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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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ローズマリー

 目の前で絶命している彼女、ローズマリー・マキアート男爵令嬢として生きる事に決めた私は、すぐにその娘の衣装と私の衣装を変え、娘を山の奥に投げ捨てた。そうしていれば獣が跡形もなく食べつくしてくれるだろう。

 私は歩いていた道に戻り、馬車の破片や娘の小物を間隔をあけて捨てていく。通りかかった者がそれらを目にすれば、崖下に気付いてくれるかもしれない。

 暫くすると人の気配がしたので思ったよりも早かった事に安堵しながら、娘の代わりに馬車の近くに倒れ込む。

 私は簡単に娘と入れ替わる事が出来た。

 余りの簡単さに拍子抜けする程で、もしかしたら白の魔女から奪った魅了の魔法が効いているのかもしれないと、その効能を確かめたくなった。

 屋敷内で試してしまうと、まだ子供姿の私では問題が生じるかもしれないので、近くの村で子供相手に試してみる。

 あっという間に村の子供達を虜にした私は、大人相手にどこまで通じるのかも試してみた。

 生憎と子供姿では大人に恋愛対象としては見てもらえないけれど、それでも我が子よりも可愛いと言わしめる程には虜に出来た。

 面白い。なんて面白いのかしら。

 私の言いなりになる人間達を、私は愉悦の表情で見下ろす。

 この娘は貴族だ。十五の年になると王都の貴族学園に通わなくてはならないらしい。

 そこで私は以前受けた屈辱を返す為、学園で貴族を自由に操ってやる事にした。

 その為にはここで、より力を磨かなくてはならない。

 魅了の魔法に磨きをかけ、入学した私に貴族の子息令嬢が、私に愛を乞う。

 そこには必ず抗争が勃発する。

 私は自分の考えにうっとりとなる。なんて素敵なのかしら。

 それまでは、ここでこの生活を送るのも悪くはない。

 私は私を取り合う者達を横目で見ながら、口角を上げるのだった。



 これが貴族だけが通う学校か……。

 十五になったローズマリー・マキアートは、王都内にある貴族学園キーラマに通う為、男爵家から学園の敷地にある寮へと移り住んだのは、今から一週間前。

 今日は入学式。改めて見る学園は城と間違える程、広くて立派な建物だ。

 意気揚々と入学式に挑んだ私の目に映るのは、壇上で挨拶をするこの国の王子様。

 ……男のくせになんて綺麗なの……。

 余りの美しさに見惚れるものの、最高の権力と美貌を持つ王子なんて私の虜にしてもつまんないでしょうね。どうせ今までの男と同じ、甘い言葉を吐きながら、結局は自分が一番大事。

 私の事を好きになっても自分のものとして侍らせ、常にチヤホヤされないと気がすまない。どうせそんな人間なんだろう。

 なんだが考えるだけで面倒くさいわね。私は自分が侍らせたいの。沢山の人間にチヤホヤされるのは私の方なのよ。

 国一番の権力には心惹かれるものがあるけれど、下級貴族でも侍らせて遊んでいる方が楽しそうね。

 私はそう考え、王子との接触は取らない事にした。



 半年が過ぎた頃には、いい具合に魅了の魔法が作用し始め、下級貴族と遊ぶ日々。

 派手にすると警戒される恐れがある為、あくまで水面下で行動する。

 その緊張感が意外と楽しい。私はじわじわと人気を集めていった。

 ドンッ!

「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」

 廊下の角で人にぶつかった。

 軽く肩をぶつけた程度だが、相手の女は馬鹿丁寧に謝ってきた。

 同じ制服でもあきらかに上質な布で作られていると分かる服に身を包む女は、かなりの上級貴族なのだろう。

 チラリと見ると後方に男がいているようなので、わざと大げさに頭を下げる。

「も・申し訳ありません。お嬢様の仰る通り私が悪いんです。真ん中を歩くなんて身の程知らずでした。お許し下さい」

 フルフルと震える事も忘れずに、頭を下げ続ける。

 いかにも上級貴族に難癖をつけられている可哀そうな下級貴族を演じる。

「え? え?」

 女は私のそんな行動に驚き、オロオロしている。

「申し訳ございません。本当にごめんなさい」

 私は男の庇護欲をそそるように、床に頭を擦り付けようとした。

 その時、先程の男の影が私に近づいてきて、私の腕をとった。

「そこまでしなくても大丈夫ですよ。ミランダはそんな事で怒ったりするような人じゃない。落ち着いて。顔を上げて」

 優しい声が耳に響く。

 ゆっくりと顔を上げると、そこには最高権力者の王子様がいた。

 至近距離で見る余りの美しさに、私は一瞬声を失う。

 王子はニコリと笑い、私に話しかける。

「お互いに少しぶつかってしまったようだが、これからは気を付けなさい。怪我もないようだし、必要以上に謝罪する事はないからね。では行こうか。ミランダ」

「は・はい」

 王子はそう言うと女を連れて私の横を通り過ぎて行く。その後を一人の男がついて行った。お付きの者だろう。

 私はその三人の後姿を呆然と見送る。

 ミランダと呼ばれた女。確か王子の婚約者だったか。

 上級貴族に委縮した下級貴族が緊張のあまり必要以上に謝るのを落ち着かせ、婚約者を助けた。なんとも鮮やかな行為だ。

 それからの私はなんともなしに王子を探す。

 偏見なく誰に対しても穏やかな笑みを返す王子。つかず離れず。婚約者に対しても一歩距離を保っている。

 唯一親しくしているのは、未来の宰相との呼び声高い幼馴染だけ。

 傲慢な権力者と思っていたが、それとは何か違うようだ。

 あれならば私の虜にしてみてもいいかもしれない。

 婚約者だという女にもそれほど心を許しているわけでもないようだし、魅了の魔法で虜にするにはわけがなさそうだ。

 私は様子を伺いながら、ジワジワと魅了の魔法を王子に向ける。が、どうした事だろう?

 私がわざと虜にした女生徒を使っていじめられている場面を作り出し、王子に助けを求めると、ちゃんと助けてはくれる。時には取り巻きの人間に頼んだり、時には自分で助けてくれたりもする。その際どこかかしこかの体には、ちゃんと触れている。

 それなのに、私の存在を気にする様子が微塵も感じられない。

 魅了の魔法が効いていないのだ。

 そう考えた場合、咄嗟に思いついたのが王子の心を占める女がいるという事。

 しかし、あの婚約者ではありえない。だって王子は、あの女の顔を見ないのだから。

 魅了の魔法も効かない程、恋焦がれる女の顔を見ないなんて事は絶対にありえない。

 だったら誰だ?

 分からないまま時は過ぎる。



 一年後、それは突如判明した。

 一つ下に入学してきたファニリアス・ロレン侯爵令嬢。王子の恋焦がれる相手は、彼女で間違いない。何故かって? そんなの目を見れば分かる。

 二年で生徒会長になった彼は入学式の際、壇上から熱い視線を送っていたのだ。

 誰も間違えようのない熱い視線。周囲の人間が赤くなるほどに……。

 だが、当の本人はというと別の人間に注目している。

 新入生代表の挨拶をするアシュレイ・ハワード公爵令息だ。

 壇上に上がったハワードはすぐに彼女を見つけると、とろけそうな笑みを向け小さく手を振った。

 その笑顔に会場からは、悲鳴にも似た歓声が上がる。そう、ハワードも王子に負けない整った容姿をしていた。

 そして二人の美青年から視線を浴びる美少女は、はっきりとハワードだけを捕えているのが分かる。

 満面の笑みでハワードに手を振る姿に、周囲の男どもの顔は真っ赤に染まっていく。

 あきらかに両思いであるハワードとロレン。王子は横恋慕しているのだ。

 なんだが、複雑な心境だ。揉め事大好きな私だが、この状況は何だが気分が悪い。

 王子を落とすには、あの女をどうにかしないといけないわね……そうだわ。ハワードと両思いだというなら、ハワードを奪ってみるのはどうかしら? そして一人になった女に王子が近寄って、仲良くなった頃に今度は王子を奪う。

 最終的に狙うのは王子で、権力を手にしたらハワードを愛人にしたらいい。

 いい、いいわね。とっても楽しそう。

 二人の恋した男に振られて落ち込むあの女の姿、見てみたいわ。

 あの女は純粋そうだから、さぞかし落ち込んでくれるでしょう。

 もしかしたら、あの女の醜い姿が見られるかもしれない。

 あの穢れの知らない美少女面が、醜く歪んでいく様を想像すると、久しぶりに心の高鳴りを感じた。

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