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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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侍女

 連行されると思っていた。そうだよな。当たり前だよな……。

 俺が王妃様の私室の隣、ミランダ様が休養されている部屋から出てくるなり、ランバ様の護衛騎士に捕まったのは、当然の事である。だが、まさか護衛騎士が逃さないとばかりに、俺を両脇から挟むとは考えてもいなかった。

 一緒に出てきた師匠は、その様子に笑いをこらえながらも、サッサと避難した。多分どこかで大笑いしている事だろう。

 ランバ様の私室では、俺を待ち構えていたランバ様と隣で仕事をしているギルバード様。

 俺はランバ様の私室で、ハア~っと漏れる息を誤魔化さない。

「ランバ様、お気持ちは分かります。ミランダ様の様子が早く聞きたくて仕方がない事は、十分理解しております。けれど一々私を連行するのはおやめ下さい。な~んで、誰も彼も俺を連行したがるのかな?」

 俺は日課の一つに、父上の執務室に連行されるという項目が追加された事を思い出しげっそりとして、気付けば本音が漏れてしまった。まずいまずい。

「すまない。けれど迎えに行かなかったらアシュレイは、ロレン嬢と屋敷に戻ってしまうだろう?」

「ファニーはミランダ様とお茶をする為に来ているので、流石の私も淑女のお茶会を邪魔するような無粋な真似はしませんよ」

「では一人で帰るだろう? あえて私がヤキモキするように。アシュレイは私に助言はしてくれるが、基本ミランダ、もといロレン嬢の味方だからな。ロレン嬢がミランダの為にこの部屋での会話は内緒だと言えば、一切報告する気はないだろう?」

 ……全くもって当たっているので、俺はそっと視線を逸らした。

 隣でアシュレイ~っと、恨みがましいランバ様の声が聞こえる中、ギルバード様と目が合う。

「お仕事ですか、ギルバード様。それは学園の生徒会の方ですか? それとも城での宰相候補としてのものですか?」

「ふっ、ランバに言い当てられたからと言って私に話を逸らすな。ミランダ様に口止めされてないのなら、ちゃんとランバに報告してやってくれ」

 ギルバード様は羽ペンを口元にもっていき、俺達を見て色気駄々洩れの微笑を向ける。

 やんちゃな子供達の揉め事を止めるようなギルバード様は一人、大人だ。

 仕方がないので俺は、ミランダ様の部屋で話した内容を二人に伝える。別に誰にも口止めはされてないからね。ランバ様をヤキモキさせたかったのは、俺個人の気持ちだから。

 そうして俺からミランダ様の様子を聞き出したランバ様は、あからさまにホッとしていた。

「……そうか、ミランダは私のプレゼントを気に入ってくれていたのだな。それに会えないのは、あくまで母上の顔をたてているからで、私の事が嫌いだからではないのだな」

 全部報告しておいてなんだが、安堵しているランバ様にちょっとモヤッとした。

 ここで調子に乗らせたら、またミランダ様を蔑ろにしないだろうか?

 俺が声をかけようとした時、隣で大人しく話を聞いていたギルバード様が声を発した。

「調子に乗るなよ、ランバ。ミランダ様はあくまでも、己の立場を理解した上での発言をなされたにすぎない。ランバを許したとか気になるからとか、そういった理由では決してないからな」

 ガックリと項垂れるランバ様。

 ハッキリとした口調で紡がれた言葉は、結構な辛辣さを増して、ちょっとランバ様が気の毒になる。三歳からの親友同士の上下関係が、見えた気がした。

「まったく、もう少ししっかりしてもらわないと、私の婚約もいつになるか分からないじゃないか」

 ぼそりともらされた言葉は、ギルバード様のもの。

 え? 今なんて?

 ランバ様の方に緯線を向けると、ランバ様も目を見開いている。

 ん? どういう事だ? 俺はもう一度ギルバード様に視線を戻す。

「ギルバード様の婚約って……ギルバード様にはもしかして、もう決まったお相手がいるのですか?」

「ん? ああ、いるが、それが何か?」

 それが何か? じゃ、ありません!

 ほら、ランバ様も吃驚して動けなくなってるじゃありませんか!

「……ギル、色々となんて言っていいか分からないんだけれど、とりあえず……相手、誰?」

「空想じゃないですよね。若しくは妄想?」

ランバ様が放心しながらも口を開く横で、つい要らぬ事を言ってしまう。

 だって、三歳の頃から知っている親友&上司のランバ様が知らない思い人っているのかって話だよね。ギルバード様からそんな雰囲気一度も感じた事なかったし、そもそもこの人、ランバ様と国以外に興味あったのかって思うし。

 そんな事をつらつら考えていると、ギルバード様がそれはそれは良い笑顔で俺を見た。

「……ほう、私にそんな口がきけるようになったんだね。アシュレイ」

 こわっ! ギルバード様からただならぬ気配を感じて、俺は「冗談です。申し訳ありません」と素直に謝った。

 ちょっと怒った父上と似ている……。

「エクノア・ブローズ。ブローズ伯爵家の令嬢で、ミランダ様の侍女をしている」

「「は?」」

 ギルバード様がいとも簡単に言い放った名前は、予想もつかなかった存在。

 ちょっと待って。ミランダ様の侍女って……もしかしてさっき、お茶を入れて退室した侍女? 明るい金髪を一つに結び、邪魔にならないようにテキパキとお茶の用意を整えたかと思うと、サッと席を離れた侍女。

 流石ミランダ様の侍女。よく教育が行き届いているなぁ。なんて気楽に考えていたけど、まさかのその人?

 うわあ~、顔見えなかった。始終俯いていたし、短時間過ぎて気にも留めなかったよ。

「元々彼女は、ミランダ様の幼馴染だったんだ。ちょうど俺達と出会う前に知り合ったそうだが、ミランダ様の現状を目の当たりにして心を痛めていたそうだ。十歳になる頃にミランダ様の侍女になりたいと志願した。父親のブローズ伯爵もミランダ様の本当の父親と知り合いだったというのも、彼女が侍女になったきっかけの一つだったのかもしれないね。彼女がいたからミランダ様は、黒の魔女に魔法をかけられるまで、どうにか持ちこたえていたのだろうな」

 そうか、近くで応援し支えてくれる、そういう存在がいたからミランダ様はどうにか頑張っていられたんだな。中々にしっかりとした芯の強そうな人のようだ。

 なるほど、ギルバード様が惹かれるのも無理はない。

「ギルバード様とは、ミランダ様を介してお知り合いに?」

「ああ、度々ミランダ様を勇気づけている現場に出くわして、ミランダ様の事なら彼女に聞くのが一番だと思って、交流をもった」

「……あの、彼女がちゃんと実在しているのは理解したんだけれど、私とミランダの関係がギルと彼女の婚約となんの関係があるの?」

「チッ!」

 まさかのギルバード様の舌打ち?

 ああ、可哀そうに。質問したランバ様が固まって、嫌な汗をダラダラ流している。

 今すぐ回れ右してこの部屋から出て行きたい。切実に願う!

 そんな俺達を目の端に捕えながら、ギルバード様は溜息を吐く。

「彼女が、エクノアがミランダ様の幸せを見届けないうちは、自分だけ幸せにはなれないと言うんだ」

 なるほど、侍女の鑑だな。元々彼女は苦しんでいるミランダ様を放っておけなくて、侍女にまでなったような人だから、そういう考えに至るのは理解できる。本当に誠実な人だ。

「けれど、どうして今までそれをランバ様に仰られなかったのですか? ブローズ伯爵令嬢からミランダ様のお気持ちをお聞きだったのでしょう。私などよりよっぽど実のある助言が出来たのではないですか?」

 俺はギルバード様がそれ程ミランダ様と内通出来ているにも関わらず、今の今まで知らぬふりをしていたのが気にかかり、ズバリと本音を聞いてみた。

 ランバ様も横で必死に、コクコクと頷いている。

「……エクノアがミランダ様の侍女であるように、私もまたランバの側近なんだ。お互い主が一番だ。自分達の都合や感情で主に意見を言う事など出来ない。ランバには思い人がいて、それを覆す事が出来ない以上、ミランダ様を優先するような話は出来ないからね。実は内心、彼女との仲も諦めかけていた。ランバがこのままミランダ様を顧みないようなら、エクノアに私との関係を迫るのは、彼女にとっても苦痛になるだけだろうと」

 ランバ様、項垂れています。

 ランバ様の思いはあちらこちらで迷惑をかけているのだな。いや、ランバ様一人が悪いわけじゃないんだけれど、ランバ様からファニーを奪った俺も、その件には一枚かんでしまっているからな。どうにか二人には幸せになってほしいけれど……。

「では、今はミランダ様の心がもう少し落ち着けば、話は進められるのですか?」

「さあ、どうだろうな? エクノアがミランダ様の幸せを見届けるまではと言っていたが、その見届けるの範囲が今は分からない。婚約なのか結婚なのか、もしくはランバ以外の誰かとの恋愛なのか?」

「ま・まって、まって。婚約・結婚は分かるよ。けれどなんで私以外の奴との恋愛なんだ?」

「ミランダ様がランバとの関係を幸せと感じなかったら、そういう選択肢もあるだろう」

「~~~~~」

 全くもってその通りだな。ぐうの音も出ないとはまさにこの事。とうとうランバ様が砕け散り、床に両手をついてしまった。

 けれどギルバード様の口元は、仄かに弧を描いていて……ツツツッと俺はギルバード様の横に移動する。

『実はこの件に、怒ってました?』

 小さな声で囁くと、ギルバード様は視線をランバ様に向けたまま、囁き返してくれた。

『ランバの気持ちも分かるから、何も言わず見守って来たつもりだったけれど、長年苦しませてはもらったからね。ほんの少しの意趣返しぐらいは許容範囲だとは思うが』

『……私も意趣返しされます?』

 俺の言葉にチラリと視線を寄越すギルバード様。

 俺が最初からランバ様の気持ちを知りつつも、無視して己の気持ちを貫いたのも、ランバ様の懐に入らないように距離をあけていたのも、ギルバード様なら全て理解していただろう。その上で今のように何も言わずに、見守ってくれていたのも今なら分かるから、だからそんな風に聞いてみたのだが。

『私もリスティ様のように鉄拳制裁をくらわしてみたいが、返り討ちにあいそうだからやめておく』

『今なら甘んじて受けますよ』

『冗談だ。アシュレイはそれ以上の事をちゃんとやってくれていただろう。それで十分だ。いや、釣りを返さなくてはいけないかもしれないな』

 そう言ってニヤリと笑ったギルバード様は、今まで一人大人だと思っていた表情とは打って変わって、年相応なやんちゃな雰囲気を醸し出していた。

「……何二人でひそひそと話しているんだい?」

 そんな俺達の雰囲気に気が付いたランバ様がゆっくりと顔を上げ、首を傾げながら聞いてきた。その仕草にギルバード様の目の奥が光った。

「ミランダ様にランバ以外の上級貴族で、恋愛できそうな方を候補としてあげてもらえるようにアシュレイに頼んだ。まあ、それは王妃様がもう集めていると思うが、私とエクノアの為にもこちらでも用意しようかと……」

「いきなり全員敵?」

 ギルバード様のその言葉に、ランバ様が顔面を蒼白にして叫ぶ。

 ……ギルバード様って、もしかしてランバ様をいじめる趣味があるのかな?

 この二人の関係性がちょっと怖い。

 俺はそろ~っと扉に向かう。これ以上、関わっていると確実に火の粉が俺の元にもやってくる。気付かれないうちに退散するのが賢明だ。

 その行動に一早く気付いたのはギルバード様。

「どこに行くのかな、アシュレイ? 話はまだ終わっていないよ」

 ニコリと笑うその顔は、先程俺には意趣返しなどしないと言った言葉が嘘だと言っているようだった。

「アシュレイ~、ここで見捨てる気かい?」

 ランバ様の、今にも耳としっぽが出て垂れ下がりそうな様子に、俺はすごすごと戻らざるをえないのだった。

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