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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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大人

「ファニリアス様は大丈夫だったわ。良かったわね、ルミ」

「ありがとう、ミルフィール。貴方がいてくれて本当に良かったわ」

「お礼を言うのはこちらの方よ。私の可愛い弟妹を守ってくれてありがとう」

「あら、私にとっても可愛い子供達よ。それに守ってくれたのは貴方の方だわ」

 私達は顔を見合わすと、プッとお互いに噴き出して笑い合う。

「お互いに大切な存在を守れて良かったという事ね」

「私達だけじゃないけれどね。あの子達を大切に思っていたのは……」

 そう言って互いにソファに深く座り込む。

 ここはハリスの屋敷。私はここで暮らしている。猫の姿でなくなった私は、ロレン家にそのまま世話になるわけにもいかず、かといってハワード家に身を寄せるにも気が引けていた。

 そんな時に誘われたハリスの家は、使用人もそこそこにいてそれなりの広さはあるのだが、貴族の家と違って格式ばったものがない。ありていにいえば楽なのだ。

 ミルフィールは貴族の令嬢なのだが、辺境伯という王都から離れた場所で暮らしていた為か、堅苦しいのは少し苦手なようだ。マッドンと共に森で暮らしても平気だったのも窺える。

 だから魔女の力を失い、私がミルフィールの夢の中に行く事が出来ない今、彼女はこうして私の元にやってきてくれるようになったのだ。

 マッドンがオーマン公爵に狙われている以上、いつまでも堅苦しいのは嫌だと二人で逃げ回っている訳にもいかないだろうに……これからどうするのかとは思うものの、彼女なら平気でマッドンを支えながら、その地位に君臨する未来も透けて見える。

 どちらにしろ、彼女はマッドンさえそばにいれば大丈夫なのだろうから。

「最初にマッドンを毛嫌いした私は、見る目がなかったのね」

 ついそんな言葉が漏れた。それを耳ざとく拾ったミルフィールはなんの事? と身を寄せて聞いてくる。ちょっと怖い。

「初めて会った時、リスティの影響でマッドンがアシュを試すように粗野な振る舞いで、彼を牽制しようとしたのよ。ちょっとその印象が良くなくて、アシュに彼に師事するのは反対だと言ったのだけれど、アシュは言う事を聞かなかった。結果、マッドンはとてもいい人で貴方ともこうして会えた。私は最初から色々と間違っていたみたいだと改めて思ったのよ」

「それは仕方がないわ。彼には彼の思うところがあっただろうし、貴方にも貴方の思うところがあるのだから。まあ、アシュレイ様の人を見る目が凄いという事でいいんじゃない」

 アハハと笑うミルフィールを見ながら、ファニーはこんなミルフィールを知らないんだろうなと遠い目になる。

 彼女はミルフィールを、盲目的に神聖化している節があるからね。

「それよりファニリアス様は、前回の様子を見せても壊れるどころか強くなっていたわね。流石私達の妹。アシュレイ様の気持ちを真っ向から受け止めて、前回の迷子になっていたファニリアス様自身の気持ちも報われたわ。ルミの思いが叶ったじゃない」

 私はミルフィールに時の魔女の話は出来ないが、ハリスと同様、前回のファニーの気持ちとファニーに夢で前回の記憶を見せた事を話したのだ。

 ミルフィールもかなり心配して様子を伺ってくれていたが、その後のファニーの落ち着いた姿に安堵したようだ。

「そうね。それもアシュが頑張ってくれたお陰だわ。ファニーが強くなったのも、こんな幸せな結末を迎えられたのも、全てあの子がいてくれたから。感謝してもしきれないわ」

「そこはアシュレイ様だけじゃなく、皆が頑張ったからでいいんじゃない。もちろん貴方も。貴方がどうやって魔女の力を失い、人間になったのかは知らないけれど、私達の知らないところでそうとう頑張ってくれた事は、ちゃんと分かっているわ」

 ミルフィールの言葉に私は目を見張る。まじまじとミルフィールの顔を見てしまった。ミルフィールは苦笑しながらも、コクリと頷く。

 ちゃんと分かってくれている……。

「アシュレイ様が言っていたわ。ルミの本当の名を聞きたいけれど、気に入ってくれているみたいだから、このままでいいかなって。名を聞く事で辛い思いをしてきたルミが思い返さないでいられるのなら、名など聞かなくてもいい。それにこれからは、ハリスさんがルミのそばにいて、幸せにしてくれるから、これで良かったんだよ。頑張った過去があるからこそ、未来はより幸せになる。ルミは最も幸せにならなければいけない人だよ。そうでしょ。て嬉しそうに言われたわ。愛されているわね、ルミ」

 ……私の頬を涙が流れる。ミルフィールがそっと抱き寄せてくれた。

 アシュは分かってくれていた。

 何も知らないのに、魔女の存在など知らなかった彼が、魔女の私を理解してくれていた。そうして人間になった私を受け入れてくれた。

「……本当に、人誑しよね、あの子は」

 私は泣きながら、つい憎まれ口をたたく。

 あの子を選んで良かった。アシュで良かった。私の涙が止まるのを待っていたミルフィールは、ジッと私の顔を見ながら呟く。

「私は貴方が羨ましいわ、ルミ。私には魔女の力が残っていて、マッドンまで魔法使いにしてしまった。もしも私達に子が産まれたとしたら、その子は魔女の力を引き継いでしまうのかしら? それも強力な。そうしたら私のように暴走してしまうかもしれないし、狙われるかもしれない。私の子も大変な目にあうのかと思うと、怖くて仕方がないわ」

 ミルフィールは、ブルリと震える自身の体を抱きしめた。

 そんな事を考えていたのね。まさかここにきて、ミルフィールがそんな事に悩んでいたなんて知らなかった。気持ちは分かるわ。だけど……。

「それは大丈夫じゃないかしら。ハッキリとした事は言えないけれど、貴方は先祖返りでしょう。純粋な魔女ではない限り、貴方の力が子供に残るとは思えない。貴方の力が強力なのは、貴方の体が魔女と適合した為。貴方の体だからこそなりえた事。マッドンも同じ。たまたま貴方から得た魔力が適合した。けれど彼はそこまで合うわけではなかったから、力を得たといっても微力なものしか得られなかった。だから貴方の力がこの先どう変化するかは分からないけれど、間違っても魔女としての人生を送るかは疑問ね。例えば寿命とか。多分っていうか確実に年は取るわよ。人間としてね」

 そう言って目じりを押さえてやる。確実に皺が出るであろう場所に。

 ミルフィールは呆然としながらも、私の言葉の意味を理解するとハッと顔に手をやる。

「し・失礼ね。まだまだ大丈夫だわ。ルミだって見た目は私と同じくらいなんだから。一緒に年をとっていくのよ」

「そうね、楽しみだわ」

 ミルフィールが必死で一緒だと言う言葉に、私はとても嬉しくなる。そう、一緒に年をとるのだ。お互いに。

 私のそんな思いが伝わったのか、拗ねていたミルフィールもクスリと笑う。

「貴方がいて良かった」

 ――皆がいて良かった。

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