040 表情
俊に連れられ、何とか関係者スペースへと移動。途中で何度も声をかけてもらえた。うれしい。
「悪いわるい。大樹が有名人なの忘れてた。」
「俊の方が有名でしょ。」
あらためて有名人なんて言われると、ちょっとドキッとする。照れ隠しでツッコミをいれておいた。俊は登録者100万人ごえの実況者なのだ。顔出しをしていれば、こうやって関係者スペースに逃げ込むことになるはず。
「優勝しちゃったな。」
「おぉ、優勝してしまった。」
未だに実感がない。そんな俺を現実に引き戻してくれるのは、スマホのバイブレーション。さっきから全く止まらない。画面にはメールの山。
―――ん…?ほとんど東のおっちゃんじゃん。
どうやらスマホの操作をミスったらしい。本文なしのメールが大量に届いている。
「だーい好きな悠美ちゃんからのメール、ありましたか?」
またしてもいじられる。まだ、付き合っていないのだから、もう少しそっとしておいてほしい。
「だーもう、いいから。あ…。」
「あ、来たんだ。良かったじゃん!」
俊にはバレバレのようだ。そんなに顔に出やすいタイプだろうか。
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――――――すごいです!おめでとうございます!今度のデート(?)とっても楽しみです!
「むふふふふ…。」
ニヤニヤが止まらない。どうしよう、このまま動画撮影が始まったら、俺のニヤニヤ顔が全世界に配信されてしまう。恥ずかしい。
―――ありがとうございます…俺も楽しみです!…っと。
「ああ、いたいた。ダイキ先生。」
インテグラルの結城社長だ。俺のことを探していたらしい。撮影まではしばらくあるはずなのだが、何かあったのだろうか。
「あ、社長さん。何かありましたか?」
「実はね、取材の依頼が来ているんだ。慌てることじゃないんだけど、撮影まで少し時間もあるし、先に済ませちゃっても良いかな、と思ってね。あ、もちろん受けるかどうかは自由だけど。」
ゲーム関連雑誌の取材らしい。取材なんて初めてなのだが、俺には強い味方がいる。そう、俊。有名動画実況者として、多くの雑誌で取り上げられている。当然ながら、取材を受けた経験も豊富。
「わかりました。よろしくお願いします。…俊、よろしく。」
「ん…俺?あ、そういうことね。任しといて。」
俊が自分の胸を叩く。大船に乗ったつもりでいよう。
「じゃあ、会議室の方へ。あ…えーっと?」
そういえば社長さんと俊、初対面だった。
「あ、初めまして。古川俊です。大樹の友人兼スポンサーです。」
「これはこれは。インテグラルの結城です。」
動画投稿者であることは言わないのだろうか。まあ、その選択は俊にしかできないので、俺がタッチするところではないか。




