1話
私は絵を描くための画材が足りなくなったのでいつも行ってる画材屋さんに買い物に行った。
そう何の変哲もないいつものことだ。
買い物を済ませ普段通り家に帰るところだったがその途中、地元住民の私でも見た事の無い不思議な道があった。
「こんな所に道あったっけ?」
普段だったら私自身そんな怪しい道に入らない。
けれど私は何かに導かれてるような気がしてその道を行く事にした。
そこから道を歩いてみると入り組んだ路地裏の一番奥にボロボロの文房具店がひっそりと佇んでいた。
私はその店が非常に気になったので意を決して入ってみることにした。
そこにはまるでサンタクロースのような風貌の白くて長い髭を生やした老店主が奥のほうの椅子に座ってこちらを静かに眺めていた。
「ここに人が来るのは久しぶりだねぇ。」
その老店主はそういうと座っている椅子の隣にある机の引き出しから私に普通と違う一枚の紙を取り出した。
「すいません。この店が気になっただけで物を買う気はないんです。」
私がそういうと
「でもね、これは君を呼んだ紙だ。お金はいらないから持っていきなさい。」
「いやいいです!お金を払わないで商品をもらうなんて!」
そう言って遠慮する私に老店主は
「君は選ばれたんだ花音君。さぁこの紙を持って。」
と、私に無理やりその紙を手渡してきた。
初対面で知らないはずの私の名前を呼ばれ「え?」と思った次の瞬間、私の周りから光があふれ出て目を開けられなくなった。
私は混乱した。文房具屋にいただけだったのに今自分がいるのは光の中。
なにがどうなってるのかわからないまま私はそこに立ち尽くしていた。
そしていきなり「おぉ!神子召喚が成功したぞ!」と声高々に大声で歓喜している人々の声が聞こえた。
まさかこれが異世界転移なのかと内心ドキドキしてると
光が収まって私の姿を見た瞬間そこにいる全員が微妙な顔をしている。
それも納得できる。だって周りを見れば煌びやかな服を着た美男美女ばっかり。
対して私は神子なんて柄じゃないデブで地味な姿をしている。
異世界に可愛い姿で転生したいと思ってた。しかし現実はまさかの自分の姿このままの異世界転移。
オタク心はくすぐられるがコレじゃない感が半端ない。
私の心は異世界への期待とこれからの不安が入り混じった複雑な気持ちになっていた。