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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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結果

 最近の日課の一つに、夕食後は父上の執務室に連行される。という項目が追加された。

 今日も当たり前のように父上に連れていかれたのは、件の執務室。

 いつものように父上が、執務室の中央にある自身の机の重量感溢れる椅子に座り、俺は隣に置かれた机の椅子に座る。

 当たり前のように持ち込まれた机は俺のものであるらしく、手伝えるものは手伝えという事らしい。

 そうして一日の報告が始まる。

「黒の魔女ことローズマリーがゴルフォネに送られた。ルミ殿から聞いた、黒の魔女はおそらくマキアート男爵家の本当の令嬢ではないのではないかという情報だが、自身の事は一切話さない魔女からは証拠を掴む事は出来なかった。しかし戸籍上、ローズマリーはマキアート男爵家の令嬢である以上、マキアート男爵家もただではすまない。そう思って以前より周辺を調べていたのだが、何て事はない。流石黒の魔女と親子関係だっただけの事はある。マキアート男爵家も子供を持つ前より真っ黒な人物だったよ」

 とうとう黒の魔女がこの国から出て行った。後は魔女の扱いに慣れたゴルフォネが正しく裁いてくれるだろう。俺はやっと心の底から安心して、ファニーと共に生きていく事が出来る。

 しかし黒の魔女の親であったマキアート男爵も、子供を持つ前より犯罪に手を染めていたという事は、魔女に操られていたわけではなさそうだ。俺は父上から続きの報告を聞く。

「しかも、面白い事にジェルダー公爵との繋がりもバッチリ出てきた。ジェルダー公爵に関しては、違法な薬物の取引から人身売買と悪行の限りを尽くしていて、証拠もそろってきたのでそろそろ潰しておこうかと思っていたのだが、それにマキアート男爵家も一枚かんでいた。ワイン輸出もその内の一つだな。ワインを輸出する際に攫った人間を奴隷として他国に連れて行っていたらしい。この際もろともに叩き潰しておこうかと思うのだが、お前も手伝うか?」

 ニコニコと笑う父上が怖い。ジェルダー公爵には昔から色々と思うところがあったそうだから、無理もないか。けれど人身売買とは……俺はふと引っかかるものがあり、父上にたずねてみた。

「ジェルダー公爵が薬物に関与していたのは知っていましたが、人身売買にまで手を出していたのは知りませんでした。けれどそれって、もしかして妖精話と関連していたりします?」

 この国に伝わる子供に聞かせる本の内容に被るものがある。

「お、鋭いな。そうジェルダー公爵家が人身売買に手を染めていたのは、かなり古くからのようだ。我が家でもその事には先々代から気付いていたようだが、内容は別としてやる事が小物過ぎて、どうにも証拠が掴めなかったようだ。年に数回、鄙びた村から数人いなくなる程度だから、そこから妖精話が出てきたのだろう。先代の頃から我が家に見張られている事に気付いて、最近は大人しくしていたようだが、マキアート男爵が公に他国との輸出を始めたのがきっかけで、また暗躍し始めたようだな。どうだ? 興味深いだろう。もう一度言う。お前も手伝え」

「……なんでそんなに楽しそうなんですかね。申し訳ありませんが、私はまだ学生の身なので、そこまでは遠慮しておきます」

「今更だな」

 ハハハと笑う父上は、本当に楽しそうだ。邪魔だったジェルダー公爵が片付くのがそんなに嬉しいのかな? まあ、俺の代でも彼がでしゃばる恐れは大いに感じていたので、ここで叩き潰すのはいいかもしれません。けれど、それに俺を巻き込まないでほしいなぁ。父上はたまに勘違いされるが、俺はまだ学生ですからね。

 しかしジェルダー公爵の小物感が半端ないな。

 薬物もそのまま使用すればかなりの被害が出るような代物だったのだが、本来のケチ臭さが幸いしたのか、かなり薄めて作っていた為、効きは薄く多少の記憶が飛ぶ程度のようなものだったらしい。

 それに人身売買に関しても、人一人いなくなったのだから本来は大変な事なのだが、狙う場所が鄙びた村や人数が把握できない集落のような場所から、年に数回いなくなるというもの。公にもされなければ探す者がいない人間を連れ去るのだ。

 この証拠を掴むのはかなり難しい。それをマキアート男爵と手を組んだ事で、派手に動くようになったのなら、証拠はゴロゴロ出てくるだろう。

 探す者がいないからといって人を攫うなどといいう、非人道的な行為をしていた奴の一族は、この際徹底的に父上に叩きのめしていただきたい。

 子供の頃には必ず読むと言われていた妖精話を聞くたびに、父上が眉をひそめていたのを俺は知っていたから。

「いいじゃないか。こんな機会滅多にないぞ。黒の魔女が片付いた今、お前も暇になるだろう」

 尚も楽しそうに俺を巻き込もうとする父上。清々するのは良く分かるが、余り子供に早くから大人の闇を見せつけないで下さいよ。いや、子供と思われてないのは良く分かっていますが……。俺は溜息を零しながら父上の誘いを断る。

「それが、そうでもないんですよ。俺も中々に忙しいので、今回は遠慮しておきます」

「ん? 何かあったのか?」

 父上は断られた事より俺の言葉に興味を惹かれたのか、また何かあったかと首を傾げる。

「ランバ様の手伝いをする事になりました」

「ああ、なるほど」

 ランバ様の名前を出しただけで、父上には察しが付いたようだ。

 これは別にクレノさん情報ではない。単に今、城では話題の的になっているだけだ。

 王妃様とランバ様によるソネット様争奪戦が。

 ソネット様の周りをウロウロするランバ様に対して、鉄壁の守りをみせる王妃様。

 ランバ様の望む通りの場所に問題なくお連れするのが、ランバ様の護衛騎士の役目、ソネット様の部屋の扉を死守するのが、王妃様の護衛騎士の役目。

 お互いの護衛騎士の矜持も合わせて、城では白熱の戦いが繰り広げられている。

 ソネット様に批判的だった貴族までもが、王妃派とランバース派とに分かれて、ソネット様の幸せを祈る様になった。

 知らぬは本人、ソネット様ただ一人。

 もう、なんだな。ここまでくれば本当に好きかどうかなんて関係ないような気がしてきた。

 だって好きでもない相手をここまで必死で追えるものかどうか、考えれば自ずと答えは出てくるだろうに。ランバ様も面倒くさい人だ。

「そういえばソネット公爵家が、三柱から辞退する事になったぞ」

「え?」

 そう、三柱は我がハワード公爵家、オーマン公爵家、そして残りの一つがソネット公爵家だったのだ。だが、先代が亡くなり今の公爵が継いだ途端、柱の役目はほぼなしていなかった。今の公爵には三柱の役目を果たす力はなかったのだ。

 ミランダ様の婚約もそれを補う意味もあったのだが、その役目を担うミランダ様の優秀さに、己の無力さを突きつけられているように感じたソネット公爵は、ミランダ様を貶めるという愚かな行為を続けた。

 王族を始め、ほとんどの貴族がミランダ様の状況を感じ取ってはいたのだが、ソネット公爵家が三柱の一つであった為、苦言を呈する事も出来ず、我が父上やオーマン公爵も三柱の均衡を考えれば口出しする事もかなわず、またミランダ様の身の上を口にしてしまえば、ソネット公爵がしている愚かな行為が公になってしまうので、、箝口令を出すまでもなく誰もが口に出来なかった。結局、俺達のような年若い者が一切知らなかったのは、そういう訳だったのだ。

 その中で、王妃様が少しでもソネット公爵家で過ごす時間を減らす為にと考えた王妃教育の時間は、ミランダ様に逃げ場をつくってあげる為のものだったのだが、それは裏目に出てしまっていたらしい。

 結果、今回の件で王妃様の怒りが爆発してしまい、ミランダ様をソネット家から引き離す為、王妃様がこのままランバ様との婚約が破棄された場合は、養女として引き取るとまで口にした。

 そうしてソネット公爵の行為は公になり、三柱から辞退する事となったのだそうだ。

 王妃様のミランダ様に対する愛情、半端ねぇ~。

「それでは三柱の一つはどうなるのですか?」

「エディック宰相が継ぐ事になるだろう」

「ああ、適任ですね。それに次代はギルバード様だ。心強い事この上ない」

「ミランダ嬢がランバース殿下と婚約続行となった場合は、エディック家の養女になるらしいぞ」

「え? そんな事まで話が進んでいるのですか?」

「王妃様がランバース殿下と婚約破棄して自分の養女にすると息巻いておられるから、ギルバードが宰相に提案したそうだ。宰相も未来の王妃には今更知らぬ令嬢よりも、ミランダ嬢の方がいいと思っている口だからな。殿下の味方のギルバードと手を結んだそうだ」

 ちょっと怖い親子関係ですね。けれど、そっかぁ。じゃあ、ミランダ様はどちらにしろ幸せになれるな。良かった、本当に安心した。

 俺の表情が和んだのを確認して、父上がニヤニヤ笑いながら聞いてくる。

「お前も殿下の味方なんだな。現状、殿下はどんな作戦に出ているんだ? 教えろ」

「そうですねぇ、とりあえずミランダ様に、ランバ様の存在を意識してもらうところから始めさせています。会えないので物理攻撃一択ですが、まずはカードに始まり、手紙や花、お菓子などの軽めのプレゼント攻撃です。それを毎日欠かさず続けさせています」

「ああ、お前がやった手か」

「失敬な。俺のはあくまで心からの行動です。計画を立てた訳ではありません」

「はいはい。で、効果は出ているのか?」

「こちらからはなんとも。肝心のミランダ様のお姿が見えない以上は、喜んで下さっているのか確認しようがありません。ですのでファニーにも協力してもらおうかと思っています」

 俺がそう言うと、父上は突然出てきたファニーの名に、目をパチクリとさせている。

「ファニリアス嬢はミランダ嬢の味方だろ。ランバース殿下の手の内のお前に協力してくれるのか?」

 素直な質問だな。その通り。ファニーはあれから時間があればミランダ様の元に通い、ミルフィール様と共に彼女の話し相手になっている。王妃様同様、ファニーはミランダ様の絶対的味方となっている訳で、その彼女にミランダ様が心乱れるようなランバ様の話などさせる訳にはいかない。

「それはファニーにも酷な事ですから、私が確認しようかと。ファニーには、ミランダ様に会えるように手はずを整えてもらおうかと思っています。もちろん、ファニーとミルフィール様が同席する状態で」

 なるほどと父上は頷きながらも、ジッと俺の顔を見る。

「ふむ。まあ、それもいいが、ミランダ嬢はお前と会っても大丈夫なのか? 倒れられる寸前にお前が欲しいと言っていたのだろう?」

「あ、あ~、それは、本心ではないですよ。あの時は縋り付けるものが私だけしかなかったからで、元気になられた今、ファニーに謝ったそうです。自分はどうかしていたと、心からの謝罪を受けてしまったとファニーも言っていました。今はお見舞いに行っても私の話なんか一言も出ないそうですよ。恋愛小説の話ばっかりだって」

 ミランダ様が内心では俺を思っているのではないのかと、父上はたずねられているのだろうが、そんな事はない。あれはあくまで黒の魔女による策略で、ミランダ様も心細くなられていただけなんだ。そう言うと父上はニヤニヤと笑う。

「ふうん。残念だな、色男」

 俺はその揶揄い口調にムッとして反撃する。

「なんですか、それ? 俺にはファニーがいれば十分ですから、他の方に気にして頂く必要は微塵もありません」

「お前は本当にぶれないな。我が息子ながら清々しいよ」

「父上はモテたいのですか? 分かりました。母上にそのように伝えておきます」

「そんな訳あるか。いきなり敵に回るな。なんだ? ダリアとの話が聞きたいのなら、朝まででも話してやるぞ」

「……本当にそうなりそうなので、遠慮しておきます」

 遠慮すると言ったのに、まあそう言うな。今後の参考にしろ。と結局俺は父上に捕まって、執務室を出たのは皆が寝静まってからだった。

 俺の貴重な睡眠時間、返せ~。

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