007 徹夜
翌日、俺はFPSのプレイ動画を片っ端から見ていた。
「おー、すげー。」
素直に感動するレベル。対戦風景を見ているだけでも、結構楽しい。
息もつかせぬ高速バトルが展開されたと思いきや、急に持久戦がスタートする。ころころと変わる風景に、新鮮な興味がわき続ける。FPSはルールが単純。相手キャラクターの体力ゲージを0にすれば勝ち。それまでの「過程」がおもしろい。プレイヤーの作戦次第でどのようにでも変化するゲームなのだ。
―――うわ…たった1発でこんなに削られるんかい…。
例えば今の対戦。プレイヤーAは大技主体で攻め込んでいる。ハイリスクハイリターンを連発。対するプレイヤーBは、連撃スタイル。攻撃を山のように積み重ねていく。着実に攻撃を当て続けたBが試合を優勢に運んでいたが、残り2秒というところで、一瞬の隙が生まれた。そこにきっちりと大技が決まり、Aの逆転勝利。
解説の方曰く、若干守りに入ってしまったらしい。わかる、その気持ちとってもよくわかる。リードしてもなおリスクをとる、なかなかできることではない。
―――まあ、俺はカウンターをひたすらだな。
それ以外に選択肢はない。
―――ここで…よし。
ひたすらカウンターのタイミングを探る。回避して、攻撃…の練習。動画を止めて、タイミングが合っているのかを確認する。この繰り返し。
さっきの大技でわかるように、一瞬の油断が敗北につながる。しかも大会は勝ち進めば、連戦となる。集中力をいかに維持するのかも大きなポイント。
「おーい、大樹ー?」
俊だ。さすがに2日連続は悪いと思い、今日は特に予定を入れなかった。
「ほいほい。俊、おはよ。どうしたん?」
「はいこれ。どうぞ。」
数枚の紙。
「ありがと…?」
「知り合いの実況者さんが送ってくれたんだ。最近の主流戦術とか、前回大会の様子とか。」
FPS大会虎の巻…といったところだろうか。これはありがたい。
「ありがとう。これで何とかなるかもしれん。あ、その実況者さんにもよろしくお伝えを…。」
「うん。じゃあ、また明日。あ、そうそう、これからカードゲームの実況者大会があるんだ。1時から配信されると思うから、よかったら。」
どうやら昨日のカードゲームらしい。俺で練習相手がつとまったかは…何とも言えないところだが、少しでも力になれていたら幸い。
「そうなのか。そりゃあ、がんばって。」
―――あ、それでその被り物か…。
ずっと気になっていた。俊のカバンからはみ出しているクマみたいな被り物。顔出しをしていない俊にとっての必須アイテムだ。彼女のお手製なので、オンリーワン。まあ、その…羨ましい限り。
「おう、任せとけ!徹夜で調整した俺の最強コンボ、決めてやるぜ!」
「お、おう…。」
うん、徹夜はよくないと思う。