025 感覚
本作の記述内容(反射に関する記述を含みます。)は、実際の科学的意義と大きく異なります。ストーリを展開するうえで作者が創作したものであり、架空の設定に過ぎません。あくまでもフィクションとしてお楽しみください。
薄々感じてはいたのだが、俺のカウンター、やっぱりおかしいのだ。トッププレイヤーさんの動画を何度か視聴したけど、カウンターが決まりまくるようなシーンはなかった。だからこそコメント欄で騒がれているわけで、俺の特異性を物語っている。
俺の体感を表現すると、次のようになる。
ゲームの画面に集中すると、普段よりもスローモーションな世界が見えてくる。相手の攻撃も当然ゆっくり確認できるわけで、あとはそれに合わせて回避の操作をする。返す刀でカウンター。そんな感じ。
―――多分、一般的には反応できない速度なんだよね。
とんでもなく記憶力が良い人、計算機並みの計算速度を持つ人。人類の可能性は無限大だ。俺のように反射速度がすごいという人がいても、不思議ではない。
というわけで今から受けるのは「反射」の検査だ。もちろん医学的なものではなく、ゲーム機械的な検査に過ぎない。正確な測定ではないのだが、どのタイミングでボタンが押されたか、その記録をみることができる。普段ならば見ることのできない、プログラム上の数字を確認できるのだ。何だかこう、テンションが上がる。
「こちらが、簡易版FPSです。」
開発の遠井さんが、セッティングを始めている。俺の隣に鎮座している筐体とは異なり、一般的なノートパソコン程度の大きさだ。ゲーム機の小型化が進む現在、もしかしたら携帯型ゲーム版FPSの登場も近いのかもしれない。
「機能は製品版とあまり変わりません…よいしょっと…技については、どう設定しましょう?」
「えーっと…どれでも大丈夫です。多分、使わないので。」
画面を見ても、製品版と大差はないと思う。違いがあるとすれば、背景が真っ白になっていること。プレイするうえで特に問題はないのだが、なんだか不思議な感じがする。機器の背後からのびるケーブルはパソコンにつながっており、俺ではさっぱりな文字列が並んでいる。
「それではこちらで操作しますので、プレイをお願いします。」
準備は整ったらしい。
「はい。」
大会のときとは、また違った緊張感がある。対戦相手…というか、相手キャラクターを操作しているのは遠井さん。伝えられてはいないが、おそらく「炎陽」や「春霞一閃」あたりをカウンターしなければならないのだろう。
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特に合図はなく、ぬるっと始まった。
―――まずは…集中、集中。
やることは普段と何も変わらない。いつも通り相手キャラクターの動きをしっかりと見る。
「通常攻撃から行きますね。何度か試しますので、カウンターをお願いします。」
「はい。」
相手キャラクターの右腕が動く。少し構えが変わった。溜めた力を解き放つかのように、右ストレートがとんでくる。人間でいえばまだ肘が伸びきっていない、肘が体側と重なるタイミング。
―――ここっ!
身体をそらせての回避。そこからカウンター。
「おぉ!大樹、すごいな!…あ、すみません…。」
おっちゃんの声に反応したいところなのだが、さすがにそこまでの余裕はない。次の攻撃に備える。
また同じ動作が始まる。右腕が少し下がり、力を溜めるような構えに入る。腕が前方向へと動き出し、パンチがくりだされる。回避のタイミングは、さっきと同じ。肘が体側と重なる瞬間だ。
―――よいしょっ!
ちょっと余裕が出てきた。一発目よりは緊張もほぐれてきた。
「あ、ありがとうございます。」
遠井さんが狐にでもつままれたような表情をしている。おそらく俺のプレイ動画は見てみえると思うのだが、やはり現実で見るのはまた違うのだろう。
ちなみに社長さんは、おっちゃんと全く同じ目をしている。




