わだつみの歌
気がついたら海にいた。
何故いるのか、いつからいるのかもわからない。どうしたらいいのかわからず戸惑った。
そうだ、会社に連絡しないと。思いはしたが、スマホが見当たらない。時計もない。
どうしようもないとわかると、妙にホッとした。そう、何もないんだから、何もしなくていい。
海は、青かった。広いかと言われれば広いと思うが、比べるものがないのでよくわからない。波がひたすら寄せては返すを繰り返している。
自分は何をしているのだろう。早く戻らないと。何処へ?戻るべき場所などあったろうか。自分は何をしてきたのだろう。やらなければならないことなど本当にあっただろうか。
思い出せないが、それで良い気がした。
少しずつ、海とひとつになっていくように感じる。潮騒が鼓動のように続いていく。囁くように、慰めるように。
血潮は脈打ち、波は返し、呼吸は深く、風となる。
あるがまま。それで良かったのかもしれない。
そう感じた時、目が覚めた。私は知らない部屋で天井を見ていた。過労だと聞こえた。なんとなく、どうでもよかった。あの海の余韻がまだ体に残っている。耳元で波音が響く。わだつみの歌だ。
海はただ繰り返す。
怨嗟も喜びも、刹那も永遠も呑み込んで。
海は歌う。ただ、歌う。
良いも悪いも。べきもなく。
ただ、歌っている。
拙い作品をお読みくださりありがとうございます。精進します。




