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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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会議

 侍女にお茶を運んでもらって、一服ついたところで話に戻る。

「クレノさん、俺が黒の魔女と遭遇した時もそばにいたんでしょ。なんで助けてくれなかったんですか?」

「何言ってんの。助けがいる状況じゃなかったでしょ。それにカラン山の水のお蔭で、あーちゃんに魅了の魔法は通じないだろう」

 向かい席に座るクレノさんに、何となく意趣返しをしたくて話をふってみたが、あっさりとかわされた。流石、父上の幼馴染。

 正直、無理をしてでもカラン山に行ったのは、無駄ではなかった。

 カラン山から帰宅後、黒の魔女に接触して問題になりそうな人間に、俺は少量ではあるがお茶などに混入して水を飲ませた。

 もちろんファニーや王子にもだ。水の力は半信半疑だったが、入学して王子がなびいた様子のないところからして、効き目はあるのだと確信した。

 父上もそれが分かっているから、コクリと頷いて話を続ける。

「とりあえずクレノが先程も言ったけれど、黒の魔女は殿下を諦めたわけではないだろう。その証拠に魅了の魔法で操っている下級貴族に、殿下の動向を常に探らせているそうだ。今回、お前に接触してきたのは、標的がファニリアス嬢にあるからだろうな」

「は?」

 どうしてそこでファニーが出てくるんだ? 標的がファニーって、王子を諦めていないのなら、牙が向けられるのは婚約者のソネット様になるはずでは?

「殿下の真の思い人がファニリス嬢だって事に気が付いたんだろう。ソネット嬢は歯牙にもかけていない。殿下のファニリアス嬢への思いが強すぎて、魅了の魔法が効いていないんだと思っているんじゃないか。まあ、殿下の態度はあからさますぎるからな」

「っんだ、それ。結局王子の思いが、今回もファニーを危険にさらすのか?」

 俺は堪らず怒鳴ってしまった。

 なんなんだよ、それは。ファニーは王子に興味も何もないんだ。それなのに勝手に惚れて、しつこく思い続けられるファニーが犠牲になるなんて、ありえないだろう。

「落ち着け、アシュ。仕方がないだろう。人の思いは変えられない」

「思い続けるのは仕方がない。もとより王子は本気でファニーに惚れていたから。けれど今回は前回とは違う。俺がいてソネット様がいる。公にしていい思いではないだろう。隠せよ。仮にも王子なら隠し通せっての。周囲にバレバレの態度で黒の魔女にまで感づかれちまうような間抜け、本気で性根、叩きのめしてやろうか」

「やめろ、マジで頼むからやめて。今のお前が本気出したら、王子死ぬから」

 ハリスさんに冷静に止められたが、俺は怒りがおさまらずつい本音を吐露すると。師匠から泣きの停止が入った。

 もちろん、自ら実践する気はないが、そういう機会に恵まれたら、もう容赦しないと心に誓う。

「……標的がファニーだとして、俺を狙う意図は?」

 俺はゆっくりと息を吐き、ソファに座りなおして、黒の魔女の思惑を聞いてみた。

 それに答えてくれたのはクレノさん。

「人のものを取るのが大好きな魔女だよ。そんなの一つしかないじゃないか。あーちゃんを自分のものにして、ファニちゃんに辛い思いをさせたいだけじゃない」

「俺が自分のものになると疑わないんだな。婆が気持ち悪い」

 余りの嫌悪につい悪態をつく俺だが、魔女は数百年と長寿だ。黒の魔女もうん百歳だろう。悪いが婆で決定だ。

 そんな魔女に俺は前回、魅了の魔法で操られ、奴の手にキスした事を思い出して吐きそうになる。嫌な事を思い出してしまった。

「アシュの気持ちも分かるが、冷静に話し合おう。奴の狙いがファニリアス嬢に向いたとなると、対処を講じなければならない」

 父上が作戦会議だ。と言って全員を見回す。その横でハリスさんは黙って俺の背を擦ってくれた。


「あーちゃんは今日みたいな態度をとっていたらいい。黒の魔女を絶対に相手しない。ファニちゃんのそばを離れない。それだけだよ。ただ、周りの人間を取り込んでくる恐れがある。その対処はどうする?」

 クレノさんが父上を見る。

「……アシュ、カラン山の水は残っているのか?」

「容器一つ分だけ。足りなければもう一度汲んできましょうか?」

 俺は念のため、持ってきていた水筒を父上の前に置く。

「いや、お前はファニリスア嬢から離れない方がいい。今離れると黒の魔女だけではなく、殿下も何をするか分からない。あの方も少し危険だからな。とりあえず上級貴族の家に密偵を送り込んで、少量ずつでも飲料水に注ぎ込ませよう。国王様などにはもう飲ませているから大丈夫だとは思うが、上級貴族が魅了の魔法にかかって喚き散らかしても難儀だからな」

 水筒を手にした父上は、チャプンチャプンと音を鳴らす。

 簡単にいってのけるが、上級貴族はもとより、国王様の口にするものに手が出せるなど、ハワード家だからこそ出来る技。

 我がハワード家の当主が悪しき心にみまわれたら、この国の上層部は暗殺し放題だ。この国を塗り替えるのも簡単にやってしまえるだろう。父上は面倒くさいからやらないけどね。と笑うだろうが、俺も同意見だ。

「ただでさえ少ない水を分けるとなると、効き目が薄くなるのでは?」

「何もないよりはいいだろう。それとハリス。悪いが、白の魔女から場所を教えてもらって、もしもの為にお前が水を汲んできてくれないか」

 俺は突然の父上の言葉に驚いて、ハリスさんを見上げる。

 確かにハリスさんなら俺よりも短期間で戻ってこられると思うが、一人で行くには余りにも危険な場所だ。

 けれどハリスさんはニコリと笑って、承諾してしまう。

「もちろんだ。すぐにルミ殿にお願いしよう」

 ルミ殿との仲介頼むな。と俺の頭をグリグリと撫でまわす。

 不安な顔をしていると、隣でスッと手を上げる人物がいた。

「あ、俺も行きます。アシュと一度行ってますし、容器も俺が魔法で小さくして持っていけば、かなりの量を手に入れる事が出来ますから」

「……師匠」

 師匠が行ってくれるのならば、確かにこんな心強い事はない。けれど、いいのか? ミルフィール様は……。俺の心の声を読んだかのように、師匠は俺の背をバシンと叩く。

「その代わりアシュ、ミルフィールが無茶だけはしないようにしておいてくれ。あいつもお前らの、特にファニリアスの事は妹のように可愛いらしく、話を聞いた時は憤慨して手に負えなかったからな。自分と重なるところがあるみたいで、何もしていないのに理不尽に追い詰められていく事がどうにも許せないらしい。自分は元凶のもとではあるが、魔法のお蔭で反撃する事も可能だったが、ファニリアスはその術をもたない。自分よりも理不尽すぎると泣いていたからな。ファニリアスの為に動いた場合、俺がいないとあいつは暴走するかもしれない。その時は弟分であるお前に止めて欲しい。頼むな」

「……分かりました。師匠に頼まれなくてもミルフィール様は俺にとっても姉のような存在です。必ずお守りしますよ」

 ミルフィール様にはルミが夢の中で会話した後、師匠からも補足で話してもらった。

 ミルフィール様は、今ロレン家にいる。建前は師匠の嫁になる為に、姉のロレン侯爵夫人に貴族の嫁の心得を教えてもらっているという形だ。

 ミルフィール様の素性はゴルフォネの没落貴族としている。が、本当は俺が一緒にいれない間の守りとして、ファニーのそばにいてくれているのが真実だ。

 ルミも少しだが力も戻って来たので、ロレン家でのファニーは安全に過ごせているようだ。

 そんな優しいミルフィール様が何かあった時、ファニーの為に暴走するのは目に見えてあきらか。

「ああ、任せた」

 師匠はニッと笑って、また俺の頭をグチャグチャにする。

 因みに師匠はミルフィール様の魔法をもらった為に、ルミからの魔法は受けとれない。

 多分これは試した者がいないため知られていないようだが、一人の魔女に魔法をもらうと他の魔女からの魔法は効かないそうだ。因みに地図をもらう程度の魔法だけならば、他者の魔女には影響はないらしい。だから俺も今回もらう予定のハリスさんにも、今後もし機会があれば他の魔女から魔法を分け与えられるのも可能であるらしい。いや、いらないけどね。

 だから師匠は、ルミからカラン山の地図をもらえない。カラン山に入ったとしても、泉までは辿り着けないのだ。いくら霧を避け、獣を倒せたとしても現場に辿り着けなくては意味がない。

 ハリスさんがルミから地図をもらう事が出来たら、自然に慣れた二人のタッグは最強だ。あれ? これって俺が行くより数倍いいのでは? そう考えると少し落ち込むが、大人のハイスペックに十五歳の俺は素直に頭を下げる。

「ハリスさん、師匠。お願いします」

「「任せとけ」」

 俺は父を見る。コクリと頷く父上はもしもの時、城を統括してくれるのだろう。その為に国王様のそばに侍り、重鎮達をまとめ上げてくれているのだから。

 その横でニヤニヤ笑うクレノさんを見る。

 今迄もそうだが、黒の魔女の動向を探り監視し、また、もしもの為に周辺の情報を収集してくれているのは、言わずと知れたクレノさん。これからもそのように動いてくれるのだろう。

 俺は素直に頭を下げる。

「父上、クレノさん。頼りにしています」

 父上とクレノさんは同時にニカッと笑う。こういうところがそっくりなんだ。

 後は俺の行動だけ。

「生徒会、どうしましょう?」

 それに関しては黒の魔女は関係ない話になるだろうし、俺が個人的に王子とファニーの接近を避けたいだけだから、この場で相談するのは違うのかもしれないけれど、ここは話の流れという事で、頼りになる大人達の意見を仰ぐ。

「断っていいのでは?」

「だよね。無視しちゃえ」

「無視するのは流石に良くない。ちゃんとお会いしてお断りしなさい」

「ファニリアスの事も、教師に言うよりアシュレイが断った方が良いと思うぞ」

 …………。

 全員が断るという事に一致している。

「えっと、父上。ランバ様やギルバード様の話を、一臣下として簡単にお断りしてよいものなのですか? それに黒の魔女とランバ様の接触を見張らなくてもよいのでしょうか?」

 急にかしこまる俺に、父上はクスリと笑う。

「いいんじゃないか。お前はまだ学生だ。主従の関係は結んでいないだろう。そんなもの考えるのは大人になってからでいい」

「あーちゃん、俺が黒の魔女、監視しているの知っていて聞いてるの? 王子との接触なんて俺一人で充分でしょ。それとも何? 俺の力疑ってるわけ?」

 二人があっさりと俺の問題を解決する。

 まあ、本当は断るのはいけない事なんだろうけど、俺を思ってそれでいいと言ってくれる大人達の心に素直に甘える事にした。

 正直、ファニーの事でいつ王子と対立するか分からない俺が今更、臣下ぶっても仕方がないけれどね。

「ありがとうございます。城は父上に任せて、黒の魔女の動向はクレノさんに任せます。そして水はハリスさん、師匠に任せて、俺は生徒会を断り、ファニーと学生生活を満喫しますね。いやあぁ、頼りになる大人がそばにいるって幸せですね」

 …………………………。

 満面の笑みでお礼を言う俺に、大人達は黙る。

「……なんだろう。なんかイラっとしたのは俺だけ?」

「……可愛いんだがな。可愛いんだが……」

「……我が子ながら、怖いな」

「……いや、そっくりっすよ」

 大人達が固まって俺に背を向け、ボソボソと話す。文句なら俺のいないところで言ってほしいな。

 俺は頼りになる大人達の背を見ながら、ニコニコと笑うのだった。

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