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ざまぁ

 我は今、とある名家の別邸、その地下牢屋の中におる。

 正確には我が入り込んだ身体の主が、牢の中におった。

 

 薄暗く、寒い。

 牢の中にはいちおう寝台もあるが、当然ながら寝心地が良い物ではない。地下牢じゃから日の光も風もない。牢の脇にはやや大きめの穴が空いておって、そこが便所ということらしい。


 飯は週に一度、一週間分の食料が投げ込まれ、それで食いつないでいく。しかしこうも環境が悪いと、すぐに痛んでしまうので、食べる順番も重要じゃ。むろん、湯浴みなどはできない。

 

 こんな最低劣悪の環境に捕らわれているのは、サラナ・ミールという娘。

 歳は18で、人間が言うところの〝聖女〟でもある。

 そしてそんな聖女サラナを捕らえているのが、


「……気分はいかが? 聖女サマ」


 この女、ルイナ・ミール。サラナの姉じゃ。そう、サラナは実の姉によって牢へ幽閉されておる。まったく、最近の人間は恐ろしいのぉ。


「…………」


 我は答えず、膝をつき、手を合わせる。


「相変わらず祈ってばかりね、馬鹿馬鹿しい」


 我も祈りなんぞ馬鹿だと思うが、この娘がやっておったから我もやっておる。

 もっとも、祈りというよりただ目をつぶっておるだけじゃが。すぐ寝るし。


 ルイナはよっぽどサラナが憎いようで、よくこうして牢に来ては嫌味を言う。

 残飯のような飯を妹に食わせる横で、自分は豪華な食事をここまで運んで食べることもある。暇じゃなぁ。妹の排泄を見てげらげら笑いながら酒を飲み、就寝中にはバケツに汲んだ冷水を浴びせることもある。いい性格しとる。


 そしてこんなことを、もう一年間も続けておるから驚きじゃ。

 しかしそれでもルイナの溜飲が下がることはない。これに関しては、サラナの精神力の強さにある。どれだけ虐めても屈せず、祈りを欠かさない。さすがは聖女と言ったところか。我だったらもっと別の方向で攻めるが、今回はこっち側だしの。


 折れぬ心を見るたびに、ルイナの行為はエスカレートしていく。

 我でも引いちゃうようなことを強要してきたこともあったが、サラナは屈しなかった。すごいのぉ、我があんなことやられたら、問答無用で四肢を吹き飛ばして10年くらい拷問漬けにするというのに。


 実際、サラナの身体に入って一週間になるが、ついルイナを消し飛ばそうとしたことが何度もあった。もう失敗はせんと踏み止まっておるが、時間の問題な気がする……いや、我ならできる! 今回は殺しはナシじゃ! 絶対、殺さんぞ!


 今回こそ、絶対に「ざまぁ」を成功させてやるんじゃ!



◇◇◇



 あれから一年経った。

 妹はもう一年間、外に出ていない。

 妹はきっとアタシを恨んでいるはず。


 恨んでくれなきゃ困る。

 聖女だって人を憎む、妬む、恨む、アタシとどこも変わらない人間だって、証明させて欲しい。決して、聖なる存在なんかじゃないって。


 なのに、妹はアタシに恨み言ひとつ言わない。なんで? なんでなの?

 あれだけのことをして、あれだけのことをさせたのに、なんで……?

 サラナはただ祈る。祈るだけだ。

 それが……腹立たしい。まるで、アタシなんて歯牙にもかけてないみたいで。


「……でも、それも、もう終わり」


 この一年で、ピースは揃った。サラナを壊す準備は整った。

 あとは突き付けるだけ。それで、アタシはようやく解放される。


「ふふ、くふふふ」


 つい頬が緩んでしまう。

 絶望に染まる妹の顔を想像すると、本当にたまらない。


「……さぁ、おいで、サラナ」


 牢の鍵は開けている。あとはサラナが出てくるのを待つだけ。

 さすがの聖女サマでも、鍵が開いているとなれば出てくるはず。

 もっとも、出てこなければ連れ出すだけなのだが、できれば自分の足でここまで来て欲しい。


「…………」


 アタシは静かに待った。

 すると、地下牢へ続く隠し扉の奥から、キィという音が聞こえてきた。あれは妹が牢から出た音に違いない。……来る、もうじきここに、来る……。

 そして、


「……久ぶりの屋敷はどう? サラナ」


 サラナがアタシの前に現れた。純白だったドレスは見る影もなく汚れ、あの誰もが褒めていた髪もぼさぼさ……ふふ、何時間でも見ていられそう。


「ちょっと、臭いんじゃない? あー、そりゃそうか、もう一年もあんなところにいたんですものね」


 アタシはサラナに近づき、わざとらしく匂いを嗅ぐ仕草をするのだが、


(…………臭く……ない……?)


 ……どうして? だって、もう一年も……。


「え? あぁ、あまりにもあれじゃった――あれでしたので、魔法でちょいと」

「……魔法?」


 聞き返すとサラナは珍しく「しまった」という表情で口をつぐんだ。


「……そう、そういうことね」


 つまり、


「アンタ、ずっとアタシを馬鹿にしてたわけね」

「え?」

「とぼけても無駄よ、く、くふふ」 


 魔法……妹がそんな魔法を使えたというのは知らなかったが、それはアタシが知らなかった、アタシに隠していたというわけだ。


「ふふふふ、さすがは聖女サマね」


 きょとんとしている妹の顔を見ると、思わず手が出そうになるが、耐えた。まだ、まだよ、ここで手を出したら全てがぶち壊し。


「――ねぇ、知ってる?」


 湧き上がる感情を飲み込み、笑顔を作った。


「アンタ、もう死んだことになっているのよ? 一年も前に」


 隠し事があったのはアタシも同じだ。そしてそれは今日、今ここで全て吐き出す。ふふ、さぁ、せいぜい絶望してちょうだい、聖女サマ。


「事故でね。死んじゃったの。ふふ、みーんな悲しんでたわよ? 我が家に授かった聖女サマが死んでしまったーってね。お父様もお母様も」


 姉妹で仲良くお出かけ。その帰り道、不幸にも妹は乗っていた馬車と共に崖下に落ち、そのまま川に流された。誰も疑わなかった。あたり前よ。だってアタシはこの日のために、ずっと仮面を被っていたんだから。妹を想う優しい姉を。それに馬車と使用人を崖から落としたのは本当だしね。


「アンタの婚約者なんて笑えるくらい落ち込んでたわ。今にも死にそうだった」


 思い出すだけでも顔がにやける。あれは傑作。いい年の男が餓鬼みたいに泣いて、アタシは笑いを堪えるのが必死だったわ。


「うふふ、だからアタシが癒やしてあげた」


 予定にはなかったけど、可愛く見えちゃったから。


「簡単だったわ。それとも、本当は大して悲しんでなかったのかしら? ねぇ?」


 あの夜の味は今でも忘れられない。思い出すだけでも身体が火照るほどに。


「お母様も大層ショックを受けてね、寝込んじゃったの。それで夜な夜なアンタの名前を呟いて、本当に鬱陶しかったわ」


 お母様だけじゃない。お父様も、使用人たちも、右を見ても左を見ても、サラナサラナサラナサラナ! ほんと、馬鹿みたい。


「ま、それからすぐに死んじゃったんだけど、お母様」


 身体は健康なのに生きる気力がなくなると人は死ぬ、話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてだった。お母様もしょせんはその程度の女だった。


「聖女サマって得よね。みんなから愛されるんだもの」


 お母様の亡骸を見て、アタシはふと思った。もし死んだのがアタシだったら、同じようにお母様は悲しんでくれただろうか、と。


「……サラナ、考えたことある? アタシの気持ち」


 サラナは黙って話を聞いている。顔色ひとつ変えずに。それが無性に腹立たしかった。だから嫌いなんだよ、おまえが。


「アタシの方が全てにおいて上なのに、ただ〝聖女じゃない〟ってだけで、アンタより下に見られる苦しみが」


 わかるはずがない。


「アンタが14で聖女に覚醒した日、あれからは地獄の日々」


 あの日から、全てが変わった。アタシの人生が、閉じてしまった。


「アンタが聖女でいる限り、アタシは〝聖女サラナの姉〟でしかない。周りの人間はみんな、アタシの隣にいるアンタを見ている。誰もアタシを見ていない」


 まるで霧の中にいるような、そんな気持ちだった。あれから、ずっと。


「お姉様はお姉様です。私がなんであろうと、お姉様は私のたったひとりの、大切なお姉様です。だから誰も見ていないなん――」

「妹が姉を諭すなッッッッ!」


 ……いけない。まだだ、まだダメ。ここで爆発させたら、意味がない。

 アタシは小さく深呼吸し、


「……アンタさえいなければ、聖女になったのはアタシだったのに、きっと」

「……人間が聖女と呼ぶ存在は、聖霊共が好む魔力の波長を持つ者が信仰によって自身の魔力を全て神聖属性に塗り替えられる時に――」

「は?」

「い、いや、いえ……なんでも、ない、です」


 ……まるで効いていない感じ。お母様が死んだことにも、大して動揺していない。……アタシは、しばらくなにも手に付かなかったくらいなのに。それとも、アタシの前だから強がっているの? ……なら、これでどう? 


「……実はね、アタシ、この一年で、子供を産んだの」


 まだカードは残っている。


「誰の子だと思う?」

「え? さ、さぁ……」

「お父様の子よ」

「……え?」


 ふふふ、その顔よ、その顔が見たかったの!


「アンタが死んで、お母様も死んで、お父様はいつ後を追ってもおかしくなかった。だからね、アタシがお母様の代わりになってあげたの」


 サラナが目を見開いて驚いている。最高、最高の反応だわ。


「……く、くく……くふふふふふふふ」


 も、もういいわよね。もう、我慢しなくて。


「あはははははははっっっ!」


 一度吐き出すともう止まらなかった。


「男って最低よねッッ! 実の娘でも勃つってどんだけなのよ! あはははは!」


 この瞬間のために、どれだけの手間と時間を掛けてきたか。アンタには想像も付かないでしょうね。


「すまない、すまない、って言いながらおっ勃ててさァァ! 腰振って! ただの猿じゃない! うふふふふふふ!」


 ……薬は盛ってたけど。くふふ。


「でもお父様、それがショックみたいで、次の日には首吊ってたわ」


 遺書には「すまない」とだけあった。いったい誰に向けた言葉だったのやら。


「……もう、アンタを待ってる人なんていないのよ」


 みんなアタシが奪ってやった。


「もう家には誰もいない。召使いだってみんな切った」


 アタシを待っている人もいない。


「ミール家はお仕舞い。アンタもお仕舞い。全てを終わらせて、アタシは新しい人生を生きる。輝かしい未来を」


 既にミール家の富はアタシだけのもの。お父様の人脈なんていらない。そんなものはアタシが作る。全部、やり直すんだ。


「……子は、どうした?」

「ん?」

「身籠もった子じゃ」

「あぁ、知りたい? くふっ、やっぱり知りたい?」


 でもね、


「うふふ……教えない」


 教えた時の反応も見たいけど、サラナが知りたがっていることなら、あえて教えない方が楽しいわ。


「アンタが聖女なんかにならなければ、こんなことにはならなかった」 


 アタシだって、こんな思いはしなかった。


「お父様も、お母様も、アタシも、みんな幸せだった」


 今も笑って暮らせていたかも知れない。


「アンタさえ、いなければ……」


 アタシは机の引き出しから、一本の短刀を取り出した。


「聖女は皆を癒やして慈しむんでしょ? ならアタシも救ってよ」


 切っ先をサラナに向ける。サラナはアタシ、ナイフ、そしてもう一度アタシを見た。その瞳にある色はわからない。だけど、逃げ出す気もないようだ。怯えている様子もない。さすが、聖女サマね。


 ほんと……うざい。

 泣き喚いて命乞いのひとつでもすれば、アタシの気も変わったかもしれないのに。

 もういい、もういいわ。アンタはもう死ねよ。

 一歩、一歩、ゆっくりサラナに近づき、


「さようなら、聖女サマ」


 刃を胸に突き刺した。深々と刺さったそれを引き抜くと、噴水のように血が噴き出した。サラナは「ごほっ」と馬鹿みたいな量の血を吐き出して、倒れる。


「…………」


 そしてすぐに動かなくなった。


「……あは、はは……あははははは! ざまぁみろよおおおおおおおおおおお!」


 妹の頭を踏みにじり、勝ち誇る。 


 あぁ……終わった……これで……アタシは……。


 晴れやかな気分だった。

 まるで憑き物が落ちたみたいだ。

 今なら、きっと全ての物が違って見える。

 たぶん、これからのアタシは、少しだけ、優しくなれるかもしれない。


「……いい天気ね」


 屋敷の外に出て空を見上げる。雲ひとつない晴天だった。まるで今のアタシの心を映すようだ。


「ふふ、どこへだっていける。どこにだって、いける」


 もうアタシを縛るものは、なにもないのだから。


「……?」


 と、そこで視界の端になにかが見えた。


「あら、ふふ」


 草むらから飛び出ているのは、尻尾だ。小さな白い尻尾。子犬だろうか。


「これもなにかの縁かしら」


 こんなに日に出会うなんて、なにかあるのかもしれない。

 そうだ、サラナって名付けようかしら。


「ほら、いらっしゃい」


 アタシは脅かさないように、腰を落として声を掛けた。すると子犬はゆっくりと、草むらから出てきた。尻尾をこれでもかと振り、見ているこっちが嬉しくなる。

 そして子犬と対面して、


「……え?」


 言葉を失った。

 顔が……子犬の顔が……犬の顔じゃなかった。


 人の顔だった。


 それも……赤ん坊だ。赤ちゃんの顔だ。

 アタシが……アタシが■■■した時の、あの赤ちゃんが、あの顔で―― 


 そこで視界がぶれた。


 ……。

 ……ここは?

 …………どこ?


 アタシは……なにをしてたんだっけ……。

 ……そうだ、サラナを殺して、それから……外に出て……。

 ……変な夢を見たんだ。そう、あれは夢だ。あんなこと、あるわけない。


 久々に嬉しい気分になってたから、興奮してつい変な夢を見てしまった。

 現に、今のアタシは別になんてことないんだから。あの子犬だってもういないし。というか、そもそも子犬なんていなかったんだ。今だって……ここどこ?


 森の中。昼間……だとは思うけど、薄暗いのは、生い茂る木々のせいだろうか。

 それに、やけに大きな木が……いや、違う。アタシの視点がやけに……下?

 倒れている、わけでもない。身体は動くし、ちゃんと歩ける。

 

 でも……なんだろ、身体が勝手に動く。寝ぼけてる? 

 すると、少し離れたところで音がした。

 あれは……馬車? それに見覚えがある。あれは……ミール家の馬車!?

 誰が乗って……え? 

 

 目を疑った。

 馬車から降りてきたのは……アタシだった。

 な、なんで……? だって、アタシは、ここに……。

 意味がわからない。夢にしたって意味不明すぎる。

 

 もうひとりのアタシは、鉄製の器を持っていた。あれにも見覚えがある。少し前に同じ物を使った。……そうだ、あの時も、こうして森の中に……。


 ……あっ。


 アタシはそこで、全てを思い出した。思い出してしまった。

 あれは、あの時のアタシ……?

 な、なら……あの中には……。


 そしてアタシの記憶通り、もうひとりのアタシは器の中身を辺りにぶちまけた。 転がるのは、赤黒い団子状の物体。

 それを見た瞬間、アタシの身体が勝手に動いた。


 ち、違う、これはアタシの身体じゃない! 

 これは、今のアタシは――犬だ! あの時の野犬だ! 

 な、なら、ならこの後、アタシは……!


 い、嫌だ、嫌だ、嫌だあああああ! 

 止まって、止まってええええええええええええええええええええ!


 ……アタシがアタシを見下している。

 ……笑いながら犬のアタシを見ている。

 ……あれがアタシ? アタシの顔?

 ……人間って、あんなにも……醜い顔ができるんだ……。


 ……。

 

 ………あぁ、

 

 …………アタシの、


 ………………アタシの赤ちゃん、



  ――おいしい。







◆◆◆






 ルイナ・ミールは短刀を握ったまま、力なくへたり込む。虚ろな表情でどこかを見て――いや、あれはどこも見ておらんだろうな。口からは涎を垂らし、「あぁぅ」と小さく呻っている。


 ……どうじゃ? 今回は……これ、成功じゃろ?

「ざまぁ」できとるじゃろ? 


 なにより今回は殺してないところが、ポイント高いはずじゃ。

 ざまぁ三回目にして我、完璧にコツ掴んじゃったかもしれんのぉ。

 

 ……で? この後はどうすればええんじゃ?


 考えてみれば、いつもは相手を殺してしもうたので、ここからは初めての領域じゃ。うーん……わからん。


「……それにしても」


 ふと我は思った。


「最近の人間は、恐ろしいのぉ」


 正直、我でもちょっと引いたぞ。人間も変わったもんじゃ。我が若い頃は、もっとわかりやすいやり方が主流だった気がするぞ。まぁだからこそ、こうして今になって我もハマっておるのじゃが。


「……さて」


 どうする? いつもみたいに逃げるか? いやでも、それものぉ……。いつも覗き見しとった他の「ざまぁ」はどうしておったか……。

 

 いや、そもそも、そもそもじゃ……今の我、あんまり「ざまぁみろ」って思ってないような……。あやつに夢を見せとる時はちょっと楽しかったが、それは別に「ざまぁ」だからってより、単純に我の趣味だしの……。

 そんな感じで困っていると、


『――聖霊様』


 頭ン中に声が聞こえてきた。ふむ、サラナか。意識だけとはいえ、自力で眠りから覚めるとはさすがは聖女じゃの。


「我はおまえに力を与えた聖霊などではないぞ」

『え? で、では……』

「そうじゃな……うむ、お魔女さんじゃ」

『オマジョサン様、ですか……?』

「お魔女さんと、親しみを込めてそう呼ぶことを許す」

『あ、は、はい……』


 しかしこれはこれでちょうどええ。娘に感想でも聞いてみるか。


「状況は把握しておるな?」

『は、はい……少し前から、薄らぐ意識の中で……初めは夢かと思っていましたが……現実、だったのですね……』

「目の前でこうして壊れとる姉を見てどう思う? 「ざまぁ」と思うか?」

『……思いません』

「なぜじゃ? おまえから全てを奪い、あまつさえ殺そうとした女じゃぞ?」


 さすがにこの肉体を死なすのはアカンと思い、刺される前に行動を起こしたが、我がおらんかったら確実にサラナはここで死んでおったじゃろう。


『お姉様が……ああなってしまった原因は……私だと、知ってしまったから……』

「はっ、さすがは聖女様じゃな」


 あれ、なんか我、こいつの姉と似たような反応してないか? ……いや、だって我、聖女とか聖霊とか大っ嫌いだったし……。


「おまえの姉は、嫉妬に狂ったただの畜生じゃ。確かに姉が抱いた気持ちは、誰しもが抱くものかもしれん。じゃが、やり過ぎじゃ、やり過ぎ」


 さすがの我だって思う。やり過ぎじゃって。


『それでも、私が気づいていたら、こうはならなかったかもしれません』

「仮面を被るのは上手かったようじゃからな、おまえの姉は」

『たったひとりの、お姉様なんです。そして今となっては、たったひとりの、家族なんです』


 こいつの精神性も大概じゃな。だから聖女は嫌いなんじゃ。


「……なら我を恨むか?」

『いえ! オマジョサンには命を助けられました! それにお姉様を止めてくれたのもオマジョサンです! 私では、できないことでした』

「……ふむ」


 我は少し考え、


「おまえが望むなら、姉を元に戻してやらんこともないぞ?」


 造作もないことじゃ。逆に、我くらい魔法に長けた者でないと難しくもあるが。


『……お姉様は、疲れているんです』

「…………」

『これからは、私がずっとそばにいます』

「……そうか」


 そこで我は身体をサラナに返した。するとサラナはへたり込む姉に駆け寄り、優しく抱き締める。我はその様子を、意識だけの状態で遠巻きに眺めていた。


「お姉様……」

「あぅぅ、さぁ、ら、ぁぁ……?」

「私がそばにいます、ずっとお姉様を、見ていますから」

「ぅぅぅ……」

「だから、安心して、お休みください」


 ……なんか、後味が悪いのは我だけか?

 ……まぁ、他ならぬサラナが望むなら……ええか。 


 それにしても……



 最近の人間は、恐ろしいのぉ……。



   ◆◆◆



 家に戻った我はしばらく考えた。

「ざまぁ」についてじゃ。

 そして思った。


「自分を陥れようとした相手が破滅するから面白いのであって、赤の他人である我が介入してもあんまり意味ないのでは……?」と。


 事実、我はあんまり楽しくなかった。

 が、魔水晶で俯瞰的に覗き見する分には今でも面白いから、不思議なもんじゃ。

 ふむ、「ざまぁ」とは、やはり奥が深いのぉ。


 ……まぁ、しばらく「ざまぁ」は見る専でええかな、って感じじゃが。


 でも、久しぶりに人間と絡むのは面白かった!

 そうじゃな……次は前に聖剣をパクった勇者の小僧……その子孫か、そいつらにちょっかい出しにでもいくか。

 ついでにあれじゃ、「ざまぁ」とは違うやつでも試すか。

 


 たしか……「追放」がなんとかって。





                                 





                                 (了)


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