15話
「ふぅ、これでもう安全だ」
俺たちは、町の外へ出て来た。
壁を突き破って少し進んだところで急ブレーキをかけ、静止したのでそれほど遠くまでは来ていないはずだ。あんまり遠くまで走るとつかれるかもしれないもんな。俺だってできればエコに生きていたい。
「おーい、返事くらいしろよ。もう降ろすけどいいよな?」
しまった。合法的にこの子に触れていられる時間を自分からなくしてしまうなんてとんでもねぇボケナスだ俺は。くそが、男に二言はねぇからちゃんと降ろすけどよ。
ドサッ。
俺が足から立てるようにゆっくり降ろしたのに、その場に崩れ落ちてしまった。
「おい、大丈夫か? 俺のスピードが早すぎたのか?」
俺に抱えられていたんだそれなりの速度で体を押しつぶされたことだろう。一時的に気を失っているのかもしれないな。俺としたことが、この子を地面にぶつけちまうなんて……。
「しっかりしろって。もう大丈夫だから起きていいぞ」
転がってしまった体を仰向けにし、ゆすって起こそうと試みる。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
思わず本気で叫んでしまった。
それも無理はないだろう。この子の首がありえないほうに折れ曲がってしまっていたのだ。
これじゃあ、気を失っているどころの話じゃない。確実に命の危険がある。この子自身もスキルなんかを持ってて強いとは言っていたが、俺が抱えて走っただけでこんなことになってしまうなんて……よく見ると、頭が腫れて血が出ている。
あれ? もしかして、俺が壁を突き破った時にこの子を壁にぶつけたのか? 頭が腫れるなんてそれ以外考えられないよな? おいおい、それじゃあ、俺が壁にぶつけて殺しちまったってことじゃねぇか!!
「やばい、あれほど人は殺さないとか言っておいて、守るべき仲間を殺してしまうなんて……もう、俺は自首するしかない……うん?」
小さな呼吸音がすることに気が付いた。
普通の人間ならばありえないことだが、どうやらこの子はこの状態でもかろうじて生きているらしい。
念の為、心臓も動いているか確認しておくか。
右耳を胸に当てる。
「い、生きてるぞぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!」
叫ぶ。俺は力の限り叫ぶ。
これが叫ばずに居られるだろうか、この状況で叫ばないようなやつは人の心が死んでいるただの屍だ。俺は死んでねぇ!! それにこの子も生きてるんだぁぁぁーーー!!!
そうとなれば、心肺蘇生法だ。いや、馬鹿か俺は。呼吸も心臓もしっかりしてるじゃねぇか。それよりも、この見るも無残な首だろうが、これをどうにかしないことには命の火が消えてしまうのも時間の問題だ。今の俺には、そんな魔法みたいなもんはつかえねぇ。だがなぁ、愛の力の前で不可能なんて言葉は存在しねぇんだよ!! 俺はやってやるぜ、今こそ自分の限界を超えた力を見せるときだ。
「うおぉォォォォーーーーー!!!!!」
力の限り叫ぶことで俺はかつてないほどの意識を集中させている。
今の俺は間違いなくゾーンに入っている。極限集中モードだ。この状態の俺ならば何でもできるという万能感がふつふつと湧いてくる。今の俺は文字通り不可能という言葉を体現していると言っても過言ではない。自分でなに言ってるかわけわからんわ。
「せいやぁぁぁぁーーーーー!!!! 治れぇぇぇぇーーーー!!!!」
太陽にかざしていた手を振り下ろし、折れてしまっているクビに向けてありったけの力を注ぎ込んだ。
ピカーーン!!
周囲がまばゆい光に包まれる。
まず間違いなく世界で一番眩しい場所は今ここだろう。過去、未来を入れてさえもここだと断言できる。だって俺が何も見えないもん。
「どうなってるんだぁぁーー!! 何もみえねぇぞぉぉーー!!」
俺が一人で騒いでいる間に光は少しずつ弱くなっていった。
ゆっくりと視界が回復してくる。何も見えなかった視界が徐々に女の子の姿を捉え始めた。
「治ったのか?」
まだ肝心の首は見えないが、足から見え始めて……え? 背中に羽? そして頭の上にはわっかが浮かんでいた。
「は? どういうこと?」
もちろん、首は綺麗に治っている。それどころか、汚かった身なりも信じられないほど綺麗になっている。ぼさぼさだった髪も毎日手入れをしているかのような艶めき具合だ。何がどうなってるんだ? 俺はただ、折れた首を治そうとしただけだよな? それが、羽が生えたり、わっかが浮いてたりわけがわからん。
「もしかして、別人を呼び出したのか? いやいや、俺は今は召喚何て使ってねぇよ」
俺が現状を正確に把握することは自分の力だけでは不可能なようだ。俺にもあったな、不可能なこと。意味がわからん。
ひとまず、この子を起こしてみて何が起こったのか聞いてみたほうが早そうだ。自分の身に起こったことだし、もしかしたら何かわかるかもしれないからな。
起こしたら、壁に激突させて殺しかけたことを怒らないかな? いや、あれだけのことがあったんだ覚えてないだろう。もし覚えていてもその証拠がどこにもないんだ。おっと、起こす前に俺がぶつ破った壁を補修しておかないとな。ほいっと。
俺は、念じて壁を修理した。




