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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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解決

 結局、アシュレイは想像以上に役に立ってくれた。いや、それ以上に生徒会の揉め事、全て解決してしまうんじゃないかと思うほどの働きをしてくれた。


「悩んでいるのは各部とも催し時間が変わる為、平等に持ち時間を決めても、各部から不満が出る。それではと各部に自分達の希望する時間を上げてもらうと、とても二日では収まらない。という事ですか」

 戻って来たアシュレイに、全員が落ち着いて話し合いが出来るという状況を好機としたギルが、最も頭を悩ませている案件だと言って相談し始めた。

 私とギル、アシュレイの周りに人が集まる。

「そうです。後どうしても時間帯が、一番人が集中しやすい時間に固まるのです。最初や最後は嫌だと。ある程度は希望に沿ってあげたいとも思うのですが、各部とも言う事がバラバラで部内でも意見がまとまっていないのが、現状です」

 生徒会の生徒も参加する。いつもは呼ばれないと来ないのに、自分から説明の捕捉をするとは珍しい。

「ふ~ん」

 アシュレイは各部の要望をまとめた書類に目を通しながら、口元に手をやる。

「……アシュレイ、何かいい方法はあるか?」

 そんな様子にギルが答えを求める。

「そうですね……例えば、絵画やお茶の部の部長さんはいますか?」

「え、はい」

 急に話をふられた二人は驚きながらも、条件反射のように手を上げた。

 その様子にフッと口元を緩めるアシュレイに、二人は顔を赤くする。

「提案なのですが、舞台で表現するよりも場所を借りてはいかがですか?」

「え?」

「絵画部でしたら、時間内に作品を舞台に出して説明するよりも、一教室に展示して見に来てもらう方がより効率的でしょうし、お茶の部なら直接ふるまうのは如何ですか? 舞台で入れ方など見せて頂いても、今一つピンときませんし」

 アシュレイの提案に一同は目を丸くする。

 舞台ではなく教室を使うのか?

 授業の一環のようにして生徒を集め、舞台で表現する。持ち時間は平等で不満は受け付けない。それが今までの我校の活動祭だった。

 私の代で生徒の意見も聞いた方がいいかもしれないと思ったのは、アシュレイの生徒会に対しての考え方を示された時だ。

 その結果、収拾がつかなくなり頭を悩ませる日々になってしまった。少し後悔もしていたが……解決法として、他の場所も使えばいいなどという考えに至るとは思いもしなかった。

「まあ、そのような事が可能なのですか?」

 驚きながらもお茶の部の部長は、気持ちが高揚しているのか、うっすらと頬を染めている。

「どうですか? ランバ様、ギルバード様」

 クルリと私達の方に確認してくるアシュレイは、断られるとは思っていない表情だ。

「そうだな……西棟の一階にまとめて展示してもらうなら可能だが、問題は時間帯だな。今まで同様、生徒には授業の代わりに舞台を見てもらう手はずになっているから、展示を見に行く時間があるかどうか?

 舞台と展示を自由に選択させてしまうと、片方に偏ったりどちらにも行かない者が出てくる可能性もある」

 私の危惧する問題に、アシュレイはさも簡単に答える。

「それなら所々、休憩を入れればいいのでは? この過去の時間設定見てて思ったんですけれど、あまりに詰め込み過ぎではないですか? 休憩なく一日中舞台を見続けろといわれれば、誰でも嫌気がさしてきますよ。注意力も損なわれます。それならば一層、間の休憩や昼食時、放課後で展示の方を捌けば、舞台の時間だって集中して見る事ができるはず」

「……なるほど」

 皆が考え込む中、スッと絵画とお茶の部の部長が挙手をする。

「では、私達はその方がいいですわ」

「決まり。他にも展示したい部はありますか?」

「あ、はい。うちもその方がいいです」

「あ、私も」

 アシュレイは次々と手を上げる部長達を一通り見ると、一枚の紙に部署名と何をするかを簡単に書いてもらうよう指示した。不明な点は後程、直接部長に聞くという事で。


 そして生徒会の者に後を頼むと、次の話題に切り替える。

「では、そのように割り当てて下さい。これで舞台を使う部が減りますので、ある程度時間の融通が可能かと。それと時間が集中するという件ですが、先程も言ったように休憩を入れる事で舞台に集中できる時間が長くなります。違う時間帯を取ったところで問題ないかと。あと、目立つ部を最初と最後に持っていきましょう。例えば最初に剣道部や武道部に気合を入れて頂き、最後は音楽系でしめる。音楽系は心に残りますからね。このような形でどうですか?」

 舞台を使う部長を一同に見渡すアシュレイは、今度は決定事項のように言う。

 その言葉にギルが「ふむ」と頷く。

「確かに。始まりは最も集中を必要とするから気合系の武術をもってきて、注目を集めるのもいいかもしれないし、最後に音楽なら高揚感を残したまま終われる」

「それならうちが最初に出よう」

 手を上げたのは、剣術部だった。気合と聞いて騎士道精神が働いたのかもしれない。

「最後は私達に任せて下さい」

 続くように音楽部が手を上げた。

 二日あるので、武術部もオペラ部も同意してくれた。皆納得したように頷く。誰も不満はないようだ。その様子にアシュレイは一つ頷くと、最後の課題とばかりに皆を自分に注目させる。

「ありがとうございます。それと最後に舞台の時間配分と展示の教室場所の件なのですが、確かに部によって多かれ少なかれ持ち時間は違います。教室もしかり。どの場所がいいかとかの問題も出てくるでしょう。そういった諸々の意見は直接、部同士で話し合ったら如何でしょうか? まずは生徒会で設定します。その後は各部がもう少し時間が欲しいと思うなら、短時間で終わる部に直接交渉に行くのです。もちろんタダでは各部も不服に思う事もあるでしょうから、そこは時間をくれた代わりに条件を話し合います。例えば、今後活動時間にその分だけ場所を譲るとか、何か困ったことがあれば力をお貸しするとか。あ、あくまで部活内での力ですよ。家や人物の力はご法度です」

 …………………………。

 舞台時間を交渉の材料にするのか? それは、学生の身でしていい事なのか?

 皆が言葉を失っていると「あれ? 皆様、難しくお考えなのではないですか?」とアシュレイは反対にキョトンとした表情で言う。

「学生内での約束事でいいのですよ。皆様も友達同士でノートの貸し借りぐらいした事あるでしょう。それと同じです。ただ、ここは貴族学園なので最低限、貴族としての矜持はお持ち下さい。約束を反故にするような事があれば、皆の前で話し合いをする事ぐらいはしていただきます。まあ、はなからそんな約束をしたくないというなら、生徒会の指示通り、時間内に納めて頂けたらいいだけの事です。簡単でしょ」

 キッパリと言い切ると、最後にニコリと笑う。

 言葉は丁寧だが、それは我儘を言うなら自分達で解決しろ。嫌なら黙って指示に従え。と言っているように聞こえるのは、私だけなのか?

 そんなアシュレイをじっと見ながら頷くギル。

「……なる、ほど。そうか、そうだな。それぐらいなら問題ない。約束事も漠然とした言い方ではなく、本人達が納得した上で話し合えばいいのだから問題はない。不安なようなら生徒会が仲介に入ろう。後々問題にならないようにすればいいのだから」

 ギルが生徒会も賛同するとの発言に、各部の部長達もコクコクと頷く。

 もしかしたら、ギルのいい加減お前らの我儘にも付き合ってられるか。という黒いオーラを感じ取ったのかもしれない。

 アシュレイとギルの笑顔がとても怖いのは、やはり私だけなのか?

 それから後もアシュレイは、各部の部長だけではなく、生徒会の皆にも的確な指示をしていく。

 私とギルとで請け負っていた仕事を分担していくのだ。それも相手が納得する方法で。


「君は会計なのでしょ。だったら計算は得意ですよね。時間配分の計算はお願いしますね」

 ポンッと肩を叩いて、ギルから奪った書類を会計の生徒に手渡すアシュレイ。

「待って下さい。私はお金の計算が仕事であって、時間の計算をするのは仕事ではありません」

 彼はキッパリと断わりの言葉を述べる。なかなか厄介な人物なのだ。

 頭は良いが、融通が利かない。きっちりとやるべき事に線引きをする。真面目で怠ける事はしないのだが、どうにも会計以外の仕事には一切手を付けてくれない。

 そんな彼にも頭を悩ませていたから、アシュレイもさぞ驚いているだろうなと見上げると、彼は笑いながら会計の生徒の隣の椅子に座る。

「おかしな事を言いますね。数字は数字。お金も時間も一緒ですよ。それに貴方の言葉で言うならば、ランバ様やギルバード様の仕事でもないのでは?」

「そ・それは……」

 正論を吐かれて言葉を濁す会計の生徒。私達に仕事を押し付けて、心苦しくはあったのだろうか?

「いいじゃないですか。誰の仕事かどうかなんて細かい事は。ここでは貴方が一番計算が得意。だから貴方にお願いしている。ただそれだけの事です。それにランバ様もギルバード様も貴方も、生徒会の仲間ではないですか。助け合っていきましょうよ」

 ポンポンッと背を叩いて笑うアシュレイに、驚く彼は「え? 私が殿下やエディック様の仲間なのですか?」と言った。

 え? 驚くところそこなのか?

 ギルも隣で会計の彼を見つめている。

「当り前ですよ。なんだと思っていたのですか?」

「いえ、その……男爵位の私なんて殿下と同じ場所にたてるはずもなく、その、学生は平等と掲げられている手前、お情けで置かれているだけではないかと……」

 嘘だろう。そんな風に考えていたのか?

 ……確かに、彼を任命した時「この学園では生徒を平等に扱う必要があるからね」と言ってしまった気はするが、まさかそんな風にとらえられているとは思わなかった。

 私とギルは仕事の手を止めて、呆然と彼を見つめてしまう。

 アシュレイはクスクスと笑うと「そんなはずないでしょ」と言う。

「貴方は一年の時から試験の順位を十位以内で守っているではないですか。そんな優秀な方がお情けで生徒会に選ばれるはずがない。ちゃんと戦力として迎え入れられているのですよ。自信を持って下さい。チェノバ・リンドール様」

「え、私の名前?」

「名前が何か?」

「……いえ、その、生徒会室で名前を呼ばれたのは、初めてだったので……」

 照れたように顔を赤くしながら俯く彼。

 アシュレイは笑顔だ。笑顔だが、その背中からは何だがこちらに向かって、黒いオーラを噴出しているように見える。

 あ、ギルが目を反らした。

 私もいたたまれなくなった。そうか、彼はチェノバというのか……知らなかった。

 会計の彼、もといチェノバ・リンドールは、嬉しそうに少しはにかみながらも、アシュレイから渡された書類の束を自身の前に持っていく。

「し・仕方がありませんね。皆でサッサと片づけないと本当に間に合わなくなってしまいますからね。他にもあるなら持ってきて下さい。私は数字だけは強いので」

 チェノバは、顔は笑っているのだが、何故か憎まれ口をたたくように言う。どうやら素直に喜べない質らしい。

「アハハ、ありがとうございます。ではこちらもお願いしようかな」

 ドサドサドサッ。

「……少し調子に乗り過ぎでは?」

 自身の机の上に山積みになった書類を見て、チェノバは頬を引き攣らせた。

「大丈夫、大丈夫。チェノバ様なら一週間以内には完成しています」

 グッと親指を立てて笑うアシュレイの顔に角が見える。

 またチェノバがキレるのではと心落ち着かない思いで見つめていると、フッと彼は笑った。

「ハードル上げましたね。魔王ですか、貴方は。いいでしょう。私の実力、見せてやりますよ」

「頼りにしています」

 挑発的な彼の表情に、アシュレイは何ともなしに笑顔で返す。

 彼を味方につけただけでも驚異的な事なのに、アシュレイはその日一日で完全に生徒会の人間を手なづけ、問題を解決してしまった。


 次の日には、やっと本来の活動祭の仕事に取りかかる事が出来た。

 ギルがアシュレイを呼んでくれて本当に良かった。アシュレイに感謝しながらも、私はやはり彼女に恋焦がれる気持ちと、彼をそばに置きたいという気持ちが高まるのを押さえる事が出来ないのだった。

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