003 景品
「昼からでも良い?俺、午前中に歯医者さんの予約入れてるんだ。」
「もちろん。じゃあ、1時くらいに、ここで。」
スマホを取り出し、スケジュール管理のアプリを開く。時間だけ入れておけば、忘れることもないだろう。
―――あらら…充電ないじゃん。
ここのゲームセンターと家は目と鼻の先。そんなに困らないが、コンビニエンスな現代社会を謳歌する俺にとって、スマホの充電がないということは、結構な危機。急いで帰らねばと腰を上げた瞬間。
「お、いらっしゃい!」
東のおっちゃんだ。サーフィンが唯一無二の趣味で、臨時休業が掲げられているときは、十中八九、海へ遊びに行っている。日焼けした肌とはちきれんばかりの筋肉。俺の細い体躯とコントラストをなしている。
「ども。」
ペコリと頭を下げる。顔をあげると、なぜかおっちゃんがにやにやしている。俺の顔に何かついているのだろうか。
「大樹君にお知らせがありまーす!はい、これ。」
おっちゃんに1枚のチラシを渡された。
「ありがとうございます…えっと、大会予選会のご案内?」
FPSというゲームの大会。レトロゲームに勤しむ俺でも知っている、超有名タイトルだ。基本的には格闘ゲームに分類される…と思う。特徴としては、技を自分でセットできるところ。攻撃に偏った技構成にすると、防御が手薄になる。その逆もまたしかり。そこに戦術性が生まれ、ネットにはさまざまな技構成が紹介されている。
「おぉー、FPSじゃん。」
「俊、やったことあるの?」
俊はあまり格闘ゲームを好まないので、少し意外だった。さっきのゲームは付き合いで遊んでくれているだけ。
「うん。まぁ、再生数が上がるし。」
「なるほど。」
俊はゲーム実況の動画投稿者として、それなりの地位を得ている。特にシミュレーションゲーム界ではかなりの有名人。公式大会にゲストプレイヤーとしてお呼ばれすることもあるらしい。いわゆる顔出しはしていないため、中の人が高校生であることを知る人は少ない。
それにしてもおっちゃん、なんでこのチラシを俺に。
「ほら、優勝賞品のところ。」
おっちゃんが指さした先、そこには。
「あっ!これっ!」
思わず大きな声が出てしまった。欲しくてほしくてたまらない、最新のゲーム機ではないか。何回見てもたまらない近未来的なフォルム。今も魅力的なタイトルが続々とリリースされている。
大会の規模がどれほどかは知らないが、参加してみる価値はありそうだ。大会の日程は…。
「げっ!3日しかない…。」
エントリーに至っては今日の5時まで。あと30分しかない。実は昨日までテスト週間で、ここには顔を出せていなかったのだ。ぎりぎり間に合ったので、幸運だったと思おう。
「これ、エントリーの書類ね。親御さんの同意書は、当日までに届ければ良いから。」
「ありがとうございます!」
もうゲーム機を手に入れた気分になっている。捕らぬ狸の皮算用。