045 痛覚
今日は朝から足取りが軽い。
悠美さんから、「明日、とっても楽しみです!」なんてメールをもらったのだ。昨日のもやもや感から一転、朝からテンションが急上昇中。全国大会優勝の喜びも相まって、感情がストップ高まで到達している。
たった数メートルの道のりを、鼻唄まじりのスキップ。
「俊、おはよー!」
自分でも、信じられないくらい大きな声が出た。展望台でやまびこを狙った時以上な気がする。
「…うーん…おはよう。元気だね…。」
俊、かなり朝が弱い。それを知っていてのハイテンション、これは俺が悪かった。加えて近所迷惑。二重にごめんなさい。
「あ…ごめん。うるさかったいよね。申し訳ない…。もう入ってても良い?」
「うん。あ、ワシさんは11時に来てくれるって。撮影それからねー。ふわわわぁん…。」
「おっけ。お邪魔します。」
俊のあとに続いて、撮影部屋へと入る。
俊はそのままソファーにダイブ。「30分したら起こして」という言葉をのこし、寝息をたてはじめた。パソコンを見ると、動画の書き出しが進んでいる。この時間まで編集作業が続いているということは、何かトラブルがあったのだろう。仕事とはいえ、俊も大変だ。
―――楽しそうに見えるけど…厳しい世界なんだな。
俊曰く、楽をしようと思えばできるらしい。しかし、その結果は、良くも悪くも「再生数」として返ってくる。俊は「答えのない世界」と表現したが、的を射た表現だと思う。
それから俊の代わりにパソコンを見守り続けること30分。…もとい、パソコンの横で悠美さんからのメールを眺め続けて30分。玄関の呼び鈴がなった。
「はーい。」
俊を起こして、玄関へと向かう。おそらくワシさんだ。
「はじめまして。黒川です。今日はよろしくお願いします。」
玄関先で深々と頭を下げられた。
「あ…えっと。先日はありがとうございました。香坂です。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「よろしくお願い…ん…?あ、ダイキ選手じゃないですか!あれ…ダイキ選手ってシュンカンゲームズのシュンさん?いや…確かダイキ選手はゲストというお話…?」
ワシさん、盛大に混乱中。俺から状況を説明するよりも、俊が来てくれた方がはやい。
―――ドガッ!
俊を呼ぶため振り返ると、信じられないほどの鈍い音が玄関先まで届いた。
「痛っ!…お待たせしてすみません。シュンです。今日はよろしくお願いします。」
盛大に小指をぶつけた俊が、苦悶の表情を浮かべつつ、玄関へと向かってくる。さすがに心配になる音だったため、ワシさんと俺が顔を見合わせる。
「よろしくお願いします。…あの、大丈夫ですか?」
「すごい音だったけど…。」
「…ん。大丈夫です。…やっぱり…冷やしてきます。」
その方が良いと思う。




