036 焦燥
決勝戦が始まった。ルールは今までと何も変わらない。緊迫の2分30秒が幕を開けた。
『さあ、始まりました、決勝戦。まずは両者、様子を伺います。』
達人の間合いというやつだろうか。カナさんは仕掛けてこない。俺はカウンターしか手がないので仕方がないことなのだが。
ただ、このまま時間が過ぎていくと、少し困ったことになる。お互いにダメージが与えられないのだ。それでは決着がつかなくなってしまうので、一定時間攻撃可能圏内から離れると、ダメージを受けるという設定がされている。つまり、相手の間合いに入らないと、どんどんとダメージを受けていくということなのだ。
このペナルティ的な要素は、リードしている側にかせられるもの。現状ではどちらも体力満タンなので、両者ともにダメージを受けることとなる。
―――うう…このままだと俺のノーダメージ記録が…。
突っ込むべきかどうか逡巡していると、初めて見るカットインが現れた。
『苦悶の霞…!』
主要な技は全て見てきたはずなのだが、初見。技名的に攻撃系だとは思うのだが、攻撃のモーションはない。
―――ん…?何だったんだろう…?
疑問が思考を覆った瞬間、体力ゲージがわずかに減った。
「えっ…?」
思わず声がもれてしまう。攻撃を受けた様子はない。疑問に覆われた思考が、疑問に支配される。何が起きたのか。
考えられる原因は「苦悶の霞」という技だ。ただ、俺はその答えを知らない。必死で画面を探すと、俺のキャラクターについている、一つのアイコンに気づいた。
『おーっと!これは珍しい。カナ選手、苦悶の霞を使用しました。』
『状態異常ですね。いやー、私も久しぶりに見ましたよ。これは回避できませんからね。』
実況さんに解説さんが合いの手を入れる。
答えはまさかの状態異常。10秒ごとに、継続したダメージが入ってくる。まさかこんな技があったとは…。
―――落ち着け…状態異常で10秒ごと…削り取られることはないな。ないけど…このままだと。
時間切れで俺の負け。打開策を見つけなければならないが、カウンター以外に俺の打てる手はない。設定している技だって、一度も使ったことがないのだ。
どうすることもできないまま、時間だけが過ぎていく。会場からはどよめきの声が上がっているが、これも立派な戦術だ。対応できない俺が悪い。
『さあ、これで3分の1のダメージが入る。問題はここから。状態異常ではこれ以上ダメージを稼げない。ストーリーテラーがつづるのはどんな展開なのか!?』
どうやら3分の1以上のダメージは受けないらしい。さっきまでピコピコしていた、状態異常を知らせるアイコンも消えている。何とか立て直さなければ。
そのわずかな安堵感を狙いすましたかのように、「春霞一閃」のカットイン。
―――やべっ!
わずかに反応が遅れてしまった。回避はできたものの、カウンターまでつなげることができない。
『散れ…桜吹雪!』
カナさんの連続攻撃。ここまでくるとさすがに予想がつく。最後の一撃は、間違いなく「霰覆し」だ。準々決勝と同じ展開。あの時の焦りを見透かされていたのだ。
思考が追い付いてカウンターをするが、残念ながら「桜吹雪」には吹っ飛ばし無効の追加効果がある。ここはかわしきれるとしても、次からが問題。
『線上に揺蕩う粒…霰覆し!』
―――ですよねっ!
狙うは初撃のみ。これをカウンターできれば、五分に戻すことができる。最初の状態異常攻撃は想定外だったが、これより先はいつも通り。
回避のコマンドを入力した瞬間。
―――あれ…?
「霰覆し」に割り込みがかけられ、別の技が放たれる。
『春霞一閃だー!ダイキ選手、初めてまともなダメージを受ける!』




