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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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協力

 昨日訪れた他国の王子と王女を招待してのお茶会は、ローズマリー・マキアートという黒の魔女の言葉で、一気に異常な空間へと変化した。

 我が国の第一王子の婚約者が病に伏している中、その席を狙っている黒の魔女や王女は、婚約者を貶め排除しようと躍起になっている。

 その攻撃に、まさか学園での出来事を話題にされ、その上王子の秘めた思いまで利用されるなんて。

 第一王子ことランバは、一方的に交わされる彼女達の会話をただ呆然と聞いている。

 それはそうだろう。まさかこのような場所で、自分の秘話を話されるなんて、夢にも思わなかった事だろう。しかも、それに対してなんの関係もない他国の王族に、根掘り葉掘り言われているのだから。

 何も知らないサラン様は、異常な光景に目を丸くされている。

 そういう私も、すぐには言葉が出てこない。

 それでもどうにか言葉を捻りだそうとして、口を開こうとした時、隣から押し黙ったような笑い声が聞こえてきた。

「フ、フフフ」

 下を向きながら、肩を震わせるアシュレイ。

「……何を笑っておられるのですか、ハワード様?」

 マキアート嬢がそんなアシュレイを、怪訝な声音でたずねる。

「いえ、余りにも馬鹿馬鹿しい話だったので、つい……失礼しました」

 クスクスと笑いながら、目だけはマキアート嬢を睨みつける。

「…………………………」

 そんなアシュレイに、マキアート嬢も負けずと睨み返す。

「王族を笑うなど不敬ですわよ!」

 そんな二人の空気を壊すかのように、アニシエス王女が顔を真っ赤にして、アシュレイに怒鳴りつけた。

 ヒュージニアの従者が、何事かとこちらに近付く。

「不敬とはどなたの事を指すのでしょう? 我が国の王子を、たかが学生の噂話を鵜呑みにして、ある事ない事仰っているのは、そちらではないですか?」

 アシュレイの引かない態度に王女はビクリと肩を揺らし、ヒュージニアの従者達は現状を把握しようと、一旦動きを止める。

「ある事ない事って、ローズマリーがちゃんと聞いてきた話だって……」

 それでも言い返そうとする王女を、アシュレイはすっと立ち上がりその長身から王女を見下ろす。

「あくまで噂ですよ。証拠はあるのですか? しかも、先程から話されている突き落とされた女生徒ですか? それは私の愛しい婚約者です。殿下の思い人なんて者ではありませんよ。そして突き落としたのではなく、体調が悪くふらつくソネット様を助けようとして足を滑らせてしまったのです。ちょうど私もその場にいたので、彼女を助けられました。それが真実。ソネット様が殿下の婚約者をおりなければならない失態など何一つございません」

 ヒュージニアの王子と王女の顔が、青くなっていくのが分かる。

 従者達も、自国の王女達の失態だと気付いたようだ。

「昨日、初めて我が国に来られた他国のお方が、学生の戯言で我が国の王族に意見されるのは、いかがなものでしょうか? もう少し交流を図られてからでしたら、私共も友好の一つとして聞き流す事も出来ましょうが、今の段階で我が殿下の私事に意見されるのは、それこそ不敬ととらせていただいても宜しいでしょうか?」

「も・申し訳ございません、ハワード様。お二人は他国の訪問が今回初めてでして、慣れぬこと故、口を滑らせてしまったのでしょう。ランバース殿下には心より非礼をお詫び申し上げます」

 従者達が頭を下げる中、それまでアシュレイの迫力におされていたカラクスト王子が、声を上げる。

「そう怒るな、ハワード。私達が悪かった。ローズマリーから皆が同じ学園の生徒と聞いていたので、つい私達も同じように接してしまっていたようだ。すまなかったね、ランバース殿下。許してほしい」

 カラクスト王子が謝罪を述べる中、ランバが許そうと口にする前にアシュレイがとってもいい笑みをした。

「ローズマリーとは、どなたの事です?」

「…………………………」

 全員が無言になってしまった。

 確かに目の前にいるマキアート嬢は、紹介されていない。けれど彼女の存在は、嫌というほど知っているはずのアシュレイが、知らないふりを決め込む。

 ランバも彼女が黒の魔女などという事は知らないにしても、学園の生徒である事は了承している。

 それを、どなた? とは、流石に言えない。

「……えっと、彼女の事だけれど……あれ? 彼女は君達と交流があるのでは? この国の男爵令嬢だけれど、今回我が国でも輸入し始めたワインの功績で、伯爵位を賜る事になっていると聞いているよ。だからわざわざ紹介しなかったのだけれど、違うのかい?」

 カラクスト王子が目をしばたたかせながら、アシュレイの顔を見る。

「私共は彼女を存じません。我が国の男爵令嬢でしたか。私はてっきりカラクスト王子の婚約者かと思いました。それにしてはご紹介いただけませんでしたので、てっきりそれがヒュージニアのご作法かと。失礼いたしました。それと先程仰っていたワインですか? たかが一男爵がワインを輸出したぐらいで伯爵位を賜るなど聞いた事もございませんが、私の勉強不足かもしれませんね。申し訳ございません」

 そう言って頭を下げるアシュレイを、ポカンとした表情で見るヒュージニアの国の人々。

 マキアート嬢は、これでもかというぐらいに睨みつけている。

「王族との交流の席に、素知らぬ顔で同席なさる下級貴族の令嬢が、我が国にいるとは存じませんでした。カラクスト王子並びにアニシエス王女に失礼なきよう申し伝えたい所存ではございますが、お二人とは私共よりはるかに交流があるようなので、彼女の失礼は彼女個人という事にしていただければ助かります」

 キッパリと言い切るアシュレイにどう対応してよいものかと、皆が挙動不審になる中、クックックッと笑う声がした。

「ハハハハハ、もう駄目だ。アシュレイ、君は面白すぎる」

 ケラケラと笑うランバに、一同が呆けた顔を向ける。

「いや、失礼。確かに彼女は我が国の学園に通う生徒ではあります。が、私達とはアシュレイの言う通り一切交流はありません。彼女のマキアート男爵家がワインの輸出を始めたのは聞き及んでおりますが、伯爵位を与えるなど私も初耳です。何か行き違いがあったのかもしれませんね。それと今回の件、謝罪は受け取りました。しかし私の婚約者は、とても素敵な淑女です。芸術を愛する国の方なら、彼女の作品をご覧になってお分かりになられるでしょう。心無い言葉で傷つけるような真似は控えていただけますよう、重ねてお願い致します。そうでなければ、このまま何事もなく遊学を続けて頂く事を、認めるわけにはいかなくなりますので」

 二人を見つめるランバ。凛とする姿は立派な王族だ。

 全てを許す寛大な心。だが戯れもほどほどにしないと先はないぞという、釘をさす言葉。

 私は思い返す。そう、この姿こそ本当のランバース殿下だと。

「わ・分かりました。私達も初めての他国への遊学に浮かれてしまっていたようだ。本当に貴殿には失礼な事を言った。改めて許してほしい」

 そう言って、アニシエス王女に視線を送る。王女は渋々という様に頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

 マキアート嬢はワナワナと震えながらも、アニシエス王女に習って頭を下げた。

 そうして私達の一日は終わった。


 なんともなしにランバの私室にランバと私、アシュレイが向かう。

 その私達だけになった廊下で、アシュレイがランバに声をかける。

「お見事です、ランバ様」

「だろ。アシュレイもお疲れ様」

 そう言って二人で笑う。

 私はその姿に長かった日々を思い出し、安堵の息を吐くのだった。

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