044 転換
「おーい、俊。来たよー。」
特に約束をしていたわけではないのだが、来てしまった。この部屋、俊にとっては仕事場にあたるので、邪魔になるようならば退散しよう。
「あれ、大樹?…今日、全国優勝して、大好きな人に会えたやつの表情じゃないな…あー、悠美ちゃん来てくれたけど、自分が空回りしすぎていたたまれなくなったん?」
なぜわかる。超能力の類か。いや…そんなに顔に出ているだろうか。
「だって、いつものことじゃん。」
「…。」
見事なまでにバッサリときられてしまった。中学時代…まあ、いわゆる初恋もこんな感じだった。その時は見事にフラれ、俊に励まされた記憶がある。
あれから俺も成長したつもりではいる。同じ轍は踏まないつもりだったが、今日の様子を見る限りはかなり怪しい。その場でフラれなかっただけ、ましだと思わなければ。
「まあ、良いんじゃない?装っても長く続かないよ。」
どうやら無理をして格好をつけていたのも、ばれていたらしい。さすがに俊の目はごまかせない。
―――嫌われたりしてないかな…。
不安でしかたがない。というか、今日一日、テンション乱高下。緊張感、開放感、達成感、不安感がジェットコースターの様相。
まあ、さすがにこのテンションのままでは俊に申し訳ないので、そろそろ普段の感じに戻ろう。
「ところで、動画の編集はどんな感じ?」
「まあまあかな。もう少しで公開できそう…って、忘れるところだった!東のおっちゃんから手紙預かってるんだった。」
「おっちゃんから?」
優勝の報告に伺おうと思っていたのだが、何かあったのだろうか。
「うん。ほら、世界大会の関係者登録。」
会場には当然ながら、関係者しか入ることのできないエリアというものがある。そのなかにもランクというか、制限のレベルがあって、例えば運営関係の人しか入れないエリアや、出場選手しか入れないエリアなどがある。
俊や東のおっちゃんは、規則上は、俺のスポンサーという立場になる。説明を受けた限りでは、一般のギャラリーさんとそれほど大差ないように思えたが、規則は規則。しっかりと申請しておかなければならない。さっき登録用紙のデータをもらって、ひとまず二人にメールしておいたのだ。
「ああ、関係者パスのやつか。でもあれって、提出期限まで3週間くらいなかったっけ?」
「しばらくお店休んで、サーフィンの練習に行くんだって。」
「…。」
納得しすぎて声が出なかった。しかし、おっちゃん、本業の方は大丈夫なのだろうか。少々おせっかいな気もするが、FPSの筐体、そんなに安いものではなかったと思う。
「あとは…あ、明日よろしく!」
「おう。何か台本的なものあったほうが良い?」
明日はシュンカンゲームズとワシさん、コラボ動画の撮影だ。一応、スペシャルゲストというかたちで、俺も呼ばれているのだ。
「取材受けてたときの感じで良いと思うよ。専門的なことはワシさんに丸投げだし。」
知識、ビギナー。戦術、ビギナー。反応無双だけで勝ちとった全国優勝者という看板。解説要員としては、悲しいほどに不適なのだ。
「確かに。じゃあ、そういうことで。」
「うん。また。」
帰り道、わずか数メートルの距離。いつもなら何とも思わない止まれの標識が、浮足立っている俺に現実感を与えた。冷静に考えてみると、ここ数日の出来事、インパクトが大きすぎた。全国大会優勝にひとめ惚れ。
人生の転換点が訪れている。




