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人間は従順な犬ではなく、ルールがあれば抜け道を探す猿の仲間。

5歳の誕生日を迎えると、子どもたちは毎月満月の夜に森に入る。

15歳の誕生日を過ぎると、その集まりに行ってはいけない。

夜の森で何をするのか、その年代の子どもしか知らない。

大人に口外してはいけない。

それがルールだ。


僕はこの春、15歳になった。

夜の森のルールには縛られない年齢になったのだ。

だからこれを機会に、あの森で僕が見たことを書き記しておこうと思う。

中学三年生、クラスには15歳を過ぎた人と、まだ14歳の人が混在している。

もう二度とあの森には入らない人と、あと何回かは夜に通う人に分かれるということだ。

日常生活では何も気にならない区分だけれど、夜の森の記憶を書き記すにあたって、まだ現役で通っている人たちには決してそれを知られてはならないだろう。

ルールとしてはそこまで決められていなくても、おそらくそれはまずい。

いや、書き記す行為自体がグレーゾーンかもしれない。

でも僕は書き記したい。

誰にも言ってはいけないのであれば、一人で書いてこっそり隠しておくくらいは許してほしい。


5歳の誕生日の数日後、近所のあや姉が森への行き方を教えてくれた。

「そうちゃん、よく聞いてね」

5歳の僕はその時の説明をよく覚えていない。

ただ、年上の女の人が僕を神社に呼び出すなんて、それが最初で最後だったから、あや姉の用事の内容にドキドキしたことは覚えている。

思えば、当時15歳のあや姉は、僕の中ではもう大人だった。

説明は要するに、満月の夜、寝るときに或る事をしておくと、身体は眠ったまま、夜の森に行く事ができるというものだった。

或る事、が何なのかは、夜の森で伝えられる。

だから起きているときに誰かに教わらないといけないのは、初めの一回だけだ。

「今夜が満月だから、絶対に忘れちゃだめよ」

あや姉の真剣な眼差しが少し怖くて、もし忘れちゃったらどうなるんだろうと心配もあって、でも子どもの好奇心はおもしろそうな非日常の気配を決して見逃さないのだった。


夜の森はまるで、少し濃いだけの夢だった。

すべてを鮮明に覚えているわけではない。

行ったことはわかるけど、それがなんだったのか、目が覚めた瞬間からほどけて薄い雲のようになる。

時々、なんとなく形が残る時もあれば、捉えようとしても逃れて消えてしまう時もある。

他の人はどうなんだろう、と思って、小学生の時に友達に聞いてみた事がある。

相手はタクヤ。

放課後スクールで毎日一緒に遊ぶ、信頼の置ける友人だった。

もちろん、はっきりとは聞けない。

「なんか昨日寝不足でさ、タクヤはどう?」

そんなふうに、白々しく昨晩の記憶を聞き出そうとしていた。

「へー。俺は眠れたぜ」

「夢とか見なかった? なんか、夢を見すぎて眠れない…みたいな」

「なんだよそれ。夢見てんなら寝てんじゃん」

「まぁ、そうだよね」

「変なやつ。つーか俺は夢とかほとんど見ねーけどな」

「そっかぁ」

はぐらかされたのか、本当に全く覚えていないのか。

タクヤは僕をはぐらかすようなやつじゃなかったと思う。当時の一番の親友だったから。でも、僕の記憶も確かではないし、本当に覚えていないということも有り得る。

結局よくわからないな、と思っていたら、次の日、タクヤが事故にあった。

交差点で車が突っ込んできたそうだ。

手術とリハビリで、何ヶ月も学校を休んでいた。

それ以来、夜の森のことを人に聞いて探ろうとするのはやめた。

中学校はクラスが同じになることもなく、なんとなくタクヤとは疎遠になった。


夜の森にいるとき、僕は黄緑色の発光する身体を持っていた。

それは他の子どもたちも同じだった。

真っ暗な森で、黄緑色の光が離れたり集まったりして遊んでいた。

大きな蛍になった気持ちがした。

満月の月が僕たちのすぐ頭上に降りてきていて、その下では安全に遊べた。

一人だけ、白っぽい光の子がいて、その子だけは少し違っていた。

いつもは楽しく遊ぶのに、一度だけ、その子がうずくまって泣いていたことがあった。

確か去年くらいのことだ。

「コドモ、イナイ」

と言って泣いていた。

「いるよ? 僕たち遊びにきたよ」

「今日は何する?」

「イナイ。スクナイ」

「サビシイ」

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