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008 戦術

「うぁわっちっ!」



お昼ごはんにと焼きそばを作っていたら、はねた油の攻撃を受けた。右手のこうにダメージ。早急に冷やさなければ。



「あ、火止めんと…。」



ドタバタ。いつもならはねた油でも反応できるはずなのだが、少し疲れているらしい。明日のこともあるし、今日は早めに休むとしよう。


とりあえず焼きそば完成。ちょっと豪華に目玉焼きをトッピングしてみた。ついでにとばかりにごはんもよそう。洗い物の観点からワンプレート推しなので、カレーライスならぬ焼きそばライスの様相。炭水化物をおかずに炭水化物を食べていくスタイル。



―――ん?あ、そろそろ1時だ。



電池が少ない影響か、10分ほど遅れている時計が1時少し前を指している。友人の晴舞台だ。画面越しだが精いっぱい応援しよう。


テレビの電源を入れ、インターネットに接続する。



「えーっと…シュンカンゲームズ…カード…対戦っと。」



検索画面に入力し、ライブの動画を探す。大会名くらい聞いておけばよかった。



「あった、これか。」



テレビの画面いっぱいにクマの被り物。見慣れているとはいえ、言葉では形容しがたい感情がうまれる。中の人が俊だと思うと、余計に。


今回の参加者は8名。トーナメント形式なので、俊の出番は最大で3回だ。公式が運営しているイベントらしく、優勝賞品はプロモーションカードとのこと。昨日の会話が影響しているのだろうか。あれはいくらなんだろう、そんな思考が脳内を駆け巡っている。



「がんばれー。」



気持ちは込めたが、届くはずのない声援をおくる。







俺の応援が功をそうしたのか、俊はあれよあれよと決勝戦まで駒を進めた。


「おっしゃーっ!がんばれーいっ!」


テレビに向かって絶叫。近所迷惑(はなは)だしかった。ごめんなさい。


ここまで来たら優勝してほしい。そしてノリノリのテンションで、俺にファミレスのハンバーグあたりをおごってもらえるとありがたい。



―――それにしても…こんな感じなんだ。



普段は俊と楽しくわちゃわちゃと遊んでいたが、ルールを厳格に適用すると、こんな雰囲気になるようだ。被り物で全く見えないが、きっと真剣な表情に違いない。



「…お、良いカードじゃない?」



俊がキーカードを引いた。ゲームをプレイしていると、運に頼る瞬間が訪れる。必勝法が存在していたらゲーム性が破綻してしまうわけで、こればかりは仕方がないこと。そこに戦術という要素が加わるわけなのだが、戦術を機能させるための手段がいる。これには運が絡む。いわゆる「引き」というやつ。



―――強いカードばっかり引いても無理なときがあるし。



子ども心に、切り札級のカードばかり詰め込んだデッキを作ったことがある。これがびっくり、大抵、機能しない。切り札のおぜん立て、あるいは補助するカードというものが必要になってくる。このあたりのバランス感覚も重要なのだ。



「おおっ!これはいけるんじゃないか?」



昨日の撮影中、俊が熱心に説明していたコンボが回り出した。相手の手札をどんどんと削っていく。手札とは自分のとり得る手段そのもの。だからこそ手札を削る戦術は、ほとんどのカードゲームで存在している。単純ながら強いのだ。



俊が優勢だと思うのだが、まだ予断を許さない。俺を含め視聴している人たちにはすべての情報が視覚化されている。対戦者が知らない、例えば相手の手札が何であるとか、そういった情報も見ることができる。だからこそ戦況が簡単に分析できるのだが、戦っているプレイヤーにしてみると、そうはいかない。最後まで気が抜けないのだ。岡目八目(おかめはちもく)とはよく言ったものと感心する。



『効果でカードを2枚破壊して、攻撃。』



俊の攻撃が通れば勝ち。



『ありがとうございました。』



見事、優勝。


これは良い流れを受け取ることができた。この流れに乗って、明日の大会、がんばろうと思う。俺が欲しくてたまらないゲーム機は、予約すら再開されていない。ゲーム機のためにがんばる…まあ、そういったモティベーションもありだと思う。


そういえば、ゲームがスポーツの一つとして認識されている、そんなネット記事を見たことがある。なかには賞金が出る大会があり、ゲーマーが職業として数えられる時代らしい。



―――もし優勝できたら…俺もなんちゃってプロゲーマーくらいにはなれるんかな?



一応、数万円する賞品をゲットできるわけだから、まあ、それくらいは名乗らせてほしい。…やっぱり捕らぬ狸の皮算用。

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