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034 変更

「ふえーっ…やばかった。」




控室に移動し、しばし休憩きゅうけい



次戦まで3試合ほど。決勝が近づくほどインターバルが短くなるので、ここでしっかりと休んでおきたいところ。ここにいるのは決勝ステージに進んだ8人と、その関係者の人たちのみ。動画をみたり、体操(たいそう)したり、皆さん思いおもいに過ごしている。



いているイスを見つけたので、とりあえず腰を下ろす。音楽でも聴こうスマホは持っているが、イヤホンを忘れてしまった。荷物はしゅんに預けているし、わざわざ取りに行くのも面倒。




―――まあ、座って待つか。




「あの…すみません。そこの飲み物、とってもらえませんか?」




女性から声をかけられた。視線の先にはペットボトルが数本並べられている。「ご自由におとりください」と書いてあるので、俺も一本もらっておこう。というか、テーブルの前に座っていたので、完全に邪魔じゃまをしていた。これは申し訳ない。




「あっ!…すみません。どうぞ。」




「ありがとうございます。」




女性はそのまま部屋を後にする。どうやら試合順が回ってきたらしい。決勝ステージのスケジュールを確認すると…。




―――えーっと…カナ選手か…。えっ、前回優勝者!?











「おーい、大樹(だいき)。」




俊が入口のドア付近から、俺を呼んでいる。(まね)ねこのごとく手を振りながら。俊も関係者だから入ってきても良いはずなのだが。




「どうしたん?って、入れば良いのに。」




重すぎる腰をあげて、入口へと歩を進める。




「いや…あんまりうるさくすると悪いかな…と思って。」




「うるさくするつもりやったんかい。」




定型文だとわかってはいるが、軽くツッコミを入れつつ廊下に出る。俊の表情が結構、真剣なので、真面目な話なのだろう。




「それで、何かあったの?」




まさかイヤホンを忘れたことに気づいて届けてくれた、なんてことはないと思う。カバンの奥底おくそこに眠っているはずだし、受け渡しくらいならばうるさくなることもない。




「いや…決勝戦の相手なんだけどさ…。」




まだ準決勝が残っているというのに、ずいぶんと気の早い話がはじまった。まあ、優勝するためには決勝を戦わなければならないわけで、備えるにこしたことはない。




「多分というか、ほぼ間違いなく大樹とカナさんっていう人のカードになると思う。」




「ああ、前回優勝した人ね。さっき会ったよ。」




俺が座る場所をミスって、ペットボトルをとる邪魔をしてしまった。全く気づいていなかったとはいえ、申し訳ない。




「うん。ここ数年日本人トップに君臨している選手で、プロゲーマーさん。世界大会でもベスト4まで駒を進めた猛者。」




想像以上の人だった。FPSが日本のゲームとはいえ、世界大会で活躍できるレベルとなると、かなりすごい。世界大会の出場枠は8つ。つまり世界大会ベスト4というのは、世界大会で1勝したことを意味している。…今更知ってもどうしようもない情報なのだが、知らせてくれてありがとう。




「本来はコンボ主体の戦術らしいんだけど、さっきの試合で…あ、まずはベスト4進出おめでとう。それで、大樹がゲンさんのコンボを全部止めたじゃん。」




「うん。まあ、結構危なかったんだけど。特に最後。」




見栄みえをはっても仕方がないので、正直に話す。最後は本当に危なかった。コンボ主体の戦術は、一度とらえられると受けが難しい。カウンターといえど、その実は回避と通常攻撃に過ぎない。回避できないと、何も始まらないのだ。




「おそらく戦術を変えてくると思うんだよね。世界大会のときと、今日のカナさん、戦術全く違うし。」




普通ならば「こちらの土俵(どひょう)に引き込んだ、やったぁ。」となるところだが、カナさん相手ではそうも言っていられないよう。全国大会のレベルで戦術の変更がきくとは…。




「まあ、大樹なら大丈夫だと思うけど、とりあえず伝えとく。見たこともない戦法を使われるかもしれんし。」




「ご忠告(ちゅうこく)、感謝。何とかするよ。おっちゃんもサーフィン行きたくてうずうずしてるだろうし。」




世界大会の会場、昨日の開会式で発表された。南の海に浮かぶ島国。リゾート地として有名で、海が透き通っていてとってもきれい。以前、サーフィンの大会も開かれていたはずなので、おっちゃんにとっては最高の場所だろう。


なんで妙に詳しいかというと、実は母の出張先なのだ。




―――母さんと会うの…久しぶりだな。

お読みいただき、ありがとうございました!

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