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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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カラン山

 数日後、俺はカラン山に入って気が付いた。

 この場所は複雑難解な地理と鬱蒼とした木々だけが問題ではなく、霧が異常に濃すぎるのだ。

 視界が見えないのだから、迷うに決まっている。これは思った以上に厄介だ。

「はいはいはい。ここは俺の出番だな。坊ちゃんは下がっていろ」

 異様に明るい師匠は、俺の前にずいっと出ると、手をワキワキ動かす。

 何をする気だ、この人は?

 そう思った俺の前にぼうっと光が灯りだす。

 はいいいぃぃぃ???

 フヨフヨと浮かぶそれは……魔法ですか? 魔法なんですよね?

 そうして呆気にとられている俺達の周りの霧が晴れる。あくまで周囲1キロほどの空間ではあるが、これはかなり助かる。

「どうだ、驚いたか? 俺のとっておきの技だ」

 確かに凄い事だが、そのどや顔にはちょっとイラっとする。

「驚きますよ。当たり前でしょう」

「そうか? お前は魔法の存在を知っていただろう」

 ギクッ!

 こんな所で突然の暴露。ドキドキする俺は、探るように師匠を見る。

「おいおい、今更俺を疑うのかよ。五年も一つ屋根の下で暮らした仲だろう」

「誤解がおこるような言い方はやめて下さい。五年経とうか十年経とうがそんな奥の手、隠されていたら疑うのは普通でしょ」

「隠し事はお前の十八番だろうか」

 ……………全て話すと決めてはいたが……この人はどこまで知っているんだ。

「悪い。探り合いをする気はねえ。腹割って話そうと思っているだけだ。どんな突拍子もない事だっていい。ちゃんと話してみろ。俺も知ってる事、包み隠さず話してやるからよ」

「……どうして?」

 この人は、隠し事が俺の十八番などと言うクセに、どうして俺を信じられるのだろう?

 カラリと笑う師匠がどうしても不思議で、気付けば俺は素直に聞いていた。

「……初めて会った時から、子供の目してなかったからな」

「………………」

「ファニリアスもそうだった。俺はあいつとは数えるくらいしか会った事はなかったが、一切手のかからない、絵にかいたような理想の赤子だったんだ。どこを見ているのか分からない目が怖くてな。俺はあいつに余り関わってこなかった。それをお前に会った時、思い出した。ファニリアスはお前のお蔭で、普通の女の子になったけれど、そのとうのお前がガキの目をしていないのが気になってな。それでちょっかいかけた。こいつには人に言えない秘密があるって事も分かったよ。だって俺がそうだったからな。秘密を抱える人間は、秘密を抱える人間が分かるんだよ」

 師匠はスッと俺の目線に合わせて聞いてきた。

「どうする? このままここで話すか、前に進みながら話すか?」

 魔法をチカチカ照らす行為が、妙に鼻につく。

 大人ぶった余裕の言葉に少しだけ、本当に少しだけ羨望の眼差しで見てしまう。俺もこんな風に余裕な態度をとってみたいと。まあ、深くものを考えていないだけなのかもしれないが。

「話す事は前提なのですね」

 俺が仏頂面で答えると、目の前の顔はニヤリと笑う。

「もちろんだ。お前も最初からそのつもりで、俺と二人きりでこの旅に出たんだろう」

「……二人きりという言い方が妙に嫌ですが、否定はしません。聞いた以上は逃しませんよ」

「ははは、怖えなあ。いいぜ。お前に関わると決めた時から、腹は決めていた。で、どうする? 先に進むのか?」

「もちろん」と答えた俺は、師匠とともに霧深いカラン山の泉に目標を定めて、進路を進む事にしたのだった。



「……マジかよ……」

 俺は前回の記憶込みで白の魔女の話、全てを師匠に打ち明けた。

 魔法の存在が明るみになった以上、こんな話どこで漏れるか分からない。ある意味、人が立ち入れないカラン山というのは内緒話にはうってつけの場所といえよう。

 俺の長い話は、師匠の体力と気力を奪ってしまったのか。どっと疲れた顔をした師匠が、休憩を申し出た。

 俺達は霧で周りが見えない以上、何ものかが近づいたら分かるように地面に罠を仕込んでから薪を燃やした。

 霧でうまく火が付かないかと心配したが、師匠の光は霧を完全にシャットアウトしてくれているので問題なかった。無事に焚火が出来た事に安心して、俺は食事の用意をする事にした。

「年ですか? 師匠」

 そんな軽口をたたくと、ポカリと頭を叩かれた。

「馬鹿ぬかせ。魔法は体力を消耗するんだよ。俺は生粋の魔法使いではないからな」

「そうですね。そこはちゃんと説明いただきたいところですよね」

 俺が師匠にも話をさせるチャンスだと思い話にくいつくと、師匠が真剣な顔をする。

「……お前のその妙な言い回しには、前回の記憶が関係しているという事でなんとなく理解したが、全て話した以上もういいんじゃないか。どうせ十六歳までしか生きていないんだろう。普通に話せよ」

 師匠が何故か憐憫の表情を浮かべるので、俺は哀れまれるような事でもないのになぁと思い、首を振る。

「いえ、これはもう半分は癖ですね」

「もう半分は?」

「仮にも師匠ですからね。まあ、敬意をこめて……」

「はえ?」

 師匠が不思議なものでも見るかのように目を見開いて、俺を凝視する。

 ちょ・ちょっと待ってくれ。俺はそんなに変な事を言ったか? 

 俺は無性に恥ずかしくなり誤魔化すように、チーズとハムをのせたパンを師匠の顔に突き出す。

「と・年上なんですから、当たり前でしょう。年寄りは労わないと」

「誰が年寄りだ!」

 またもやポカリと叩かれた。公爵家の嫡男の頭をそう気やすく何度も叩くなよな。師匠だからしょうがないけれど。

「俺の話の前に、確認しときたい事がある。いいか?」

 師匠はモグモグとパンを咀嚼しながらたずねてくる。俺がコクリと頷くと師匠は指を三本立て「前回の人生では……」と前振りが入る。

「一つ。黒の魔女に白の魔女は魅了の魔法を奪われ、白の魔女には対抗する力はない」

 一本目の指を折る。俺は頷く。

「二つ。黒の魔女は国の要人達を味方につけ、ファニリアスを処刑した。その際お前も一緒に死を迎えた」

 二本目の指を折る。俺は頷く。

「三つ。黒の魔女はなんらかの方法でゴルフォネとの戦争をおこそうとしていた」

 三本目の指を折る。俺は頷く。

「それも全て学園に入ってからの話。だったが、何故か今回は一つ目が既に行われてしまったという事か……」

 そこで師匠はパンに噛り付く。

「俺が今回変えられた事は、ファニーと王子の婚約を邪魔しただけ」

 俺は長く話し過ぎた喉を潤すため、水筒の水を飲む。

「大きな事じゃないか。それで今回はもしも前回同様、黒の魔女が王子に惚れたとしてもファニリアスが処刑される事は回避できたじゃないか」

「そんな簡単な話じゃありませんよ。王子の婚約者は別に存在しているし、何より王子がまだファニーを諦めていないんです」

「は? 何言ってるんだ。ファニリアスにはお前という立派な婚約者がいるじゃないか」

 ゲフリとパンを食べ終えた師匠は、目を真ん丸にしながら水筒を掴む。

「そうです。王子も流石に表立っては何も言いませんが、常に目線はファニーを探しています。側近や婚約者が気付くほどに」

 俺も話の合間にパンを咀嚼する。

「まさか……ファニリアスも気付いているのか?」

「俺がそんなの気付かせるはずないじゃないですか? けれど時間の問題かも……」

「そんなにあからさまなのか?」

「元より隠し事に向かない正直な性格なのですよ。前回もそれでいらぬ苦労をしました。けれどそんな事は言ってもいられない。今回こそはどんな事があってもファニーを守り抜きます」

 そうして俺達は今の会話の間に、軽く食事を済ませて片づける。

 確か俺達貴族のはずだったんだが……まあ、いいか。

 けれど先程から気にかかる。師匠は当たり前のように話を進めていくが……俺のこんな荒唐無稽な話……信じたのか?

いくら魔法が使えるからといっても、時を繰り返しているだなんてそんな話……信じてくれたのか?

 俺は複雑な心境の中、それでも師匠の話を先に聞いた方が良いと思い、師匠に伺いをたてる。

「どうします? このまま師匠の話を聞かせてもらえますか? それとも移動します?」

「いや、ここでいいだろう。今の間にも何の気配も感じなかったし、今日はここで話をしたあと休もう。せいては事を仕損じるって言葉も他国にはあるそうだからな」

「分かりました。では話の前にもう少し薪を集めてきます」

 そうして次は師匠の長い話が始まった。

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