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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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留守番

 アシュが旅に出て一週間が過ぎた頃、王妃様からお茶会の招待状が届いた。

 次期王妃になられるミランダ・ソネット公爵令嬢の王妃教育の一環として、城でのお茶会を催す事になったそうだ。

 ミランダ様はもうすぐ十四歳。学園に通う前に一通り、おこなっておきたいという事らしい。

 王家からの誘いとはいえ、アシュがいない時に城に行くのは嫌だなぁと悩んでいたのだが、ミランダ様からの直接のお誘いに断れなくなった。

 ミランダ様とは王子様の九歳の誕生日会でお会いして以来、懇意にしてもらっている。

 おっとりとしているミランダ様は、王子様を狙う貴族の令嬢にキツイ対応をされる事が多い。

 あの時もミランダ様は一人、下を向いて耐えていた。


 アシュと二人で王立図書館に行った時……アシュと私は本を読むのが好きで、お互いの家の書庫に飽きた私達は、城の中にある王立図書館まで足を延ばした。

 目的のものが見つかって良かったねと微笑んでいた私達に、耳障りな声が聞こえてきた。

「まあ、ミランダ様ったらこんな事もお知りにならないの?」

「当り前ですわ。同じ公爵家といえど、常にお城に通われているバルバラ様とは違って、ミランダ様は王子様の婚約者に選ばれるまで、家に引き込まっていらしたもの」

「お城の流行に疎くていらしても、仕方がないというものですわ」

 ウフフ、アハハと笑うのはジェルダー公爵・キレック伯爵・グリッジ伯爵の三令嬢だ。

 私とアシュは、うへえ~という顔になる。貴族令嬢としてはアウトな表情だけれど、この三人に会うとどうしてもこんな顔になってしまう。

 それになによりアシュが許してくれているから大丈夫。

「私は優しいから、知らないのなら教えてあげるわ。これはね水辺の鳥の羽よ。こうしてリボンにつけるのが今城内では流行りなのよ。多ければ多いほど豊かに見えるでしょ」

 そうして嫌でも目につくのは、ジェルダー公爵令嬢の頭で揺れている幾つもの羽の群れ。

 孔雀等の大きな羽がついているのなら分からなくもないが、彼女の頭には中途半端な長さの羽。しかも羽は保存状態があまりよくないのか、先の方は整っていない。

 それをこれでもかとリボンに巻き付けているので、綿埃が頭にくっついているようにしか見えない。

「流石バルバラ様よね。こんなにも美しい羽を集められるなんてジェルダー公爵家ならではの事よ」

「バルバラ様の母上、ジェルダー公爵夫人も先日の夜会でつけてらしたとか」

「お母様はもっと凄かったわよ。髪にも服にもつけてらして、まるで水鳥の女神のようだったわ」

「ステキ~」

 え? これよりも酷いの? それって最早、水鳥の女神というより埃の塊では?

 私はこんなのが素敵だという三人の頭を本当に心配したが、冷静に考える。なんとなく分かった。

 ジェルダー公爵家ではこの水辺の鳥の羽のデザインを流行にしたいのね。だってこんなのが流行ってるなんて聞いた事もない。

 ジェルダー公爵領は湖が多いから鳥が多く生息するのでしょう。

 王妃様の衣装は常に流行りの最先端。ミランダ様はまだ社交の場には出られてないとはいえ、その身は常に人目にさらされている。そのミランダ様が身に着けられるとなるとおのずと欲しがるものは増える。それが如何に道化姿であっても。

 私がそんな事を考えていると、隣のアシュがすっと前に出た。

「失礼、お嬢様方。素敵な話をされてらっしゃいますね」

 ニコリと笑う姿は、八歳とは思えないほど洗練されていて、一瞬でその場の全ての者の目が釘付けになる。

 突然現れたアシュに暴言を吐いていた三人もミランダ様も、その様子を傍観していた周りの人も一瞬で引き寄せられる。が、アシュの目が笑っていない事に気付いているのは私だけ。

「恥ずかしながら、私は城内の流行には疎くて教えていただきたいのですが、ジェルダー公爵令嬢の髪飾りは今、最も流行っている代物なのですか?」

 アシュの言葉に我に返ったジェルダー公爵令嬢は、ほんのり頬を染めながらも胸を反らした。

「ええ、そうよ。これは我が家の領内でとれた上質な鳥の羽なの。上品な色に軽くてフワフワ。美しい中にも可愛さをあしらった一品よ」

 そう言って、自分が周りの注目を浴びていると感じた彼女は、その場でくるりと回って見せた。

 フワフワフワ……。

「「「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」」」

 ジェルダー公爵令嬢が回ったと同時に、綿埃……じゃなくて、羽がフワフワと舞い、辺りの者の鼻と口にまとわりつく。

 アシュを始めとする周りの者は、一斉に咳き込んだ。

 驚いたジェルダー公爵令嬢が目をひん剥いていると、アシュが「失礼」と言って、咳き込む口元を片手で押さえ、もう片方の手を令嬢の前に掲げる。

「どうやら子供の私には、その髪飾りの素晴らしさは分からないようです。私は愛しい婚約者のファニーと踊るのが大好きなのですが、その飾りを彼女につけてもらうのは遠慮したいな。踊るたびに咳き込んでは堪らない。ソネット様も殿下の健康を守るためにもそれを身に着けられる事は、諦めて頂きたい。淑女の流行りの分からぬ武骨者の言う事で申し訳ないのですが、ここは私の顔を立てていただけますか? 殿下とソネット様が踊るたびに咳き込まれるお二人を見たくありませんので」

 アシュのその言葉に周りがドッと笑う。

 ミランダ様はホッとしたように、頬を染めながらアシュを見る。

「ハワード様がそう仰るのなら……」

 少し潤んだ瞳は、余程ジェルダー公爵令嬢が怖かったに違いない。

「ハ・ハ・ハワード様、その仰りようは如何なものかしら? 我がジェルダー公爵家の品を貶めるつもりですか?」

 ジェルダー公爵令嬢は、顔を真っ赤にしながら金切り声をあげる。

 その怒声に周囲の者も笑いをおさめた。

「まさか。ジェルダー公爵令嬢が仰るようにとても美しく、愛らしい品だと思いますよ。貴方にとてもよく似合っている」

「え?」

 虚を突かれたのか、ジェルダー公爵令嬢の顔が真っ赤に染まる。

 美しく愛らしい品が貴方に似合うって……この場をおさめるためだと分かっているけど、アシュの口から他の女性の褒め言葉を聞くのは、何だかモヤモヤする……。

「――ですから、その羽はジェルダー公爵家が独占で身につけられたら如何ですか。流行りを独り占めです。ジェルダー公爵夫人とともに社交界で評判になりますね」

 ニコニコと笑うアシュの言葉は、最早褒め言葉にしか聞こえない。

 けれど、言っている内容は酷いものだ。ようするに一人で着ていろと。社交界で道化者として注目を浴びると言っているのだ。ジェルダー公爵夫人と二人だけで着るのだから、最早流行りも何もなく、ただの悪口なのだが、ジェルダー公爵令嬢は全く気付いていないようなので、黙っていよう。

「そ・そうね。それもいいかもしれないわね」

「そうですよ。その素晴らしく美しい品をジェルダー公爵令嬢ほど、着こなす方はいないかもしれません。その羽は貴方のためにあるものです」

「ホホホ、良く分かってるじゃない。確かに私の真似をしてこれを身につけたとしても、他の令嬢では私ほど美しくかつ愛らしく見せる事は出来ませんものね。ミランダ様、とても残念でしょうが、この羽はお譲りする事は出来ませんわ。ごめんあそばせ」

 ミランダ様は一言も欲しいとは言っていないのだけれど、ジェルダー公爵令嬢は一人満足した顔をすると、羽をフワフワまき散らし高笑いして去って行った。

 令嬢の姿が見えなくなった瞬間、周囲がまたもやドッとわいた。

「ハハハハハ、素晴らしい手腕です。ハワード様」

「あのジェルダー公爵令嬢が、機嫌よく引くなんて初めて見ました」

「あのムズ痒くなる品を流行にしないで下さいまして、感謝いたします」

 それぞれが笑いながら、アシュに話しかける。

 ニコニコとするアシュにミランダ様がそっと近づく。

「ハワード様、助かりました。本当にありがとうございました」

「いえいえ。彼女達は押しが強いですからね。王子の婚約者として事を荒げず、おさめるのも理解できますが、嫌な時は嫌だと申し上げてもよろしいのではないですか」

 あっさりと王子の婚約者だからといって無理はしなくていいと言うアシュに、ミランダ様は目を見開く。

「まあ、ソネット様の立場じゃ難しいか……それならば、今回のように周りに頼ってみて下さい。私のように分かる者はいるはずです。微力ながら私も協力致しますので」

 ミランダ様がアシュを見つめる。その目を見ていると先程のモヤモヤが広がって……気付くとアシュの服の裾を掴んでいた。

 恥ずべき行為だとすぐに気付き手を引いたが、その瞬間アシュに腰を抱かれ寄り添わされた。

 驚く私とミランダ様にニコニコと笑顔のアシュは「もちろん、我が愛しの婚約者殿も協力者です」と私がいる事を強調する。

 ね。っと至近距離で見つめられた私はコクリと頷く。

「私で出来る事ならば、喜んでお力添えさせて頂きたいと思います」

「ああ、可愛いファニー。可愛い上に優しいなんて私の婚約者は最強にして最高だ」

 そう言ってガバッと抱きしめてきた。周囲の人も突然のアシュの行動に驚いてはいたが、すぐに温かい言葉に変わる。

「ハワード様は本当にロレン侯爵令嬢がお好きだな」

「上級貴族のハワード様にこんなに仲睦まじい婚約者殿がいらっしゃるのは、喜ばしい事だ」

「お二人とも本当に可愛くてお似合いで、見ているだけで癒されますわ」

 周囲が温かく見守る中、私が恥ずかしくなって俯くと、隣からミランダ様が「ありがとう、ロレン侯爵令嬢」と声をかけられた。

 慌ててアシュの腕から顔を出すと、ミランダ様は笑顔で握手を求めてきた。

「あの、お嫌でなかったら、友人になって下さいませんか?」

 王子の婚約者、将来王妃となられる方に友人になってほしいと頼まれた。

 驚く私をそっと腕から解放し、背を押すアシュを反射的に見ると、笑顔でコクリと頷かれた。その笑顔に後押しされ私は、コクリと頷き返す。

 真っすぐにミランダ様を見ながら「喜んで、宜しくお願い致します」と手を握った。

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