反撃
城に着いた俺達に、皆の目が一斉に集まった。注目を集めたのは、紛うことなきファニー。
全員が集まっている城の庭に遅れてやって来た俺達は、皆に遅れた謝罪をし、ファニーの紹介をした。
ファニーが来る事を知らなかったランバ様、ギルバード様、リアリル様は軽く驚かれてはいるものの、すぐに受け入れてくれた。
言葉を発しないのはヒュージニアの面々。カラクスト王子の顔は真っ赤に染まり、口が半分開いている。アニシエス王女も唖然とした表情で扇が落ちそうになっている。あ、落ちた。
黒の魔女に至っては、これ以上にない程、目をひん剥いている。
やっぱり今日は来ていたか。
俺は黒の魔女を目の端に捕えながら、奴の行動を考える。
昨日は様子見ってところだったのだろう。王子と王女が俺に対してどのような態度をとるか。明確な敵意を俺に向け、排除した二人にさぞかしご満悦だったに違いない。
今日はとどめとばかりに俺がやり込められるのを、目の前で見たかったのだろうな。
公爵位とはいえ、流石に他国の王族に刃向かう訳にはいかないだろう俺を見て、高笑いしたかったのだろう。
そんな優越感極まりない表情が、最初に見た時には張り付いていた。が、俺の隣のファニーを見て、一瞬にして強張らせた。
俺はそ知らぬふりを続けながら、王子・王女の元にファニーを連れて行った。
「あ、君は、その、ハワード殿の婚約者?」
王子が顔を赤く染めながらも、ファニーの挨拶に言葉を返す。
「はい、遠路はるばるようこそ。夫と共にお二人がこの国を楽しまれるお手伝いが出来れば、幸いにございます」
「え? 夫って?」
突然のファニーの夫発言。カラクスト王子が目を丸くする中、俺は瞬時に理解した。
彼女の演技に乗ろう。
「あ、失礼いたしました」
慌てるファニーの腰をそっと引き寄せ、彼女の耳元で嘯く。
「ファニー、嬉しいけれどまだ私達は婚約中だ。夫と呼ぶのは内々だけにしておこう」
「そうですわね。申し訳ございません。つい癖で。貴方に恥をかかせてしまいましたわ」
「君に恥をかかされるなんて光栄な事、一度ぐらいこの身に経験したいものだ。君は完璧すぎていつも私は落ち着かない。いつか誰かに取られてしまうんじゃないかと、目を見張らせる毎日だ。君の美しさ、流れる様な所作に片時も目が離せない」
「……アシュ」
そう言って俺達は見つめあう。
隣で全員が顔を真っ赤にして、唖然としている。
甘ったるい空気を破ったのは、ギルバード様。
コホンっと一つ咳をして、皆の注目を集める。
「失礼いたしました。この二人は婚約を結んだ幼い時からずっとこうなのです。構わず進みましょう。奥には珍しいバラが沢山咲きほこっております」
そう言ってバラ園の方へと皆を先導する。俺達はお互いを見つめ合いながらも、目の端で皆を観察する。ギルバード様の後に、苦笑するランバ様とリアリル様が続く。
誘導されながらも、カラクスト王子とアニシエス王女がチラチラとこちらを見ている。黒の魔女は悔しそうに項垂れながら、王子達の後に続く。
全員が動き出した後、俺達はゆっくりと後ろからついて行く。もちろんお互いを見つめながら。
『こんな感じ?』
ぼそっとファニーが微笑みながら俺に囁く。
俺も歩きながら、わざとファニーに顔を近付ける。
『上出来♡』
周りからすれば俺達は、イチャつきながら歩いているようにしか見えないだろう。
王子と王女が俺達を見ながら、ひそひそと話しあっている。隠す気なしだな。
『何あれ? 何あれ? あれが婚約者? あんな可愛い子蔑ろにしてローズマリーに言い寄ったの?』
『いや、ありえないだろう。あのイチャつきぶり。あれで他の女性に目がいくって、ない、ない』
『じゃあ、ローズマリーの言っていた話は……』
二人がそっと俺達から黒の魔女に視線を向ける。
その二人の行動に黒の魔女は気付かないのか、はたまた俺に対しての憎しみが酷く周りが見えていないのか、俺を睨みつける視線を崩さない。
「「ひっ!」」
そんな黒の魔女を見て、二人が悲鳴を上げる。
突然、王族が上げた悲鳴は周りの者に警戒心を走らせた。
「どうされました? カラクスト王子、アニシエス王女」
ヒュージニアの従者達が一同に、二人の周りに集まる。
「あ、あ、あ……」
二人はまともに声を上げられず、その場にへたり込んだ。俺はファニーと共に二人に駆け寄り、声をかける。
「どうしました? 何か恐ろしいものでも見ましたか?」
俺のその言葉に、二人は同時に黒の魔女を見上げる。
その目が恐怖に染まっていく。
その瞬間、初めて黒の魔女は己の失敗に気が付く。が、もう遅い。
「あ、あのカラクスト王子、アニシエス王女。大丈夫で……」
「「来るな!」」
「!」
二人は同時に叫び、魔女の接近を拒む。
「お前は何者だ?」
「私達に近付かないで!」
そう言って必死で黒の魔女から離れようとする。
ギルバード様がランバ様とリアリル様を背に庇う。
護衛騎士が全員の前に立ちふさがり、応援の騎士を呼ぶ。
黒の魔女の周りを騎士が囲む。
その光景を押し黙って見ていた黒の魔女は「はっ」と言って、顔を醜く歪ませていった。
「もう少し遊びたかったのに、やっぱり瀕死の魔女なんかの力は弱すぎるのね。拍子抜けだわ。もういい。せっかく王都の中心、城に潜入出来たのだから、最後に遊んでから去る事にしましょう。私の本来の力、試してみる?」
そう言ったかと思うと、黒の魔女の周りに火の粉が上がる。
それはポツリポツリと浮かび上がったかと思うと、おもむろにこちらに向かって飛んできた。
俺は咄嗟にファニーを自分の腕の中に囲い込む。
「させないわ!」
火の粉に向かって大量の水が多いかぶさる。
「なっ!」
その水の渦から現れたのはミルフィール様。
黒の魔女はミルフィール様を見るなり、表情を蒼ざめさせた。
「無事か、アシュ?」
そう言ってファニーもろとも後ろに引っ張られる。
師匠が俺達を背に庇い、黒の魔女に剣を向ける。
「な・によ、貴方……その力、白の魔女?」
「いいえ、私は末裔。純粋な白の魔女ではないわ」
「末裔って、純粋でもないくせにどうしてそんなに力が強いの?」
「知らないわよ。こっちだって迷惑してるの。貴方みたいに楽しむ事なんか出来ないんだから」
ミルフィール様が叫ぶ。あ、あれ? 黒の魔女と対等に言い争っている? ミルフィール様ってこんな方だっけ?
なんとなく師匠の方を向くと、師匠があちゃ~という様に片手で目元を覆っている。
ミルフィール様、もしかして……キレてる?
「ミルフィールさん!」
ファニーが隣で叫ぶ。ミルフィール様はファニーの姿を見つけると花のような笑顔を向けた。
「ファニリアス様、無事ね。良かった。下がっててね。ちょっとだけ暴れるから」
「え? 暴れるのですか?」
「ええ、国王様と王妃様には了承を得たから」
その言葉に、その場にいた全ての者の目が点になった。
俺はそろ~っとまたもや師匠を見る。視線が合った師匠は、こっちを見るなとばかりに両目を塞いで首を横に振った。
「さあて、よくもうちの可愛い弟妹達をいじめてくれたわね。覚悟しなさい」
そう言ってミルフィール様は、言葉とはそぐわない美しい笑みをその顔に乗せるのだった。




