002 連勝
もう一勝負、と思いポケットを探るが、10円玉が3枚のみ。両替をしてまで続けるほどの熱量はないので、今日はここまでにしよう。とりあえず、自販機コーナーのイスに腰かける。
「やっぱり大樹には敵わん…。」
炭酸飲料のフタを開ける音が、俊の声をかき消した。
「ん?なんか言った?」
「いや、何でも。そういえば、新しいリズムゲーム入ったらしいよ!さっき東のおっちゃんが宣伝してた。」
東のおっちゃんとは、ここの店主さん。ゲームセンターの開業が、確か俺が小学校に入ったときだったから、もう10年来の付き合いとなっている。両親が家を空けることの多い俺にとって、頼れる大人の一人。
「リズムゲームかぁ。ゲーム機の賞品とかついてないかな?」
「大樹、最近そればっかじゃん…。」
俊に呆れられてしまったようだ。というのも、最近の俺は、最新のゲーム機が買えなかったことで頭がいっぱいなのだ。正確に言うならば、予約の抽選を突破できなかった。
お年玉をせっせと貯め続け、古着屋のバイトで帳尻を合わせ、やっとの思いで準備した大金。使うあてが無くなってしまった。今更言っても仕方ないのだが、連勝記録にこだわらなければ、もう少し早くお金を貯めることができたと思う。タイミングが違えば、当選していたかもしれない。この何とも言えない後悔を、半年前の俺に伝えたい。
「でも、さすがにちょっと飽きてきたし…今度試しにやってみようぜ。」
本音が漏れてしまった。
さっきやっていたのは格闘ゲーム。使用するキャラクター程度ならば選べるが、基本的にカスタマイズできる部分はない。その分プレイヤースキルが試される。完璧な解答などない、そんな感じでやり込んできた。
ただ、100連勝したあたりから、若干の「飽き」を感じ始めた。簡単に言うと、自分のなかで作業ゲーになってしまったのだ。相手の攻撃を見切り、ただカウンターを当てる。それだけ。単純なゲームは、一般的に「奥が深く飽きづらい」と聞いていたが、やはり限度はあるのだろう。
―――でも…趣味っていう趣味もないし。
一時期、あるマンガにドはまりしたことはあるのだが、数カ月前に最終話を迎えてしまった。足跡が描かれた最後のコマを見たときの感動、今でも鮮明に覚えている。思いで補正もかかり、他の作品を食わず嫌いならぬ、読まず嫌い状態。良くないとは思いつつも、どうしたって手が出ない。
―――カメラとか買ってみようかな?
特に興味があるわけではないのだが、何となく格好良いイメージがある。俺に似合うかどうかは別として、ああいうメカメカしいものには淡い憧れがあるのだ。
行く先を無くしてしまったお金がある。良いカメラが結構な値段だと聞くが、初心者向けのカメラなら手が出せるかもしれない。
「明日さ、駅前の電気屋さん行かない?」
善は急げ。