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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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主要人物

 黒の魔女が笑みを消し、蛇のような目で絡みとるように俺を睨む。

 これが黒の魔女の本性。

 師匠が俺を背に庇おうとするが俺はその手を止め、そのまま黒の魔女と対峙する。

 大丈夫。かわらずミルフィール様が、水の縄で黒の魔女を拘束している。

 何も出来るはずがない。

「お前の事など知るものか。自惚れるな。何度も言っているだろう。お前の生き方が気に入らない。ただそれだけだ。それよりも話を戻せ。お前は何を企んでいる?」

「知りたければお前も答えろ。お前は私の何を知っている?」

 ギロリと睨みつける黒の魔女は、一歩も引く気はないようだ。

 誤魔化されないか……どうする? 時を繰り返したなどと黒の魔女に教える訳にはいかない。けれどこのままでは本当にヒュージニアの軍隊が攻めてきた時、対処法が思いつかないのだ。

 どのような経緯で軍隊を出動したのか、それが分からなければ伝える言葉がない以上、力で押さえつける他なくなる。そうなれば否応なしに戦争は持ち込まれ、この国は戦地となり田畑は荒らされ、民は命の危険にさらされる。そうならない為には、どうにか黒の魔女から情報を聞き出さないといけないが、俺の情報を隠したままとなると……。

「私が彼に話したからよ」

 緊迫した空気を壊したのは、夢の中で何度も聞いた声。猫の声量からでは出ない不思議な澄んだ声。

「ルミ!」

 ファニーがその名を呼ぶ。

 俺達には馴染みのある、そして初めて目にした者には驚きと眩しさに震える美しい白髪の女神のような姿。白の魔女、ルミがそこにいた。

「お……前は、あの時の瀕死の魔女⁉ 生きていたのか?」

 黒の魔女は、驚愕に震えながらもその目をルミから離さない。

「お陰様でね。彼に助けてもらったのよ」

 フワリフワリと風のように軽い足取りで、ルミは俺の隣に立つ。

「まさかとは思っていたが、やはりお前達は繋がっていたのか……」

「貴方が王都入りした時、気配を感じたわ。私の力を使ってよからぬ事をするんじゃないかと思って、彼に私の正体を話して貴方を警戒し、見張るようにお願いしたの」

 悪い予感が当たってしまって悲しいわ。と白の魔女ルミは泣きまねのように、手を目の下にあてがう。その姿に場違いにも、騎士達の顔が赤くなる。

 その様子に黒の魔女は鼻をならす。

「ふん、お前の力などなんの役にも立たない。たいして面白くもなかったわ」

「当り前よ。その力は貴方を楽しませる為にあるわけじゃない。本来は人の心に安心と安らぎを与えるもの。貴方のような邪な心で使えるものじゃないわ」

 睨みつける黒の魔女の言葉をサラリとかわすルミ。

 黒の魔女より力が弱いと言っていたが、なかなかに強気な態度だ。

 ルミの登場で話はそらせたが、このままでは黒の魔女が何をするか分からない。俺は横やりが入る前に話を元に戻す事に決めた。

「俺がお前の事を知っていた理由が分かっただろう。今度はお前の番だ。ヒュージニアの誰にどのような妄言を吐いた? どうやって王を動かした? 全て話せ」

 黒の魔女はルミから俺に視線を戻すと「はっ」と鼻で笑う。

「話すと思うのか? おめでたい奴だ。そんなに知りたければ自分で調べればいい。白の魔女と組んでいたお前は確かに邪魔だった。が、戦争がおこれば少しは私の溜飲が下がるというもの。このまま苦しむお前達の顔を見るのも愉快なものだ」

 ケラケラと笑う黒の魔女に俺は近付く。おもむろに拳をあげて……。

 ガッ!

 ズササッと黒の魔女が横に転がる。

 皆が俺に注目をする。魔女とはいえ身動きの取れない女を殴ったのか、信じられないというような顔。

 確かに俺は殴る気満々だった。女だろうがなんだろうが、このままでは罪のない人達が傷つく。力ある者としてハワード家の嫡男として、俺はどのように言われようが構わない。戦争が回避出来るのなら泥をかぶったっていい。

 それにこの女が前回、ファニーにした事はこんなものじゃすまない。

 そう思って拳を振りあげたが……俺、まだ拳おろしてないけど?

 俺は上に掲げられたままの自身の拳を見つめる。

「アシュは約束を守ったわ。貴方も魔女ならば約束を守りなさい! 知っている事、全て話して。でないともう一発いくわよ!」

 隣で叫ぶのは、まさかのルミ!

 え、待って、ルミ? まさか君が殴ったの? その細腕で? 

 えええええ???

 皆が唖然とする中、俺は本当にもう一発殴ろうとしているルミの手を止める。

「ル・ルミ、まってまって。手真っ赤になってるじゃないか」

「これ以上アシュが一人で全てを背負う必要はない。もとはといえば私が力を奪われた所為なの。黒の魔女と戦わないといけないのは、同じ魔女の私。大切な人を守れないで何が白の魔女よ。これ以上、傷つく人を見るのは絶対に嫌!」

 ごめん、ルミ。言っている意味は分かるんだけど、俺の心配してくれてるのもよお~っく分かるんだけれど、魔女の戦いがまさかの拳って……なんか、違う気がする。

「勇ましいな、ルミ殿」

 ポンッと俺の肩を叩くと共に、やんわりとした優しい渋い声が俺の隣から聞こえた。

「ハリスさん! と、え? 父上?」

 ハリスさんの後ろには、よう! とばかりに片手を上げる父上がいた。

 次から次へと現れる主要人物に、俺は目眩がするのを抑えられなかった。

 ファニーが慌てて俺を支えてくれる。ありがたいのですが、その小さな体で俺を支えるのは無理です。俺はファニーに負担をかけないように自力で立つ。

 俺から離れたハリスさんは、ルミを抱きしめていた。

 ルミは真っ赤になりながらその腕から逃れようとしていたが、ハリスさんは離す気がない様でニコニコと笑っている。

 …………………………。

 その光景に俺が指を指しながら父上に答えを求めるが、それは放っておけとばかりに父上は俺の隣に来て、横たわったままの黒の魔女を見下ろす。

 黒の魔女が睨みつける中、父上は黒の魔女に顔を近付けて話す。

「初めまして、黒の魔女さん。私は貴方の大っ嫌いなアシュレイの父親、リスティ・ハワードです。ああ、覚えてくれなくて結構ですよ。一応自己紹介したかっただけですから。貴方はこのまま魔女裁判をしますので、投獄します。が、我が国では魔女という存在はお話の中だけの存在なので、知識のある大国ゴルフォネに送りますね。そこで今までの貴方の罪を全て公にして裁かれちゃって下さい。いくら愚息とはいえ、私の息子を傷付けた罪は重いですから」

 ニコオ~っと、父上が黒い笑顔を黒の魔女にむける。

 一瞬にして青くなった魔女は、体をガタガタと震わせている。

 魔女裁判という言葉よりも、父上の黒い笑顔に恐怖を感じているようだ。魔女にも父上の怖さが分かったのだろう。決して怒らせてはいけない人物だという事に。

 けれど黒の魔女もただではやられない。必死で憎まれ口をたたく。

「い・言っとくけど、どんな拷問を受けようとヒュージニアとのやり取りは教えてやらないわよ。このまま戦争に突入すればいいわ」

「ああ、そんな事、結構ですよ。もうヒュージニアの軍隊は引きあげましたから」

「え?」

 これには黒の魔女だけではなく、その場にいるハリスさん以外の全員が、目を点にした。

 ん? 父上、今なんて言いました?

 引きあげたって……軍隊が? ええっと……。

「……申し訳ありません、父上。説明を頂いてもよろしいでしょうか?」

 俺の脳みそが悲鳴をあげた為、俺は素直に降参した。

「ん? 分からないか? 話は至極簡単だぞ。我がハワード家には誰がいたか考えてみろ」

 その瞬間、俺の脳裏を横切ったのはクレノさん。

 ちょっと待って。クレノさんってそこまで有能なの?

「まあ、普段はそこまで入り込まないけれど、今回はな。お前がいじめられた事、多分俺達の中で一番怒っていたんだろう」

「え、なんで?」

「特別なんだよ、お前は。素直に喜べ。それが一番奴も喜ぶ」

 父上にくしゃくしゃっと髪を掻き回される。

 なんだよ、皆して。甘やかされて可愛がられて……溺愛されてんのかよ、俺。

 俯いて父上にいいようにされている俺は、ファニーと目が合う。

 ニコリと笑うファニーに、俺は照れながらも笑う。

 お互い溺愛されちゃってるね。

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