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わだつみの歌

作者: やぶ椿
掲載日:2021/10/12





 気がついたら海にいた。


 何故いるのか、いつからいるのかもわからない。どうしたらいいのかわからず戸惑った。

 そうだ、会社に連絡しないと。思いはしたが、スマホが見当たらない。時計もない。

 どうしようもないとわかると、妙にホッとした。そう、何もないんだから、何もしなくていい。


 海は、青かった。広いかと言われれば広いと思うが、比べるものがないのでよくわからない。波がひたすら寄せては返すを繰り返している。


 自分は何をしているのだろう。早く戻らないと。何処へ?戻るべき場所などあったろうか。自分は何をしてきたのだろう。やらなければならないことなど本当にあっただろうか。

 思い出せないが、それで良い気がした。


 少しずつ、海とひとつになっていくように感じる。潮騒が鼓動のように続いていく。囁くように、慰めるように。


 血潮は脈打ち、波は返し、呼吸は深く、風となる。





 あるがまま。それで良かったのかもしれない。





 そう感じた時、目が覚めた。私は知らない部屋で天井を見ていた。過労だと聞こえた。なんとなく、どうでもよかった。あの海の余韻がまだ体に残っている。耳元で波音が響く。わだつみの歌だ。






海はただ繰り返す。


怨嗟も喜びも、刹那も永遠も呑み込んで。


海は歌う。ただ、歌う。


良いも悪いも。べきもなく。



ただ、歌っている。







拙い作品をお読みくださりありがとうございます。精進します。

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