048 乱入
あれから数時間後、俺のテンションはストップ高を記録していた。
スマホ片手に自撮り…ではなく、悠美さんとビデオ通話。俊や東のおっちゃんは、先にホテルへと向かっている。というわけで、俺は今一人。画面ごしだけど、二人の時間を満喫できる。
『わぁー!海、きれいですねー!…私も行きたかったなー…なんて。』
お付き合いをしているとはいえ、お互いに未成年。電車で30分くらいの距離ならばともかく、ここは海外。さまざまな事由を総合的かつ常識的に判断した結果、お誘いはしなかった。
―――ん…?
誰かに呼ばれた気がする。まあ、気のせいだろう。母さんは17時まで仕事と言っていたし、父さんたちは先にホテルへと向かったはず。他に知り合いはいない。それよりも。
「…いつか一緒に行きましょ、って痛っ!」
せっかく一歩踏み出せそうな言葉を絞り出せたのに、横からの衝撃で全てが吹っ飛ばされる。横からすごい勢いで抱き着かれたのだ。あまりの勢いに目を白黒させていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。
「だいちゃーん!会いたかったーっ!」
『大樹さん!大丈夫ですか…って…だ、だいちゃん…!?』
まずい。悠美さんに大変な誤解が生じている。向こうには、俺が女性に抱き着かれている映像が届いてしまっている。普通に考えると、完全に浮気発覚。悠美さんとの未来がはじけ飛んでしまうわけだが、それは誤解なのだ。
「か、母さん。久しぶり。でも、今、電話中だから…。」
そう。俺の母である。
「電話?あら、かわいい女の子!」
母さんにスマホを強奪される。飛行機のなかで散々に考えた会話プランは、あっけなく崩壊した。悲しい。
『お母さん…?あ、大樹さんのお母さん?は、はじめまして。桜井悠美と申します。』
「あらー、良いこじゃない。はじめましてー。大樹の母です!…大樹、結婚したの?」
話が早すぎる。
「お付き合いをさせていただいている方ですっ!」
「彼女ちゃんかー!で、いつ結婚するの?」
『え…えっと…その、あの…。』
質問は俺に向けられたものだが、スマホから戸惑いの声が聞こえてくる。俺だったら普通に通話終了ボタンを押しているところだが、あまりの迫力に気圧されてしまったのだろうか。申し訳ない。
「いや…だから…。ああ、もう!スマホ返してよ。」
「照れちゃってー、かわいいんだから。はい、どうぞ。」
受け取ったスマホ、画面を見るのが怖すぎる。俺は母さんのテンションを知っているから、こんな感じでいられるが、悠美さんは初対面。しかも「結婚」などという、なかなかに重たい単語が100マイル級のストレートで飛んでいったのだ。
「ご、ごめんなさい。あの、決して悪気があるとか、そういうわけでは…。」
平謝り。
『び、びっくりしました。でも…大丈夫です!』
―――恥ずかしがってる顔もかわいいな…って、そうじゃなくって!
「あの…。」
『はい。』
「またホテルに着いてから、かけなおしますね。」
さすがに母さんに見守られながら「彼女」と話すのは…恥ずかしい。




