夢
チチチッ、チチチッと鳥のさえずる声がする。朝日がカーテンの隙間から入って来る。
もうすぐミナが起こしに来る時間。先に一人で着替えよう。この汗ばんだ肌を見られたら、心配してしまうかもしれないから。
……おかしな夢を見たわ。
何故か私はランバース殿下の婚約者で、アシュとは友人。けれど、アシュだけが私の辛い気持ちに気付いてくれる。助けてくれる。ミランダ様に話を聞いたからかな? ちょっと以前のミランダ様に似ているような気がする。
違うのはアシュには私のような婚約者がいなくて、アシュは王子の婚約者である私に仄かな思いをもっていてくれる事。そして私も……。
王子の婚約者としてそんな思い、許されるはずがない。それなのにもってしまった淡い思いは行き場がなくて、お互いに秘め続けなくてはいけない。
二人で仮面を被る。誰にも悟られないように、この思いと共に自身を隠す。
何故か、私は皆に嫌われて一人になる。
王子の隣に別の女性が立っている。その光景は正直そんなに辛くはない。辛いのはその彼女の後ろにアシュがいる事。アシュが私から離れていく事。
学園の人間は私を見る時、蔑みや嫌悪感を瞳に映すのに対して、彼は感情のこもらない瞳で口角だけを上げている。見るからに異常な光景。
そして私は牢獄へと収監された。何故? 何もしていないのに、あっという間に処刑されようとしている。
私の姿は良く見えない。ぼやけた物体がそこにはあるのに形が用をなさない。私が殺されようとしているんだなという事が、客観的に感じるだけ。
そうして最後を迎えようとした瞬間、アシュが笑っていた。ああ、アシュの笑顔久しぶり。そんな風に感じた私を抱えたアシュは、私と共に命を落とす。
――そこで目が覚めた。
よく分からない夢。私とアシュが何故死んだかも、どうやって死んだかも分からないのだが、確実にアシュが私の後を追ってきた事だけが伝わった。
アシュがいつも口にするような事が本当に起きたのだと……いえ、これは夢だから本当に起きた訳ではないのだけれど……やけに生々しい夢だった。
そうね、アシュならやりかねないわね。私を絶対に一人にしないと豪語するアシュなら。
私はフフっと笑う。
死の世界まで追いかけようとするアシュは異常だ。それも淡い思いを抱いただけで。
けれどそんな夢を、私は受け入れてしまっている。狂気の愛を嬉しいと感じている私もまた、アシュの事をとやかく言えない。
夢の中の私も追ってきてくれたアシュに、歓喜しているのだから。
「御機嫌よう、ファニリアス。来てくれて嬉しいわ」
「どうしたの? ファニリアス様。目の下にクマが出来ているわよ」
ミランダ様とミルフィールさんに会いに城に来た私は、ゆったりと挨拶するミランダ様に対し、化粧で上手く誤魔化せていると思っていた私の表情の悪さを、ミルフィールさんに言い当てられて、挨拶も出来ずに困ってしまった。
「ごめんなさい。挨拶が先ね。御機嫌よう、ファニリアス様」
「ミランダ様、ミルフィールさん、御機嫌よう」
そう言ってミルフィールさんはギュッと私を抱きしめてくれる。ミルフィールさんの抱擁はとっても落ち着く。
「少し夢見が悪かったのですが、大丈夫です。問題ありません」
「夢見が悪かったなんて、何か心配事でもあるのかしら?」
「いいえ、何も。それに最後は幸せでしたから。私が死んじゃう夢なんですけれど、アシュが追ってきてくれたから」
ビクッと肩を揺らすミルフィールさん。どうしたのかしら?
ミランダ様が大きな目を真ん丸にして、えっとファニリアス、と声をかける。
「自分が死んじゃう夢なのに、アシュレイ様が追ってきてくれたから幸せなの?」
「はい。アシュは絶対に私を一人にしないといつも言ってくれるのですが、それが実行されたような夢でしたから、幸せです」
「分かるような分からないような……ごめんなさい。二人が凄いって事だけは理解したわ」
「フフ、分からなくていいのですよ。私達二人は異常ですから。けれどそれでいいのです。アシュも私もお互いの思いが深すぎて気持ちが悪いのに、心地よさを感じているのですから」
「……二人にしか分からない世界って事ね。分かったわ。これ以上聞くのは控える事にする」
苦笑しながらミランダ様は引いてくれた。良かった。これ以上話しても理解しがたいだろうし、こんな気持ち理解されても困っちゃう。
私がニコニコしていると、ミルフィールさんが隣で苦笑しながら私の頭を撫でてくれる。気持ちがいいな。
そんな私達の様子を伺いながら、ミランダ様の侍女がテキパキとお茶の用意をして、部屋を出て行った。どうやら三人だけにしてくれるよう、予め話してくれていたのだろう。
「ところでミランダ様。本日はご相談があると伺ったのですが、どうされました?」
私はその心地の良さを堪能しながらも、そわそわしているミランダ様に話をふる。どうやら待ちきれなさそうだものね。ミランダ様は嬉しそうにしながらも、困った様子でもじもじとドレスのスカートをいじくる。
「あ、いえ、あの……ランバース様の事なのですが……」
「あ、はい。アシュがランバース殿下側についたと聞きました」
「え?」
私の言葉にミランダ様は驚いたようにスカートを離す。
「あ、あくまでミランダ様の気持ちが一番ですよ。ただ、今の状況じゃ余りにもランバース殿下に不利過ぎるからと頼まれたそうです。ランバース殿下の自業自得は仕方がないとしても、これではミランダ様自身も選ぶ方法がないのではないかと。ランバース殿下の努力は空回りしていて、ちょっと不憫だとも言っていました」
「そ・そんな事はないわ。ランバース様が気にして下さっているのは、分かっているのよ。婚約者という立場におりながら、失礼極まりない事をしているのも、十分理解しているわ。けれど私のような者に、王妃様が心血を注いで下さっているのに、そのお心を無下にするような事は出来ないし、本当にどうしたらいいのか……」
アシュが言っていた通りだわ。今の状況はミランダ様も辛いと感じてしるのではないかと。
私は少し考える。そういえばアシュが一度、ミランダ様にお会いしたいと言っていたわね。
「もしよろしければ、アシュを呼びます?」
「え? ここに?」




