、ブルーメリアはカルテットの一人だ。


 ブルーメリア曰くカルテットという呼び名は勝手に呼ばれてるだけらしい。

 女性ファンが多いのだとか。


「おやおや、まだおねむのようですね。このブルーメリアの口づけで目覚めさせてさしあげましょう。んー」


 目をつむり顔を寄せてくるブルーメリア。こうして見ると褐色の肌は凄く綺麗だし顔も整っていて美人だ。

 女性ファンが多いのもうなずける。


「こらー! どさくさにまぎれていちゃいちゃすんなよ!」

「おやセレナ様嫉妬ですか? ご安心ください。セレナ様もちゃんとかまってあげますよ」

「そーゆーことじゃねーよ!」


 キスしようとするブルーメリアに横から割り込み妨害したのは白い毛並みにぱっちりとした大きな瞳が特徴の猫獣人(ワーキャット)、セレナだ。


 美人な褐色の高身長な狼にメイドさんに小柄で可愛い白髪の猫獣人、朝から二人が仲良さそうでなによりだ。

 なんなら二人を誘ってケモミミカフェ作りたいな。


 メニューはそうだな、ガトーショコラ。これは絶対に入れよう。

 それから薄めたマタタビジュースとかも必要かな?

 そんな事を考えてるうちに僕の着替えは完了していた。


「さぁニア様、玉座に向かいますよ」

「……やだ」

「ふむ」


 何やら考え込むブルーメリア。

 冥蘭(めいらん)様、もといお姉ちゃんは苦手だ。理由はわからないけどなんか苦手なのだ。

 それにお姉ちゃんの呼び出しはろくな事がない。

 前なんて冒険者では手に余るアーマードドラゴンの討伐を依頼されたし、

 その次は疲れたから膝枕してほしいとか意味不明なこともお願いされた。


 僕は日々セレナを愛でるのに忙しいので勘弁してほしい。

 あれ、そういえばセレナはどこ?


「セレナってまだ部屋?」

「いえ、『ボクはパス! ニアがんばっ!』と伝言を残し街の方に行きましたよ」


 そうだった。セレナもお姉ちゃんが苦手だった。

 それにセレナがふらっと消えるのは別に珍しいことではない。

 だって猫だし(?)

 いつも夕方には部屋に帰ってくるしいいよね、無理に縛り付けたくない。

 こういうの何ていうんだっけ、放し飼い?


「さてニア様」

「嫌」

「実はガトーショコラを焼いてあるんです」

「……」

「冥蘭様の要件が終わったら一緒に食べませんか?」

「ホイップクリームは?」

「もちろん用意してありますよ」

「……」

「今ならこのブルーメリアの耳と尻尾を好き放題できる権利もさしあげましょう。膝枕でもあーんでもそれ以上でもなんでもこいです。寧ろほしいです」

「……」

「さぁニア様こちらへ」

 僕は差し伸べられた手を握り玉座へと向かった。

 決してガトーショコラとホイップクリームともふもふにつられたわけでは断じてない。

 ブルーメリアのお菓子は冗談抜きで国一レベルで美味しいのだ。

 そんな美味しいお菓子を無駄にしてはいけない。

 そう、これは食べ物を粗末にしたくないからだ。

 断じて物欲に負けたわけじゃない。


 なぜかブルーメリアの息遣いが妙に荒かったけど気のせいだろう。





 ネコヴァッカ城 玉座


 僕はブルーメリアに連れられ見慣れた玉座へ向かった。

 装飾が無駄に凝っている大きな扉を開けるとそこには


「二〜ア〜! 待ってたわ~!」


 胸元が大きくはだけた黒いドレスに身を包んだお姉ちゃんが胸をぼいんぼいんと揺らしながら飛び込んできた。


「お姉ちゃん苦しい邪魔」

「んもぉそんなこと言わないの、あぁあんニア臭たまんないわ」


 お姉ちゃんは頭をぐりぐりと僕の胸に押し当て臭いを嗅いでいる。

 僕とは真逆の金色のロングへア、小柄な体躯に見合わない巨乳、身長差が10㎝程あるので丁度僕の胸に収まるのだがくすぐったい。あとあつい、離れてくれないかな。


「冥蘭様、護衛の前ですよ」

「あーそうだったわね、あんた達下がっていいわよ」

「かしこまりました」


 護衛達はこれが当たり前と言わんばかりにすんなり玉座を出て行った。

 普通なら国のトップ、魔王の護衛がそう簡単に離れる事なんてしないだろう。

 僕が妹で一応殿下という立場もあるだろうが、

 護衛としてブルーメリアがそれほどまでに信頼されているということだろう。


「邪魔者はいなくなったわ、さぁニアァ♡ 姉妹水入らずの時間を愉しみましょう? まずはそうねお風呂にする?」

「冥蘭様、私もいますよ。いえそんなことより」


 うんそうだよブルーメリア、お姉ちゃんと風呂なんか入らないよ。

 早く要件聞いて帰ろう。

 ガトーショコラが待ってる。



「お風呂でしたらぜひこのブルーメリアもお供させてください。必ずお役にたってみせましょう。まずは魔導具(アーティファクト)を使い、お二人の生まれたままの姿を激写させていただきます。姉妹丼ありがとうございます!!」

「変態は黙ってなさい」


 あれなんだろう三人でお風呂入るの? まぁブルーメリアならいいかな。

 髪洗ってもらうの気持ちいいんだよね。


「大体ねブルーメリア、あんた好き放題やりすぎなのよ。ニアー? こいつに変なことされたら私に言うのよ」

「変なこと?」

「ええそうよ、何かされてない?」


 うーん心当たりないな。いつもお世話してもらってるし、頑張ったらなでなでしてくれるし。もふもふさせてくれるし。


「え、ないの!?」

「うん」

「嘘!? ブルーメリア本当の事を言いなさい。どうせその尻尾で口止めしてるんでしょ」

「このブルーメリア、ニア様に誓って変なことなどしておりません。お着替えする際ちょっと胸を揉んだりベッドに侵入したりそのくらいですね」

「変態じゃない、ニア大丈夫なの!?」

「え、大丈夫だけど」

「大丈夫なの!? なら今日はお姉ちゃんと一緒に寝ましょう? おっぱいも触りあいっこしましょう」

「やだよ。姉妹でそんなことしないでしょ」

「なんでメイドはよくてお姉ちゃんはダメなのよ!」


 なんでって言われると難しいな。でもお姉ちゃんの事はなんとなく嫌なんだ。

 やっぱり()()()()()がないからかな。

 家族構成もどこで生まれたかも何も覚えていない。

 だから魔王の妹だよって言われても全然実感わかないのだ。

 見た目は多少は似ているかもしれないが尻尾の数が全然違う。

 僕は()()でお姉ちゃんは()()だ。

 それに僕は貧乳だけどお姉ちゃんは巨乳だし。


「ふふ、哀れですね冥蘭様。因みに私は昨日もニア様とおっぱいを触りあった仲ですよ」

「な、なんだって!? なんで、どうして……ただのメイド如きに私が負けたというの……?」


 ブルーメリアはどや顔し床に崩れ落ちたお姉ちゃんを嘲笑っていた。

 よくわからないがお姉ちゃんが負けたらしい。


「ブルーメリア、あまり冥蘭様をいじめないであげてくださいね。冥蘭様もニアさんに用があったのでしょう?」


 鈴のように綺麗な声、玉座の横に佇む女性、宰相のルミナ様は二人をなだめ話を戻してくれた。

 ルミナ様ももふもふなケモミミを持っている。

 触ってみたいが流石にお願いするのは恐れ多い。

 優しいのはわかるのだが、いつも顔布をしており表情が読み取れない。素顔も見たことがない。

 ミステリアスな雰囲気でちょっと話しかけにくい。


「ごほん、そうだったわね」

「申し訳ございません。いじるのが愉しくてつい」

「あーもうそれは聞かなかったことにするわ。それよりニア!」


 ようやく本題か、長かったな。

 あんまり面倒な事じゃないといいんだけど。


「一週間後、城で立食パーティーを開くの。ニアも私の自慢の妹として出席してほしいわけ」


 ああもうだめだ。そんな面倒なことやりたくない。

 立食パーティーってあれでしょ、お偉いさんが集まって意識高い系の会話するやつでしょ。

 嫌すぎるよ……。


「それでね、せっかくだからドレスも新調してもらおうと思ってね。今から道具屋九十九にいって仕立ててもらいなさい。とびっきり可愛いやつをね!」

「普通に嫌なんだけど」

「安心しなさい。もう道具屋の方に話はつけてあるわ。ニアは採寸測ってもらって好きなデザイン選ぶだけでいいわよ」

「でも」


 そもそも外に出たくない。お部屋でもふもふしたい。

 あと経営の勉強もしなくちゃいけないのだ。ケモミミカフェのために。


「立食パーティーにはデザートもたくさんあるわよ」


 ぴく


「きっとニアが気に入るものもたくさんあると思うわ。何せ王宮料理長が作ってくれるんだからね」

「……いってきます」

「いい子ね、いい子にはお姉ちゃんからご褒美あげるわってニア? もう行くの? ちょっと!?」


 後ろで何か聞こえたような気がするが気にしないことにした。

 僕は仕方なく道具屋九十九へ向かうことにした。

 何度も言うが決して甘いものにつられたわけではない。


「ふふ、ニア様楽しそうですね」

「そう?」


 断じて楽しみではない。

 お偉いさんと会うのも戦うのも全部嫌だ。

 僕はただもふもふに囲まれて平和にくらしたいだけなのだから。

 それはそれとして食べ物を粗末にするのはよくないからね。

 僕たちは道具屋九十九を目指し街へ向かった。




 ☆




「ほんとにもうあのメイドは油断も隙もないんだから」


 ニアとブルーメリアが去った後、静かになった玉座で冥蘭はため息をついた。

 大事な妹を変態に預けたのは失敗だっただろうか。

 でもブルーメリア以上に適任はいないだろう。

 ニアに忠誠を誓っており、給仕の腕も高く、戦闘能力も高いベテランのメイドにして特別近衛侍女(エンジェルローズ)の一人。

 唯一の欠点として変態なのだがニアは気にしていないようだし。


「わたしもブルーメリアが適任だと思いますよ」


 鈴のように優しい声色をした宰相のルミナは諭すように話しかけてきた。


「そうね。そうよね」


 実際ここにきたばかりのニアは一切笑うことなんてなかった。まるで感情のない人形のように、言われた事を素直に実行するだけのマシーンだった。


「望まなかった英雄、か」

「結果がどうであれ今は今です。少なくとも今のニアさんは以前よりも幸せそうに見えますよ」


 ニアは記憶をなくした『()()()()()()()()』だ。その英雄譚が誰の記憶に残らずとも、家族である私は覚えている。

 そしてブルーメリアもその隠れた英雄譚を実際に目撃した一人だ。

 だからこそニアにはなるべく幸せになってもらいたい。

 願わくば自由に生きてほしい。

 でも、あの子の自由は……。


「ルミナ、迷惑かけるわね」

「そんなことありません。この国の安寧はわたしの、いえ、わたしたちの悲願なのですから。冥蘭様はどっしりとかまえていればいいのですよ」

「ありがとう」


 私は一国の王として、一人の姉として立場を悩み続けていた。








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