052 逆手
ところで、FPSの技には、そのすべてにアニメーションがつけられている。「炎陽」ならば、炎を纏って花びらが舞う、あれ。つまり、効果処理に一定の時間がかかるのだ。そして「苦悶の霞」の効果発動は、カットインから6フレーム後。
俺ならねじ込める。
『おーっと!マイケル選手が苦悶の霞をはなったように見えたが…これは…ダイキ選手が割り込みをかけているーっ!』
実況さんの声を追うように、俺が発動した技がカットイン。普通ならばありえない光景に、会場から悲鳴にも似た声が上がる。
『背水の狂焔…!』
俺に状態異常のアイコンがつく。もっともこれは「苦悶の霞」によるものではない。俺が使用した技「背水の狂焔」によるものだ。
―――状態異常になるだけなら意味ないけど…。
もちろんそんなデメリットだけの技ならば、いくら俺でも使わない。もちろん、追加効果がある。自ら状態異常に陥るのと引き換えに、全ステータスを上昇させるのだ。攻撃力はもちろん、防御力、あるいは移動速度まで。上昇幅は雀の涙なので、これまたほとんど使われていない技。
『背水の狂焔…これもまた珍しい技だ!ダイキ選手、状態異常を逆手にとった戦術…苦悶の霞を無効化したーっ!』
そう、毒状態になっているキャラクターに、さらに毒状態にする…なんてことはできない。麻痺している相手に、麻痺技を撃っても意味がないのと同じだ。同じ状態異常が重複することは、基本的にありえないのだ。
「…!」
想定外の対応だったのだろう。マイケル選手の動きが《わずかに》止まった。俺でなければ気づかなかったかもしれない。それほどに僅か。
『風乱れて桜降る…春霞一閃!』
自分から攻撃を仕掛ける。カウンターを基本とする俺にとって、結構勇気のいる決断。しかし、チャンスを目前に躊躇しているようでは、この先に進めない。
―――当たってくれ…。
一連の動きが終わるまで、任意の操作はできない。相手は既にガード体勢に入っている。俺にできることは、ただ見守ることだけ。
ガードの残り時間を示すバーが、じりじりと削れていく。あとコンマ1秒。春霞一閃の切っ先が、わずかに顔を出した。
『ファーンタスティーックッ!ダイキ選手の春霞一閃が直撃。マイケル選手の反撃…返す刀だが…かわしたっ…そして…カウンターだーっ!』
会場のボルテージに合わせるかのうように、対戦が加速する。「苦悶の霞」を回避したことが奏功。あとは大技に注意しつつ、カウンターを決め続けるだけだ。
『炎陽からの…雷鳴っ!これは大技の連続…しかしかわす、かわす、かわすーっ!』
カウンターを決めたいところなのだが、ここは冷静に進める。大技は隙が大きいものの、威力がヤバい。下手に突っ込むくらいならば、技の使用回数切れを狙った方が良い。
―――…と、まあ。頭ではわかっているんだけどね…!
回避を続けることが勝利への最善手。それは間違いないのだが、理論が感情に負ける瞬間なんて往々にしてある。
格好をつけたいのだ。
『炎陽が再びーっ!これもかわすダイキ選手…っとカウンターだーっ!』
押しきる。
『風乱れて桜降る…春霞一閃!』
―――…ん?
マイケル選手、ガードを発動していない。あきらめた…わけではない。これは。
―――カウンター…か。
最後の最後、まさかお株を奪われかけることになろうとは。ギャラリーさんも気づいているようで、歓声が飛ぶ。
『決まったーっ!最後は春霞一閃!勝者…ダイキ選手!』
一回戦、突破。




