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次は必ず守ります。そのためにも溺愛しちゃっていいですよね  作者: 白まゆら


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19/81

牽制

「……たいしたものだな」

 バルコニーへと出た途端、王子がしみじみとした風に、俺を凝視しながら言ってくる。

「ミランダ様には奥で休んでいただこうかと思っていたのだが、あんな笑顔は初めて見たな。ありがとう」

 ギルバード様も己の役割としてソネット様の事は考えていたらしいが、王子のいない場所で同年代の者にまとわりつかれても大変だろうと、奥での休憩を用意していたようだ。

 けれどそれでは、ソネット様も退屈だろう。

 一つ年下とはいえ、この短時間で奴らの人となりは分かった。屈託ない彼らなら心穏やかな時間を持てるかもしれない。

「恐縮ですが、私は何も特別な事はしていませんよ。後は彼らに丸ごとお任せです。戻った時に笑顔でおられるといいですね。ランバ様」

 わざと王子にソネット様の事を考えてあげてくれと話を振ると、王子は弾かれたように「あ、ああ」と言った。やはりソネット様に余り心を傾けてはいないようだ。

「それはそうと先程の件、ジェルダー公爵令嬢、キレック伯爵令嬢、グリッジ伯爵令嬢の事ですよね」

 これ以上、ソネット様の話をしても王子にはピンとこないだろう。俺は当初の相談事の件に話を進めた。

「やはり知っていたか。挨拶周りをしていたら緊張するのは分かるのだが、何だが畏縮しているように見える子達が多くてね。泣きべそをかいている子もいたようだ。変だと思って騎士や給仕に聞いてみたところ、例の三人組の悪態が分かったのだが、君が諭したと言う話を聞いたのでね、詳しい事を教えてもらおうかと思って呼んだわけだ」

 流石ギルバード様。すぐに会場内の雰囲気に気付いて、裏は取って来たのだな。

 後は俺の証言と照らし合わせて、処分をどうするのか決めるって事か。

「そうですね。ちょうどお二人が来る前に、私とファニーがお菓子を分け合って食べていたら文句を言われたので言い返した。というのが私がした事ですが、今、一緒に同席していた者達から聞くと、その前から皆に同じように酷い事を言って馬鹿にしていたようですよ」

「え、アシュレイはロレン嬢とお菓子を分け合って食べていたの?」

 はい? くいつくところそこですか?

 俺は少し半目になって王子を見てしまったが、それは仕方がないと思う。

 ギルバード様も流石に慌てて「そうか、皆の証言と一致しているな」と言って話を戻す。

 この王子、本当にファニーがいると頭の中、ファニーの事でいっぱいになって周りが見えなくなるんだな。前回でもそうだった。王子は本当にファニーが好きで、ファニーの苦労や周りが見えていなかった浅はかなところはあったものの、ファニーに対する気持ちは本物だった。

 だから俺は諦めて……けれど、黒の魔女にあっさり魅了の魔法を使われて心変わりしたんだ。

 それがなければ、この二人はずっと幸せに……はっ、いけない。思考が変なところにとんだ。

 俺は頭を軽く振り、今に戻してギルバード様を見る。

「処罰はお考えですか?」

「そうだね。子供のした事だからと言うには、少し酷いかな。落ち込んでしまってまともに顔を上げられない子もいたほどだから。厳重注意はしようと思うが、ジェルダー公爵令嬢が、その、厄介でね」

「ああ、ジェルダー公爵ですね。確かに彼は厄介ですね」

 ギルバード様が歯切れ悪くなるのも当然だ。

 かの公爵は上級貴族の立場からしても面倒だが、性格もそれに輪をかけて面倒だ。上級貴族を鼻にかけた傲慢かつ強欲で、人の話を聞かない人物でも有名だった。

「流石アシュレイ。人物像もしっかり頭に入っているようだね。今日出席していた子達の身分も頭に入っているのだろう」

 ギルバード様が探るようにニヤリと笑うので、俺もニコリと返しておいた。

「ほどほどには」

「凄いなあ、ギルもアシュレイも。私はそこまで覚えていないよ」

 王子が素直に賛辞をのべる。

「ランバはそれでいいのですよ。その分私が把握しています。それよりアシュレイは大丈夫だろうか。あの三人に言い返したのだろう。公爵に報告されてしまうんじゃないかな。こちらでも少し手を打った方がいいか?」

 ギルバード様が一変して、俺の心配を始める。ああ、そういう話し合いもしたかったわけだ。

「大丈夫ですよ。たいした事は言っていませんから。ファニーの美しさを称えるついでに、間違ってもファニーは悪態吐くような女にはならないと言って、三人に同意を求めただけですからね。それを公爵が何か言ってきたら、娘がその悪態吐く女だって、認めた事になりますから」

 ちゃんと予防策は張ってある事を伝えると、ギルバード様は感心したように笑う。

「なるほど。それならば公爵からは何も言えないね。子供の喧嘩として処理するしかなくなる。こちらの件も任せたいほどだ」

「いえ、それはもうギルバード様がお考えのはずでしょうから、私の出る幕なんてありませんでしょう」

「ハハハハハ、アシュレイと話していると本当に楽しいよ」

「恐れ入ります」

「……また二人で楽しんでる」

 王子が拗ねだしたので、俺達は誰からともなく席に戻ろうと、バルコニーを出た。

 席に近づくと笑い声が聞こえる。良かった。楽しめたようだな。

「ただいま、ファニー。問題なかった?」

 俺は右手でファニーの肩を抱いて、左手をテーブルにつく。その様子に皆はキョトンとしているが、ファニーだけは満面の笑顔で「お帰りなさい」と言ってくれる。くぅ~、新婚みたいだな。ちなみにこれは、王子の予防策でもある。

「待たせたね、ミランダ」

「いいえ、大丈夫ですわ。皆様がとても優しい方達でしたので」

 ソネット様の様子からして本当に楽しかったのだろう。表情が先程より大分と和らいでいる。

 王子の婚約者として緊張していたのだろうな。可哀そうに。まだ八歳なのにね。

 ゲーリックと目が合うと、彼は勢いよく立ち上がって「任務完了。遂行出来ました」と嬉しそうに報告してくれる。犬の尻尾と耳が見えそうだ。

「ご苦労様。皆ありがとうね」

 労いの言葉をかけると、皆頬を染めて嬉しそうにする。やばい、犬の調教師にでもなった気分だ。

「ランバース殿下、よろしければこちらのお席をどうぞ」

 ファニーが王子に気を使って、自分の席を譲ろうとする。いやいや、淑女がそんな事気にしたらいけないよ。

 案の定、王子も驚いて「どうかロレン嬢、お座りになっていて下さい」と首を振る。

 ギルバード様が、そつなく横でテーブルをもう一つ増やして席を作るように、給仕に声をかけた。

「……ロレン嬢は、気遣いのできる優しい方なのですね」

 王子が頬を染めながら、ファニーを優しい顔で見る。が、ファニーは俺を見てフフフと笑う。

「そう見えるのならアシュのお蔭です。アシュがいつも私の事を気にしてくれるので、私も周りを気にするようになったのかもしれません」

 ねっ。というように首を傾げて俺を見るファニーは殺人的可愛さだ。ああ、ファニーさん。君は俺をどうしたいのでしょうか? 王子がファニーを見た時、ちょっとモヤッとしてしまった俺が、ものすごく狭量な気がします。いえ、ことファニーに関したらものすごく情けない男になりはてるのは、否定できません。

「狭量でごめんね」

「え、いきなりどうしたの?」

 ファニーの肩に頭を付けて謝る俺にファニーは驚いている。そのまま肩にグリグリと頭を擦ると、ファニーは優しく撫でてくれる。その手に癒されていると、ゲーリックがニヤニヤ笑いながら突然変な事を言った。

「アシュレイはファニリアス様がいなくなったら、一緒にいなくなりそうだね」

「「!」」

 とても不吉な事を言うゲーリックに皆、目を開いて驚く。

 慌ててコニックがゲーリックを引っ張って口を塞ぐ。

「へ・変な事言っちゃあ駄目だよ」

 そんなコニックにムッとしたゲーリックは、反射的に立ち上がってコニックの腕から逃れる。

「変な事じゃないよ。昨日本で読んだもん。可愛い子は妖精が自分の国に連れて行ってしまうんだよ。ファニリアス様は可愛いから連れていかれちゃうかもしれない。でもアシュレイが絶対後を追うよね。だってアシュレイはファニリアス様がいないと寂しいもんね」

 ああ、そういう事か。

 この国では、たまに子供がいなくなる事件がある。人攫いか事故かは分からないが、そういう時は決まって妖精に攫われたという。嫌な想像をしたくない大人達が、せめて我が子が可愛いから妖精に連れていかれたのだと思おうとしているのだ。そして妖精の国で幸せに暮らしていると。

 そういった子供向けの本があり、大人達は読んで聞かせる。

 ただ最近ではその内容が可愛いから連れていかれるのだという話と、躾の一環で悪い事をしてはいけない。悪い事をしたら妖精に連れていかれてしまい二度と帰っては来られないという教訓を込めた話との両極端な内容があり、親はどちらかを選んで子供に聞かせるのだ。

 貴族の間では前者が選ばれる事が多く、常に気を付けるようにと注意喚起した本が基本となっている。

 ゲーリックはただ単純に、俺が余りにもファニーにベッタリだからファニーが連れていかれると俺が追いかけて、俺もいなくなるだろうと思ったのだろう。そして向こうで幸せに暮らすのだろうとでも考えたに違いない。

「……まあ、間違ってはいないけれどね」

 俺が合意を示すとゲーリックは嬉しそうに「そうだろう」と言う。

「妖精だろうが悪魔だろうが、ファニーと私を引き離す者は容赦しない。それが例え〔死〕だとしても絶対に追いかける。私の全てをかけてファニーを一人にはしないよ」

「……………………」

 俺が顔を上げると皆、何故か硬直している。

 王子やギルバード様、ソネット様は青い顔をしているし、四人は完全に引いている。

 ちょっと本音を言い過ぎたか。

 けれど前回では本当に彼女を追って〔死〕を迎え入れたのだから。

 嘘をついているわけではないが、流石に子供に聞かせるには重い言葉か。

 ファニーと目が合う。俺が冗談だよと笑おうとすると、そっと俺の腕に身を寄せる。

「……だったら、今まで以上に危険な事はしないようにするね。私一人の命じゃないものね」

 その言葉、七歳児じゃなかったら意味深すぎるんだけれど……と思いながらも、ファニーの優しさに俺はギュッと彼女を抱きしめる。

 俺の重すぎる愛を真正面から受け止めてくれるファニーに、全面降伏しながら俺は皆にニヤリとした笑いを向ける。

 七歳児組は、俺が冗談を言ったのだと思い、ホッと肩の力を抜く。

「もう、言い方が怖いわ。アシュレイ様」

「もとはと言えば、ゲーリックがおかしな事を言うから悪いんだからね」

「僕、悪くない!」

 七歳児組がギャーギャー騒ぐ中、従者が王子達を呼びに来た。

 どうやら時間が来たようだ。王子とギルバード様、ソネット様は「また近いうちにね」と言い、去って行った。王子は何度もファニーを見ながら。

 そんな王子を苦笑して見るギルバード様と、何故か王子と俺を交互に見るソネット様が目に付く。

 俺の本気は王子とギルバード様に届いただろうか。

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