001 反応
本作の記述(反応速度に関する部分を含みます。)には、実際の意義と異なる部分や、正確性を欠く表現が含まれています。
なぜハエを叩くことが難しいのか。
生類憐みの令がある時代ならともかく、イライラさせられた経験を持つ人が多いのではないだろうか。これが多数の共通認識であるならば、そこには必ず理由がある。
ヒトとハエでは、脳の画像処理スピード、いわゆるフリッカー融合頻度が異なるとされている。ハエはこのスピードがとてつもなく速く、世界をまるでスローモーションのように見ているらしい。
ハエを上回るフリッカー融合頻度を持つ生物ならば、容易にハエを捕まえられるのかもしれない。
■
「うわっ!あ…ちょっとまっ…。」
攻撃を完全に見切り、放たれた右ストレート。完璧なタイミング、完璧なカウンターがさく裂する。
―――ピロピロリーン
何とも言えない効果音とともに、プレイヤー2の体力ゲージが吹き飛んだ。レトロ感が漂うディスプレイには、勝者を讃えるメッセージと、100円の投入を求める表示が並んでいる。
「よっしゃい!129連勝!」
もはやゲームを楽しむことよりも、いかにこの連勝記録を伸ばせるか、そこに重点が置かれている。もちろん世界は広い。ここは地元にある小さなゲームセンターだ。この連勝記録にどれほどの意味があるのだろうか。ただ、勝利を重ねるごとに増えていくギャラリーの数。それは俺に多幸感をもたらしている。
「またノーダメかよ…どうやったら攻撃当てられるんだ…。」
「やばすぎ。まじであのカウンターはやばいって。」
「大樹先生の見えている景色は違うのか…。」
ギャラリーさんが盛り上がってくれている。しかも「先生」と呼ばれるのは初めて。頬のゆるみが止まらない。
誰かの言葉にもあった通り、俺の戦術はカウンターのみ。自分から攻撃を仕掛けることは、滅多にない。
相手の攻撃をただ見切る。そしてカウンター。ただ、それだけ。