表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/81

存在

 そのままマキアート嬢は紹介されないまま、庭に用意した席でお茶をする事になった。

 想定外の一人用の席とお茶の用意を給仕に頼み、ランバ・サラン様・私・アシュレイと座り、机を挟んでカラクスト王子・マキアート嬢・アニシエス王女と座る。

 マキアート嬢が兄王子の横に座るなど、アニシエス王女はいいのか? と驚きながらも、王女を盗み見るが、王女に気にした様子は少しもない。

 因みにこちらの席は、身分順というよりは今回の役割に関しての順ととらえた座り方をしている。

 王子のランバが最初なのはもちろん、次に王女の相手をするサラン様。そしてランバの側近の私。アシュレイはあくまでも、補助として席についているという状態だ。

 周りには我が国の護衛騎士と共に、ヒュージニアの従者も控えているが、茶の席という事で少し距離をあけさせている。

 マキアート嬢は自分の椅子をカラクスト王子の椅子に引き寄せ、ベッタリとくっついて座っているが、ヒュージニアの従者も眉を顰めるだけで、何も言う気はないようだ。

 腕を絡められたままの王子は、ものすごく飲みにくそうにしているが、顔は笑顔のまま。

「カラクスト様、このお菓子、カラクスト様のお好きなクルミが入っているようですわ。お食べになりますか? はい、あ~ん」

「あ~ん、モグモグ。うん、美味しいね」

 アシュレイとロレン嬢を見ているようなイチャイチャぶりに、私達はしらける。

 これで紹介の一つもしないとは、ヒュージニアの礼儀はどうなっているのだ?

 アニシエス王女が、ランバの方へ顔を向ける。

「ランバース王子の婚約者様は、本日おこしにならないの?」

 ニヤリと笑いながら言う王女は、ミランダ様の状態を知っているかのよう。いや、ミランダ様の今の状態は、城全体に箝口令を敷いているはずだ。バレるはずがない。と思いながらもチラリとマキアート嬢を見ると、ニタリとおぞましい笑みを返された。

 彼女の仕業か。

 ミランダ様の現状は、彼女の所為でヒュージニアに全て知られていると考えた方が良さそうだ。

「彼女は……」

 ランバが言い淀む中、アシュレイが従者を呼ぶ。

「例の物を持って来て」

 皆がキョトンとした表情をすると、アシュレイは「少々お待ちを」と言って微笑む。

 その表情に、女性陣は顔を赤くする。マキアート嬢だけは、警戒心露わに睨んでいるが。

 すぐに従者が戻ってきて、四つの小さな箱を差し出す。

 綺麗に包装されたその箱は、一つずつ色が違う。

「こちらはランバース殿下の婚約者、ミランダ・ソネット様よりお預かりしていた品です。皆様にお渡しするよう頼まれました」

 そう言って緑の箱をカラクスト王子、赤の箱をアニシエス王女、茶色の箱をランバース殿下、水色の箱はサラン様にと、それぞれに配る。

「あけていいの?」

 カラクスト王子が、興味深そうにアシュレイに問う。

「どうぞ。ミランダ様より、皆様に心ばかりのプレゼントだそうです」

 そうしてあけた箱の中には、美しくし刺繍されたハンカチが入っていた。

 ハンカチだけでも絹で出来た上等な品だと分かるが、そこに刺繍された柄は更に素晴らしかった。

 それぞれのイニシャルを中心にランバには我が国の国旗と剣。カラクスト王子には平和を意味するオリーブの木。アニシエス王女には薔薇をあしらった華やかな柄で、サラン様にはスズランをモチーフにした可愛らしい柄と、それぞれが特徴を生かした美しい仕上げになっていた。

「……素晴らしい。これは芸術面に優れているといわれる目が肥えた我が国の重鎮達に見せても、評価の高い作品だ」

 カラクスト王子は、ホウッと溜息と共に、そんな感想を述べる。

「ソネット様の手作りです。ソネット様は今、体調を崩され皆様にお会いする事が叶いません。せめてものお詫びにと傷む体をおして刺されたのです。どうかソネット様のお心をくんで、収めていただけますよう、お願い申し上げます」

 右手を胸に頭を下げるアシュレイに、カラクスト王子は「本当にもらっていいのかい?」と確かめる。

 アシュレイがコクリと頷くと、満面の笑みを向ける。

「ありがとう。嬉しいよ。ソネット嬢にくれぐれもお礼を言っておいてくれ。それとお大事に。無理はしないでほしいと」

「ありがとう存じます。カラクスト王子のお優しいお心。ソネット様もさぞ嬉しく思う事でしょう」

 二人でニコニコ笑う横で、アニシエス王女はジッとハンカチに見惚れながらも、膨れているようだ。

 マキアート嬢に関しては、最早怒りの表情を隠そうともしていないのか、アシュレイを睨みつけている。

「ハワード様、こんなにも素晴らしい品、私もいただいて宜しいのですか?」

「もちろんです。リアリル様には感謝の意味も込めていらっしゃいますので、ぜひお納めいただけると嬉しいとの事です」

「ありがとうございます。喜んでいただきますとお伝え下さい」

 頬を染めて嬉しそうにするサランさんの横で、ランバはジッとハンカチを見ながら、刺繍された自分のイニシャルを指でなぞっている。

 アンダーソンの件があってから、ミランダ様に対し少し様子が変わったランバ。

 愛おしい。という訳ではないのだろうが、今までとは明らかに様子が違う。


「ソネット様は、学園の階段で倒れられたと聞きましたわ。まだ起き上がれない程なのですか?」

 和やかな雰囲気の中、突然マキアート嬢が声をあげる。

「一度ランバース様にお聞きしたいと思っていたのですが、倒れた時に女生徒を一人、突き落としたとかいう噂を耳にしましたわ。本当ですの?」

「え?」

 まさか話に上がるとは思っていなかった会話を、しかもロレン嬢が落ちた事まで言われたランバは、目に見えて動揺した。

「そういえば、ローズマリーも同じ学園だったわね。女生徒を突き落としたって、ランバース王子の婚約者が? なんて恐ろしい」

 アニシエス王女がマキアート嬢の話にのる。目をランランと輝かし、どうにかランバの婚約者であるミランダ様を、悪人に仕立て上げようとしているようだ。

「申し訳ありませんが、そのような話をどこから? 憶測でものを言うのは控えていただきたい」

 私は女二人の悪意にたまらず、声を張り上げた。

「あら、憶測なんかじゃありませんわよ。私も学園の生徒なのですから、噂ぐらいは聞き及んでいます。直接見ていた生徒が数人いたとの事。それにその方は、王子が密かに思いを寄せている方だともお聞きしましたわ」

「!」

 マキアート嬢は、ランバの秘話まで話し始めた。

「そうなのですか、ランバース王子? 貴方は婚約者を愛しているわけではないのですか? それでしたらその方との婚約は、考え直した方が宜しいのでは?」

 大人しかったカラクスト王子が、嬉々として乱入してきた。

 昨日の印象では大人しい方だと思っていたのだが、どうやら違うようだ。

「そうよね、お兄様。ランバース王子が自分に気がないからといって、王子の思い人を階段から突き落とすなんて、そんな方が婚約者で未来の国母なんて、おお、怖い。ランバース王子、いいのですか? そんな方がお相手で。ちゃんとお考えになった方が良いのでは?」

 アニシエス王女はランバの相手になりたかったのではないのか? ランバに思い人がいるかもしれないという事には何も言わず、ミランダ様を追いやる事しか考えていないような発言をする。

 勢い込んで話し続ける他国の王子と王女を前に、私達は咄嗟に言い返す事が出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ