037 反撃
まさか大技の「霰覆し」を、フェイントのためだけに使ってくるとは。
会場から歓声が上がる。最初の状態異常攻撃から、全て計算されていたのだろう。俺が見た対戦動画では一度も登場しなかった技。俺がこのゲームを始めて日が浅いということもわかったうえでの筋書きなのだ。
―――焦らされた…。
今まで続いてきたノーダメージが破られ、しかもよくわからない状態異常を付けられれば、さすがに判断力が鈍ってしまう。処理しなければならない情報が増えるほど、どうしても反応速度は落ちていくのだ。
そこに準々決勝で俺が見た戦術を入れ込んでくる。「桜吹雪」のあとは「霰覆し」だという思考に無意識ながらとらわれていたのだ。それを利用してのフェイント、そしてそもそも回避が難しい「春霞一閃」につなげる。
完璧なストーリー。
―――くっ…。
掌の上でころがされて、シンプルに悔しい。経験値の差というべきか、実力の差をうまく利用された気がする。
―――でも…まだ、負けたわけじゃない。
想定外の戦術ではあるが、ここで焦る必要は何もない。カナさんの手の内は全て把握した。俺の驚きを利用することは、もうできない。カナさんは距離をとっているが、必ずどこかで攻め込んでくる。このまま進んで引き分け再試合となれば、手の内を知る俺に分があるのだ。
『さあ、再び試合は膠着状態。両選手、すべての技が使える状態ではありますが…カナ選手は手の内を全て明かしている状況。しかも苦悶の霞は一度しか使用できない技。一方のダイキ選手、地方大会を含めて現在まで、一度も技を使用していません。どんな隠し玉があるのか!?』
ご期待に沿えず申し訳ないのだが、隠し玉などない。技は隠していたわけではなく、単純に使っていないだけ。
―――待てよ…。俺も技が使えるんだよな…。
試合前に惰性で登録した技に目をやる。どうせ使わないと思っていたが、ここまで来たら使えるものはなんでも使おう。
―――これなら…うん。
一拍置いて、初めて操作するボタンに手をかける。
『散れ…桜吹雪!』
さあ、反撃開始だ。




