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062 過去

あの激闘から1週間。



俺は大好きな「たい焼き」を片手に…いや、両手に抱え、至高のひと時を満喫中だ。ちなみに「たい焼き」は、しっぽの方から食べる派。




―――甘い。




隣には(しゅん)。ベンチの幅が影響し、こぶし1個分という極めてプライベートな間隔が構成されている。わがままを言って良いのならば、まあ、悠美(ゆみ)さんの方が…。




「ん?どうせなら悠美ちゃんと一緒に食べたかったぁ、とか思ってない?」



「えっ!?いや、その、あの…。」




鋭すぎる直感とツッコミにあたふた。




「まあ、もう少しで連休だし、デートなりなんなり、好きにしなはれ。」




(あき)れられたような気がする。まあ、俊なりのエールと受け取っておこう。




「と、ところで、インタビューの記事、読んでくれた?」




話題を変える。世界大会優勝という結果、その効果は絶大だった。取材依頼の山。鳴りやまない電話(東のおっちゃん談)。なぜか増える親戚。




「読んだ、読んだ。決勝にフォーカスが当たっているあたり、さすがゲーム専門誌って感じ。あ、あとチャンネルの紹介してくれて、ありがとね。」



「根掘り葉掘り聞かれたもん。コマ送りバージョンの映像とかも見せてもらえたし、結構勉強になりました。」




対戦後のインタビューで振り返ることはあったが、あそこまで丁寧に自分の対戦を見つめたことは初めてだった。別に「過去なんか振り返らないぜ!」的な意味合いではない。前に進み続けることで精いっぱい、そんな状況だったのだ。




「へぇー、コマ送りか…。うん、解説動画に取り入れてみようかな。確か40秒くらいだったよね、決勝。」




そう。決勝戦、決着は一瞬だった。もちろん厳密な意味での「一瞬」ではないが、決着がはやかったのは確か。




「うん。でも…。」




長く感じた。とても。今まで経験してきた40秒は嘘なんじゃないかと思えるほど。











決勝戦。



俺はいつも通り「苦悶(くもん)(かすみ)」対策として、「背水(はいすい)狂焔(きょうえん)」を発動するつもりだった。もはやお決まりともなった、状態異常にされるんなら、自分からなってやろうじゃないか作戦。



ただ結果として、俺はこの技を使わなかった。



理由はシンプルでいて、とても深い。トップ選手が《純粋な力勝負》を仕掛けてきたからだ。しかも大技の4連発で。




―――最初は何かの(トラップ)かと思ったけど。




対戦後のインタビュー、トップ選手の言葉を借りるのならば「誇り(プライド)のための戦い」だった。要するに、試合よりも勝負を求めたというところ。



もちろん俺がその土俵(どひょう)に乗る必要性はない。自分で言うのもなんだが、俺は結構、論理的に物ごとを考える方だと思っている。ならば論理必然的に「背水の狂焔」を使うしかないのだ。万が一これが罠で、中盤に「苦悶の霞」を使われたりしたら、目も当てられない。ただ…。




―――受けて立っちゃうよね…あれは。




「プロ」という肩書きの意味を、その責任を、初めて明確に自覚した瞬間だと思う。



ここまで思考が進んだところで、一つの解を得た。トップ選手の大技4連発、使われた技は全て違った。そしてFPSゲームにおいて登録できる技は、最大4つ。それが意味するところ、つまり。




トップ選手は「苦悶の霞」を採用していない。




それすなわち、《勝負をしよう》と誘われているのだ。手のうちを全て晒すという、圧倒的不利を背負ってなお、それを望まれたのだ。絶対王者に。




『トップ選手っ!絶対王者のプライドを賭けた戦いっ!』




会場に響いた実況さんの声。俺は、何と言うか、嬉しかった。もしかしたら、ちょっと頬が緩んでいたかもしれない。



かっこよく言えば、俺、期待の新星…なのだが、その実は反応チート。FPSの知識も少ない。経験も少ない。どこか引け目を感じていた。そんな俺が、初めて認めてもらえた気がした。プロとして。都合の良い解釈かもしれないけれど、そんなことを本気で思った。




(かわ)す。躱す。躱すっ!そこから…カウンターッ!』




技のボタンから指を離す。通常攻撃、すなわちカウンターのために必要なボタンのみに指をかける。一番の得意(カウンター)で受けて立つ。




そこから始まった力勝負。その時間、37秒。

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