043 鼓動
動画の撮影は30分ほどで終了した。これで全国大会の全日程が終了。あとは世界大会に向けて、練習を積むのみ。
「撮影、お疲れさま。はい、炭酸で良い?コーヒーもあるけど。」
「ありがと。炭酸いただきます。」
関係者スペースでパソコンを広げている俊と合流。
「ちょっと待ってね。もう少しでアップロード終わるから。」
「おう。」
プシュッ、という音が人通りの少なくなった廊下に響く。
「…よしと。帰ろうか。」
「うん。慌てんけど良いの?」
「あ、もしかして悠美ちゃんのこと待ってる?」
図星。
「…。」
「仕方ないなー、シュンカンゲームズの方の撮影は明日で良いよ。」
どうやら背中を押してもらえているらしい。
「…いいの?」
「まあ、待ってても来てくれなかったときは、なぐさめてあげるよ。撮影しながら。」
「…ありがと。」
そんなこんなで俺は会場外にあるベンチに腰をおろした。俊はまだまだ動画の編集がたまっているらしく、先に帰っているとのこと。俺の記憶が正しければ、模試は3時くらいに終わったはず。
まあ、会えたらうれしいな、くらいの感じ。
「うわっ!?」
突然のバイブレーション。
「あ…。」
―――あの…まだ会場にいらっしゃいますか?
『はい。います。』
―――北口のあたりにいるんですけど…。
『あの…そっちに行きます。』
俺がいるのは南口。ちょうど間反対。よくよく考えると、悠美さんの学校は隣町だ。隣町からのバスが止まるのは、北口のほう。
まだ会場は片付けの最中。会場内の最短距離を突っ切ろう。
■
―――あっ!
入口の柱を背に佇む女性。白い柱に黒い制服のコントラスト。夕日に照らされ、どこか幻想的な雰囲気がある。このまま走り続けたいところだが、俺の小さなプライドがブレーキをかけた。息を切らすほど走ってくるなんて、何かこう、恥ずかしい。
「…。」
あと10メートルというところで、必死に息をととのえる。こんなプライドにさよならできたら、どれだけ楽だろうか。
「桜井さん。」
さすがに「悠美さん」とは呼びづらい。前のめりになり過ぎると、遠ざかってしまう。仲良くなりたいときほど、節度をもった距離感が大切。と、まあ、一般的な恋愛の方程式だけは良く知っているつもりだ。
―――それでも…1+1が2にならないときがあるから、難しいんだけどね…。
知識だけでうまくいくほど、人間関係は甘くない。十数年そこそこの人生経験から得た経験則。
「大樹さん!優勝、おめでとうございます!」
「あ…ありがとうございます。」
ととのえたはずの鼓動がとびあがる。一足飛びで距離をつめられたときの対処、残念ながら俺は知らない。
その後は、空回りする俺と、それを優しく受け止めてくれる悠美さんという…大変に申し訳ない構図が続いた。ずいぶんとたどたどしい歩き出しだが、将来、そんなこともあったねと笑いあえる日が…来てほしい。




